女同士で水着選び(※)


「おっふぉぉぉぉっはぁ〜っ!」


 ここ、夢咲モール六階レディースファッションエリアで雄叫びを上げているのは言うまでもなく赤野朱里である。白いTシャツに七分丈のジーンズ姿の彼女は口さえ閉じれば最高に綺麗である。


「ち、ちょっと朱里さんっ……は、はは恥ずかしいよぉ……」

「いいじゃないか、めちゃくちゃ似合ってるぜツンデレちゃん! さ、次はコレだ! あ、その前に写メ撮らせて〜!」

「あ、朱里さん……はうっ! 眩しいっ!」


 間違ってフラッシュ撮影した事で目を閉じた四葉を見て慌てた夏菜がツインテールをぴょんぴょん弾ませながら言った。


「だ、駄目ですっ、四葉姉さんは吸血鬼だから光に弱いんです!」


 夏菜は四葉が吸血鬼だとまだ信じているのか、それとも冗談か、分からないくらいに真剣な表情で訴えかける。朱里はやれやれと頭をかいた。


 その後も撮影会は続く。


「おお〜っ、ツンデレちゃんやっぱ可愛いよ! どうだい、私のとこに嫁がないかい?」

「もぅ……き、今日は水着を見に来たんじゃなかったの?」

「ごめんごめん、ついつい可愛いくて着せ替え衝動が……でへへ……」

「か、顔が完全に変態モードになってるし……」


 寄り道はしたが、やっとの事で目的の水着店へ。

 そこにはカラフルで可愛い水着がズラリと並んでいた。これには流石の四葉も目を輝かせた。

 しかし、人の多さに腰が引けてしまって中々店内に入れない。


「……うぅ……」

「四葉ちゃん、手を繋ごうか。」

「わたしもっ! これで大丈夫です!」


 朱里と夏菜が両方から手を伸ばし四葉の震える手を握った。四葉は二人を見ては意を決したように首を縦に振った。

 人混みに足を踏み込む四葉の横顔を見て、少し心配そうに表情を曇らせた朱里だったが、すぐに気を取り直して水着探しを開始した。


「こんなのどう?」

「き、際ど過ぎだよっ!」


「これはどうです?」

「浮き輪付き……それは流石に……」


 水着探しは難航を極める。

 今回、こうして水着を探しに出る決心をしたのには理由がある。プールに出掛け可愛い水着姿を咲良に見せつけてキュンとさせてやろうと企んでいるのだ。まずは四葉を妹としてではなく、女として意識させる作戦という事。


 四葉のスリムな身体ではどうあがいても星子ボディには敵わない。星子にビキニなんか着て来られたら咲良の目線は星子一直線になってしまうだろう。

 ラノベ同好会のメンバーは星子を嫌っている訳ではない。寧ろ仲良く出来そうだと朱里は思っている。しかし恋の問題は別だ。


 あくまで二人は四葉の恋を応援する立場だ。そこは譲るわけにはいかない。

 エロさでは勝てない、ならば可愛さで勝負。

 小さな胸でもしっかり膨らんでいる。敢えてそれを強調するように上は大胆にビキニで。そして下は短パンのような水着を合わせてみる。

 その上から薄いシャツと合わせて上半身の露出だけを控えめにアレンジ。


 胸で勝てないならキュッとしまったおしりと太ももで勝負すると朱里はコーディネートする。


「四葉ちゃん細いなー、腰なんか最高じゃん!」

「く、くすぐったいよ……」

「水着はこんな感じかな。後は……う〜ん。」


 朱里は首を傾げる。


「朱里さん?」

「よし、切ろう。」

「え? ……えっ!?」


 これには夏菜も「何と!」と驚きの表情を浮かべた。水着を購入した一行は咲良の待つアパートに帰る前に寄り道をする事に。




 ……


 一方、アパートで待つ咲良は一人ラノベを読み込んでいた。咲良がふと欠伸をした時だった。


 玄関のチャイムが鳴り訪問者の来襲を告げる。

 咲良が玄関を開けると、


「また来ましたよ。お兄さん。四葉ちゃん、いますか? いますよね?」


 咲良は観念したかのようにため息をつき、


「四葉ちゃんなら今出掛けてるよ。秋野ちゃんには負けたよ。四葉ちゃんは訳あって今、ここで寝泊まりしてる。秋野ちゃんに謝らないとって落ち込んでたよ。もうすぐ帰って来ると思うから上がって待ってなよ。」

「そ、そうなんですか……四葉ちゃん……分かりました。それじゃお邪魔しますね。」


 秋野彩月は靴を脱ぐとそそくさとリビングへ。

 そしてちょこんと座る。


「いつかは会わなきゃいけないんだ……すれ違いが長いよりは早い内に解決した方がいいよな。」


 独り言を呟き咲良は彼女の待つリビングへ足を運んだのだった。

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