作戦会議


「……ほう、それは興味深い。ツンデレちゃんの身体を狙う新たな刺客の登場かぁ。」


 四葉ちゃんの身体を狙っているのは朱里さん、アンタだけだよ。

 朱里さんは四葉ちゃんの肢体を舐めるように見ながらヨダレをジュルリする。ナツナツは大きな瞳を瞬かせながらその様をじっと見る。


 駄目だナツナツ。あまり見ては行かんよ。


「四葉姉さん、その控えめを更に控えめにした感じのボデ〜ラインが何とも愛くるしい……そんな姉さんを狙いたくなる気持ちは分からなくもない、です。」と、首を縦に振るナツナツ。


 というか、お前もかナツナツ。

 あまり僕の妹を視姦しないでもらえるだろうか。確かに四葉ちゃんは可愛いけれど、そもそも秋野ちゃんは身体を狙っている訳ではない。


 僕はそんな頭のネジが飛んでいる二人に、何とか四葉ちゃんと秋野ちゃんが仲直り出来たらなと簡単に説明した訳だ。二人は冗談もそこそこに、真剣に頭を抱える。

 暫しの沈黙の後、ツインテールが跳ねる。


「や、やっぱり皆んなで遊ぶってのは?」


 続いて朱里さんが、

「ふむ、ラノベやアニメを鑑賞しながらムフフは?」と、ヨダレを垂らす。


 すると四葉ちゃんは長い髪を指で弄りながら困り顔で首を傾げた。仕草が可愛いなぁ。


「えっとね、彩月ちゃんアニメとかラノベとか、あまり好きじゃなくて……へ、偏見があるって言うかなんというか……だから……」

「でも四葉ちゃんはラノベもアニメも好きだろ? ならそれを分かってもらうのも一つじゃない? 秋野ちゃんにそれは伝えた?」

「一度だけ本をかしてあげたんだけど……ノーコメントで返品されちゃったよ。」


 い、いったい何をかしたのだ?


「こ、これなんだけど。」


 あー、駄目だそれは駄目。

『お兄ちゃん好き好き! だーい好き!』は駄目だ。

 色々と駄目だよ四葉ちゃん。

 僕もそれは読まされたけれど、四葉ちゃんの読む中では極めて際どい内容の上級者向けだ。


「面白いんだけどな〜?」


 四葉ちゃんは首を傾げ、せつない表情を浮かべている。少しばかり天然の四葉ちゃんの初手が良くなかったようだな。


 と、その時だった。

 リビングにチャイムの音が鳴り響く。今度こそ彼女が、秋野彩月ちゃんが来たかも。

 僕が四葉ちゃんを見やる。四葉ちゃんは小さく頷くと玄関へ。


 リビングのドアを閉めた四葉ちゃんが玄関のドアを開ける音がする。大丈夫だろうか。

 あれ、この声は……


 やって来たのは久々の天野星子だった。

 星子ははち切れんばかりの胸と短い茶髪をフワッと揺らしながらリビングへ入って来ては、朱里さんとナツナツを見て小さく頭を下げる。


「は、初めまして。ボクは少し差し入れをしに来ただけだから気にしないで?」


 そう言って笑った星子の胸が弾むと同時に、ナツナツのツインテールも連動して跳ねた。星子は冷蔵庫に差し入れを入れると、


「最近忙しくてゴメン。咲良君が餓死してなくて良かったよ。四葉ちゃんがいるから大丈夫か〜。これ、良かったら食べて。タッパーはまた今度返してくれたらいいよ!

 あ、時間ないから今日は帰るぞ?」


「あ、おい星子……わ、悪いな忙しいのにさ。そ、そうだ今度プールでも行こうかなとか言ってんだけど、星子も来ないか? 仕事のストレス発散も兼ねてさ。」

「咲良君はボクの胸をそんなに見たいのかい? そうだね、また都合つけてみるよ。咲良君のお友達とも仲良くしたいしな。じゃ。ちゃんと月刊クリティカル買えよー?」


 星子は嵐のように去ってしまった。

 そんな彼女を玄関先で見送った四葉ちゃんはリビングに戻ってくるや否や僕に言った。


「お兄ちゃんのエッチ!」


 え〜……


「四葉ちゃんも皆んなで一緒にプール行こうよ? 気持ち良いぞ?」

「プールなんて人が多いところ無理だよ。お兄ちゃんは星子おっぱいが見たいだけなんでしょ!」


 そこで朱里さんが話に割り込む。


「なら四葉ちゃんだけおいて皆んなで行くとするかなー? 私も星子おっぱいに興味湧いて来たし?」

「そ、そそ、そんなっ……!」

「わたしもプール行きたいですっ!」

「夏菜ちゃんまで……うぅ……」


 四葉ちゃんは小さな胸を両手で隠すようにして縮こまってしまう。


「四葉、スクール水着しかないし、泳げないし。」

「ならば私が四葉ちゃんの水着を選んでやろうではないかっ! ひゃっはー!」

「えっ、あの……そのっ……」

「任せたまえよ! ……ほら、ゴニョゴニョ……」


 朱里さんは四葉ちゃんに耳打ちで何かを告げる。四葉ちゃんは、うんうん、と首を小さく縦に振る。そして「……よし。」と謎の気合いを入れた。

 その気合いが何かは知らないけれど、とりあえず行く気になったみたいだ。


 頬を赤らめる四葉ちゃんの耳元にいる朱里さんは、ふいにフッと息を吹きかけた。

「ひゃんっ!」と身体を弾ませた四葉ちゃんを見て、皆んなが笑顔になる。

 そこに星子が加わって、秋野ちゃんも加わればいよいよ結構なグループになる。



 ……結局、その日秋野ちゃんは来なかったけれど、約束の日まではまだ時間がある。その内来たらプールに誘ってみるとしよう。

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