秋野彩月の根気
ピンポーン、と玄関のチャイムが鳴る。
今何時だ? ……まだ朝の七時半……って、やばい、会社会社!
僕は慌てて起き上がろうとしたけれど、横で寝ている四葉ちゃんが絡まってて身体を起こせそうにない。そんな事は御構い無しに……
ピンポーン、ピンポーンとチャイムが鳴る。
四葉ちゃんの腕から何とか抜け出した僕は寝惚けた顔、まだ少しボヤける視界で玄関へ。
覗き穴を覗くと、そこには彼女がいた。
秋野砂月、昨日の今日でまたやって来たみたい。
僕は玄関のドアを開けてみる。
「おはようございますっ、お兄さん!」
「どしたの? こんな朝早くに。」
「四葉ちゃんいますか〜?」
リビングのドアを閉め忘れた。四葉ちゃんが見えないようにして凌がないと、後で殺されてしまう。
「四葉ちゃんはいませんよ。」
「またまた〜、お兄さん、ほんとはいるんですよね?」
秋野ちゃんは僕の身体の向こう側に目をやり、
「ほら、あそこに。」と、指を指す。
「いや、アレは猫だよ。」
「……え、デカくないですか? というか、昨日はあんなイリオモテヤマネコ、いませんでしたよね?」
「散歩に行ってたんだよ、放し飼いだから。」
「それ、危なくないですか?」
暫しの沈黙。
「分かりました、今日のところは帰ります。」
そう言って秋野ちゃんは去ってしまった。
これで良かったのだろうか。
翌日、そしてまた翌日、彼女は何度もここを訪れた。彼女には確信があるんだろう。
ここに四葉ちゃんがいる事。
そんな日々が一週間程続いた頃、四葉ちゃんが徐に口を開く。
「彩月ちゃんに会う。四葉、彩月ちゃんに謝る。」
「……四葉ちゃん。そうか、なら明日来たら出てあげな? 僕も休みだし。」
「う、うん。分かった。そ、それじゃ四葉は使命があるから部屋に戻るね。おやすみ、お兄ちゃん。」
「おう、おやすみ、四葉ちゃん。」
秋野ちゃんの根気勝ち、か。
これで仲直りして学校に行けるようになればいいんだけどな。
そして翌朝、僕と四葉ちゃんは来るであろう秋野ちゃんを迎え入れる為、いつもより早く起きた。
「チャイムが鳴ったら四葉が出る。」
「分かった。頑張れ四葉ちゃん。秋野ちゃんはきっと四葉ちゃんに会いたいだけなんだ。こわがる事なんてないと思うよ。」
息を呑む四葉ちゃんの喉が鳴ったように感じた。
すぅ、はぁ、と深呼吸しながら待つ四葉ちゃんの表情は不安八割、期待二割といったところか。
その時、チャイムが鳴る。
と、同時に四葉ちゃんがピクンと反応した。四葉ちゃんは「よし。」と気合いを入れると、小さな胸に手を当て深呼吸。そして、玄関のドアを開けた。
「あ、四葉姉さん、おはようなのです!」
……え。ナツナツじゃん。
「あれ? どうかしたのです? 今日は皆んなでラノベを読むって言ってましたよね?」
そうだった。会社も休みだし、朱里さんも呼んでまったりする約束をしていたのを忘れていた。
四葉ちゃんは力が抜けたようにヘナヘナと座り込んではナツナツの胸に顔を埋めた。まぁ、埋めるほどないのだけど。
「夏菜ちゃんだったんだ、ふぇ〜」
「ど、どうしたんです? 四葉姉さん。」
「いや、色々事情があってな。ま、上がりな。朱里さんも言ってる間に来るだろうし。」
ナツナツは靴を脱いだ瞬間、ひょいっと胴体を掴まれた。目を丸くしてテンパる児童を捕獲したのは知っての通り朱里さんだ。
「もう来てるんだよなぁ、おほっ、ドールちゃん今日はピンクメイドさんだな? 可愛いな〜フリフリしてて。」
「ひぇぇっ!? 出ましたですっ! く、くすぐったいですよ〜!」
何はともあれ、メンバーは揃った。
もしかしたら秋野ちゃんも後で現れるかも知れないし、皆んなには彼女の事を話しておくのもいいか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます