使命に目覚めた四葉ちゃん
今年のゴールデンウィークは長い。元号が変わった事が理由で、軽く十連休。とはいえ、僕のする事なんて知れている。なんら変わりない。
リビングのローテーブルには山積みのラノベ。ゴールデンウィークが始まって早五日、早くも五月に突入したが、かなりのラノベを読み漁ったな。
溜まっていた異世界チート勇者エロスの動画も全部見たし、ネット小説もかなり読み進めた。
——四葉ちゃん、今日も出てこないな。
ここ数日、いや、僕が酔っ払って帰ったあの日以来、四葉ちゃんの機嫌があまり良くない。僕の部屋に閉じこもって一人で何をしているのやら。
ご飯とお風呂の時は出てくるのだけど、目の下にクマなんか作って、見るからに寝不足と認識出来る。
「おーい、四葉ちゃん? 昼、何食べたい?」
すると、
「……ハンバーガー。」
と、そこは返事が返ってくる訳だ。
——僕は仕方なく着替えてアパートを後にした。
——
ハンバーガーか、久しぶりに食べるな。
確か夢咲町にはハンバーガーショップは一つしかない。しかも夢咲モールまで行かないと。こりゃ自転車の一台でも買わないと、この先が思いやられる。
そういえば、朱里さんやナツナツはどうしてるのかな? 確か朱里さんは里帰りとか言って残念がっていたけれど、——何をそんなに残念がっていたのかは知らないけど、とにかく里帰りで、夢咲町に帰ってくるのは五月の五日とか。
すると、僕の視界に小さな彼女が映る。彼女は僕の怪しい視線を敏感に察知すると、クルッと振り返った。その際、結っていたツインテールがピョンと跳ねた。——フレッシュガールこと、夏野夏菜だ。
「不審な視線を感じたと思えば、やっぱり咲良兄さんだったです。」
「不審な、とか言わないでくれ。ちょっとだけナツナツのプニプニ太ももを見ていただけさ。」
「早速事案が発生しました、です。」
ナツナツは悪戯に笑った。その小さな手には異世界チート勇者エロスの四巻が。どうやら本屋に寄ってきた帰りのようだな。——ナツナツの事だから、また公園で一人、読書と洒落込むつもりだろう。
そんな考えを巡らせていると、ミニスカゴスロリファッションのJSが僕に問いかける。
「咲良兄さんは何を?」
「僕は昼食を買いに夢咲モールまで行く途中だったんだ。四葉ちゃんがハンバーガーを食べたいって言うから。……外に出てくれれば持ち帰りしなくても済むのにさ。」
「四葉姉さんは部屋から出ないのです?」
「四葉ちゃんは吸血鬼だから、日の光に弱いんだ。」と、僕はため息をついた。
するとナツナツは「ほんとうです?」と目を丸くして驚いていた。大人びているけれど、時折、小学生らしい年相応の反応を見せるナツナツは見ていて飽きないな。
僕が怪しい表情でニヤケていると、ナツナツが思い出したかのように手を叩いた。
「そうです、咲良兄さんに言いたいことがあったんです!」
と、僕を見上げるナツナツ。
「愛の告白?」
「違います。」
即答しなくても。
「違うのです、……四葉姉さんじゃなかったんです。」
ナツナツは真剣な表情で言った。
「何が、違ったんだ?」
「わたしに咲良兄さんがロリコンだから近付くなって言った人、四葉姉さんじゃなかったんです。……初めて会った時に、あれ、違う、と思ったんですけど、中々言い出せなくて。」
四葉ちゃんじゃ、ない? じゃぁ誰が?
「鬼気迫る表情で、絶対に近付くなって。」
——
こうしてナツナツと別れた僕は、無事ハンバーガーを並んでゲットすると、歩いて帰路につく。
坂を下る途中、ピンク髪の少女と白髪の少女が追いかけっこをしていたけれど、色々住む世界が違う気がして、見て見ぬ振りをした。
さて、到着だ。
玄関を開けてリビングに入ると、そこに珍しく四葉ちゃんがいた。綺麗な栗色の髪は寝癖やら何やらでボサボサになっていて、目の下にクマ。
「四葉ちゃん、ちゃんと寝てる? はい、ハンバーガー。ちょっと冷めてるかも。」
「う……ありがとう。四葉には四葉の、使命があるんだよ! 期待に応えられるように頑張らないと。」
意味は良く分からないけれど、四葉ちゃんは使命の為に頑張っているみたい。
「それはそうと、ちゃんと食べようぜ? で、後でシャワー浴びてこい。髪がボサボサだ。」
「はっ……お、お兄ちゃんの馬鹿。」
顔を赤くして膨れた四葉ちゃんは、ハンバーガーを一口食べて、コーラを飲む。
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