第二回、ゲーム大会
各々、緊迫の表情で、ただ一点を凝視する。勿論、僕も同じだ。
左から、僕こと、高野咲良、二十歳。
隣には、妹こと、高野四葉、十三歳。
その隣、小学生、夏野夏菜、八歳。
更に隣、最年長、赤野朱里、二十三歳。
僕達は、ただ一点を見つめ、開戦の時を待つ。
画面に数字が表示される。
……
3
……
2
……
1
……
スタート! ……と、同時に部屋に響き渡るのは、奴らの裏声と激しい連打音! ……連打! 連打!
くそっ、四葉ちゃんの連打が凄すぎて肘が僕の顔面まで連打してるんだけど!? し、しかし、そんな事で引き下がる訳にはっ……!?
「うおおぉぉっ、見よ! この指さばき!」
何て華麗なる連打! ……朱里さんも中々やり手か!
「わたしだって! ですですです、death!」
death連打!? しかし、ナツナツは連打が苦手とみた。こちらは敵ではないな!
「このこのこのこの!」
痛い痛い痛い! 肘、……肘が当たってるから!
「うおおぉぉりゃぁぁぁっ!」
……指が悲鳴をあげ始めた! ……しかし、この戦い、負ける訳にはいかない! ——何故ならこの戦いの勝者は、何でも一つ、命令を下す事が出来る権利を得るのだ! 簡単に言えば、王様ゲームみたいなもので、ルールは勝者が王様、その他の三人はその後クジを引き、番号を決める。
王様は一から三の番号で敗者に命令を下す事が出来るのである!
——
画面上で勝利の雄叫びを上げたのは、トゲトゲ甲羅を背負った緑基調の怪物だった。
その他、ヒゲのおっさん、キノコ、姫は無様に舞台下で怪物を見上げている……
「はっはっはぁ! 私の勝ちだな!」
駄目だ、一番王様になってはいけない人が、王様になってしまった。……もはや、王様ではなく、これは魔王だ。……何を命令されるか、わかったものじゃないぞ!?
しかし王様ゲームのルールは絶対……ここは朱里さんの命令に従うしかないか。
僕は予め用意しておいたクジをローテーブルの上に置き、そして運命のクジを引いた。僕に続き、四葉ちゃんとナツナツもクジを引き、それぞれ自分の番号を確認している。
……どれ、僕の番号は……一番か。
「さぁ下民ども! クジは引いたかね?」
朱里さん、めちゃくちゃ悪い顔になってますよ。その迫力に四葉ちゃんは思わず怯み、ナツナツは目を閉じて震える。——二人共、よく理解している。この変態上司は、ここで手を抜くような人ではないということを。間違いなく、エロを絡めてくる。
「それでは、命令を下すぞ〜? ……よし、研ぎ澄ませ、……よし。それでは、……」
僕は息をのんだ。
「二番が……」
その瞬間、僕の隣で四葉ちゃんが反応した。……二番は四葉ちゃんか?
「……三番に……」
ナツナツのツインテールが跳ねる。この地点で僕は危機を脱した訳だ。僕が安心して大きく息を吐き出すと、朱里さんが続ける。
「いや、二番と、三番が……」
…………え?
「……一番にキッスだぁ!」
……ズルイよ姉さん。反応見て、しれっと変えましたよね? ……って……キスとか……
僕は恐る恐る、四葉ちゃんを見る。言うまでもなくあたふたと落ち着かない様子で頬を真っ赤にしている。……ナツナツは……駄目だ、放心状態だ。
「さぁ、一番は誰だ?」と、朱里さん。
「ぼ、僕です……」
「二番と三番は?」
「よ。四葉です……」と、四葉ちゃん。
「……わたしが、三番です……」と、ナツナツ。
「よし、それでは咲良君! 君は真ん中へ。二人は両側から、……そうだな、可哀想だから、頬っぺにキスで許してやろう! 私は寛大な王様だからな!」
——えっと、僕はどうすればいい?
流石にこれは……かたや幼女、かたや妹。いやいや駄目だろアウトだよ!
「朱里さんっ、ちょっとこれは……!」
「……」
「あ、朱里! キスはまずいって!」
「そうか〜? 夏菜ちゃんは覚悟を決めたみたいだけど〜?」
「すぅすぅ、は〜! すぅすぅ……はぅぁっ?」
いや、動悸と息切れで今にも倒れそうじゃないか。これは何とか朱里さんを説得しないと。
と、その瞬間、僕の頬に、とてつもなく柔らかい何かが触れた。ほんのり水分を帯びた柔らかなそれは、柑橘系の香りがした。
「あ、……ナツ、ナツ?」
僕は、ナツナツからの熱烈なキスを受けた。それこそ、頬に痕が残るくらいの勢いで。
相手が小学生とはいえ、頬に女の子の唇が触れた事に変わりはない。
僕は不覚にも、……ほんとに不覚だけどこの一瞬だけ、ナツナツを意識してしまった。
柔らかな柑橘系の香りがする小さな唇が、僕の頬から離れると、顔を真っ赤にしたナツナツの姿が見えた。小学生なりに、どうやら照れているみたい。
「ご、ご馳走さまでした……」
「お、お粗末さま、です……」
「夏菜ちゃん、いいねー! やば、興奮した! 幼女からの熱烈なキスはどうだね、高野君?
さ、お次は……」
朱里さんは固まる四葉ちゃんに目線をやる。四葉ちゃんはビクッと身体を強張らせ、目を逸らす。すると朱里さんが四葉ちゃんに言い寄る。
「四葉ちゃんの番だよ? あれ? もしかして、てれちゃってるのかな?」
「て、照れてなんかないよ! ……キ、キスくらい……ラブコメでも見たことあるし……!」
と、四葉ちゃんは僕の方を向いて、大きく深呼吸した。——まさかと思うけど、キス、する気じゃないだろうね、妹よ。
「ほ、頬にするくらい……な、なんてこと、ないんだからっ……!」
と、言うものの、実行出来ない様子の四葉ちゃんを見て、僕は内心ホッとした。……このまま無理を通していれば、流石の朱里さんも見逃して……
……くれる……だろ? ……え?
嘘、だろ……?
…………
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