集結、ラノベ同好会


 翌日、つまりは四月十四日、僕の誕生日がやってきた。この日をもって僕は晴れて、大人となる訳だけど、あまり実感は湧かない。——四葉ちゃんは朝から準備に勤しんでいる。

 因みに、僕は手伝ってはいけない、との事。


 あまり他人に興味がない、……というか、コミュ障の四葉ちゃんが、人を呼んでパーティーを開催する事を了承してくれた事も、ある意味進展である。

 四葉ちゃんのコミュ障を克服する為のいいキッカケになればと、切に思う。


 時刻は午前十一時過ぎ、部屋にチャイムの音が鳴り響き、来客を知らせる。どうやら、第一の刺客が襲来したようだな。

 四葉ちゃんは細い身体をビクッと震わせた。……やはり、かなり緊張している様子。ちょっと心配になってきたかも。——僕はそんな四葉ちゃんを横目に、玄関へ。鍵を開けてドアを開けると、そこには外の風景だけが見える。


「……こ、こっちです! ちゃんと居るのです!」


 視線を下へ、下へ……居た。フレッシュガール夏菜ちゃんこと、ナツナツが僕を見上げて頬を膨らませている。小さいから見えなかった、という冗談はこれくらいにして、と。


「良く来たな、ナツナツ。親御さんの許可はちゃんと貰って来た?」

「あ、はい! 勿論です! ……あ。」


 ナツナツが小さく声を漏らし、目を瞬かせた。振り返ってみると、リビングのドアが少し開いていて、四葉ちゃんがこっちを覗き込んでいる。

 何だろう、一言で言って、その角度……直角なその角度でのそれは、ちょっとだけ怖いよ?

 それはそうと、本日のナツナツは初めて会った時みたいなロリータファッション? 的な格好だ。この子はフリフリした服装を好んで着るとみた。

 そんなナツナツはガクブルしながらこちらを見ている四葉ちゃんをじっと見つめる。


「……? あのっ、き、今日はよろしくお願いしますっ、です!」

 最初に言葉を投げかけたのはナツナツ。四葉ちゃんは「はっ!」と身体を震わせ、ゆっくりドアを開けると、震える声で言った。


「こ、ここ、こんにちは。えっと、な、なな夏菜ちゃん、だよね? お、おぉ兄ちゃんがいつもお世話になってます。あ、えっと、よ、宜しくね。」

 四葉ちゃん、超緊張してる。小学生相手に。


「は、はいです! よろしくです、四葉姉さんっ!」


 夏菜スマイルが炸裂すると、四葉ちゃんは「にゃ!?」と猫が尻尾でも踏まれたかのような声を上げ、頬を紅潮させ、その瞳を輝かせた。

 もしかして、今の一撃で四葉ちゃん、堕ちた?


 四葉ちゃんはナツナツの手を引き、リビングまで案内して、珍しくキッチンへ向かうと、この前コンビニで買ったオレンジジュースをコップに注ぎ、ナツナツに差し出した。

 あんなに素早く動く四葉ちゃんは、久しぶりに見た。——でも、何だろう。二人共、ごく自然な感じで、僕が思っているほど険悪にはならなかった。


 色々弁解の言葉を用意していたけど、どうやら必要なさそう。四葉ちゃん的には歳下の女の子ってのもあって、取っつきやすいのかも。

 既にお互いの読んでいる書籍を見せ合って、僕の分からない専門用語で語り合っているのだから、これはどうやら安心しても良さそう。


 ——JSスマイル、恐るべし。


 そんな二人を見守っていると、僕のポケットの中でスマホが激しく震えた。……スマホを取り出し確認する僕に、四葉ちゃんが声をかけてきた。


「……お兄ちゃん、どうかした?」

「あ、いや……何でもない。……それにしても朱里さん遅いな。」

「朱里さんって、お兄ちゃんの会社の上司の人?」

「うん、ちょっと変わった人だけどね。」

「ちょっと?」

「いや、だいぶ……かも。」


 暫く待つ事、三十分、再び部屋にチャイムが鳴る。どうやら朱里さんのご到着のようだ。騒ぐ二人を背に、僕は玄関のドアを開けた。

 そして、そこに立つ、超絶美女の姿に息をのんだ。——いつもはポニーテールにしている綺麗な黒髪をストンとおろした、会社で見る彼女とは違った彼女の美しさ、いや、可愛さに驚いた。


 ——この人、可愛いな。マジで。


「なんだ高野君? 人の事、ジロジロ舐め回すように視姦して、真っ昼間から発情しているのか?」


 ちょっと待て、万年発情猫の朱里さんにだけは言われたくないんですけど!


「そ、そんな事より、凄い荷物ですね……」

「あー、これか? これはタコ焼き機さ。」

「今日はお好み焼きパーティーなんですけど。」

「そうだっけ? ついでにタコ焼きもすればいいんじゃないか? 準備してきたし!」


 朱里さんは何か勘違いしていたみたいだけど、同じ粉物だし、何とでもなるだろう。

 とにかく、立ち話もなんだし、中へ入ってもらって、それぞれ簡単に自己紹介を済ませた。


 年齢差こそあるけれど、皆んなそれぞれがラノベ好き、つまりは読み手の集いだ。四葉ちゃんも最初は朱里さんの変態に押され気味だったけど、負けじとラノベを語る表情はどこか清々しい。


「ラ、ラブコメにだって、エ、エッチな表現はあるけど……そ、そこまで生々しいのは……」

「だがしかし、男女間、いや、同性間でも、恋愛には必ずと言っていいほど、エロが付随するもの! 四葉ちゃんだって、好きな人とキスしたいだろ? 抱きしめて欲しいと思うはず!

 ……私は縛られてしまいたい!」


 あー……最初からキャラを押し通すつもりだ。まぁ、後で知るよりファーストエンカウントで知っておいた方が傷は浅いか。


「そ、そそ……そんなっ……縛られちゃうとか、か……はぅ……」

 四葉ちゃん、何か想像したみたいで顔が真っ赤に。

「お、いい顔するね! どうだい、良かったら別室に移動する?」

「はっ!? ……あのっ、それはっ……!」


 別室って……そこは僕の部屋だぞ? そこで女の子二人で何をしようというのか。……何というか、何が言いたいかというと、僕も混ぜろ、と、そう言いたい訳だ。


「朱里さんの独壇場だな……ナツナツ、大丈夫?」

「問題ないです。……エロの耐性は割りかし高いので、わたし。」

「そりゃ、異世界チート勇者エロスを読むくらいだからな。あれもかなりエロエロだけど、親に何も言われないの?」

「そうですね、…何も言われません。」



 ——

 ひとしきり語り合い親睦を深めたラノベ同好会のメンバーはお好み焼き、そしてタコ焼きパーティーと洒落込んだ。

 朱里さんのタコ焼きさばきが、かなりの高水準だった事に驚いたけど、久しぶりにこんな風に皆んなで騒いだな。

 四葉ちゃん待望のお好み焼きとタコ焼きを堪能した僕達は、kokonoe洋菓子店で予約していたケーキを囲み、至福の時を得た。——そして皆んなからそれぞれ、プレゼントも貰った。

 朱里さんからは、妹物の官能小説……

 ナツナツからは、謎のキャラの缶バッジ?

 そして、


「こ、これ……四葉から。」


 四葉ちゃんからは鞄に付けられるキーホルダー、手作りの猫の人形が可愛い。……しかし、何だ、やけに重たいんだけど、中身は何を詰めているのか。


「四葉ちゃん、ありがと。大事にするよ。……わざわざ手作りで……そうか、部屋でゴトンって物音がしたのは、これを作っている最中だったのか。」

「べ、別に……ひ、暇だったから、暇つぶしに作ったのを、プレゼントにしたってだけで、だから、変な意味はないんだから! 勘違いしないでよね!」


 朱里さんも、ナツナツも、そんな四葉ちゃんを見てクスクス笑う。四葉ちゃんは顔を真っ赤にしちゃったけど、……本当、嬉しいものだな。いつになっても、プレゼントは嬉しい。


 ——

 全てを食べ終えた後、キッチンで話し合う四葉ちゃんと朱里さんの姿を横目に、僕はナツナツとこの後のイベント準備を進めていた。

 四葉ちゃんに優しく微笑みかける朱里さん、本当に可愛いな。……変態指数が高すぎて、あまりそういった目で見れなくなってたけれど、……朱里さんは綺麗で、可愛い……それは間違いない。


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