ロリコス四葉、降臨


 その後、僕はアパートに帰ったのだけど、そこにいた四葉ちゃんは……リビングで待ち構えていた四葉ちゃんの姿は、


「あ、お兄ちゃん。おかえり〜。」


 ——何故か小学生化していた。


「え、四葉ちゃん? 何故に制服? しかも小学生時代の。」

「ん? 懐かしいなぁ〜って思って、久しぶりに着てみただけだよ?」

「というか、何故そんなものがここにあるの。」

「そんなの、四葉の部屋なんだから当たり前じゃない!」

「……僕の部屋だ。……まさか、あの大量の段ボール箱の中身、四葉ちゃんの部屋の荷物全てが入ってた訳じゃあるまいな?」

「うん、そーだよ?」

「はじめから帰る気ないよね、それ。」


 四葉ちゃんは僕の言葉を無視して、あっさり話題を変えてくる。


「お兄ちゃん、お腹空いた。」

「そ、そうだな。今日は何にする?」

「……お好み焼きが食べたいんだけど。」

「お好み焼きってなると、外の世界に出ないといけないが、四葉ちゃん、大丈夫?」

「う〜ん……そこが問題なんだよね。お好み焼き屋さんって、なんだか人が多いイメージがあるし、苦手なんだよ。」


 それじゃ行けないじゃないの。


「だからお家でするってのは、どうでしょうか?お兄さまっ!」


 何故、敬語? そして、どうしてもお好み焼きが食べたいみたいだけど、こんな時間から買い物なんてしてられないよな。

 と、いう訳で、今日は出前で我慢してもらう事にした。四葉ちゃんは少し膨れてみせたけど、それ以上のワガママは言わなかった。


 出前を待っている最中、四葉ちゃんは思い立ったかのように言った。


「お兄ちゃん、今週日曜日、誕生日だよね?」

 ……確かに、僕の二十歳の誕生日だっけ。

「それじゃぁ、その日にお好み焼きパーティーしようよ!」

「お? 僕の二十歳の誕生日を、可愛い可愛い妹、四葉ちゃんが祝ってくれるって? ……プレゼントは何かな? 四葉ちゃんの熱いキスでもくれるのか?」


 ………………沈黙……


「プレゼントは……ほ、ほかに用意してるから……だから……」

「……冗談だって。四葉ちゃんの大事な初めてを、僕みたいなのが奪える訳ないだろ?」

「わ、わかってるよ、そんなことっ! ……だ、誰がお兄ちゃんなんかにキスするかっての!

 べ、別に変な意味はないんだから! か、勘違いしないでよね!」


 いつもの語尾で締めくくった四葉ちゃんは、頬を真っ赤に染めている。四葉ちゃんって、もしかして本当に僕の事を? ……まさか、ナツナツが変な事言うから、意識してしまった。——兄妹なんだから、そんな事、ある訳ない。

 その時、僕の頭にいいアイデアが浮かんだ。


「四葉ちゃん、その日の誕生日パーティーなんだけどさ……」

「どうしたの、急に改まって?」

「僕の友達も招待してもいいかな?」

「……星子お姉ちゃん?」

「いや、最近仲良くなったラノベ好きな女の子。」

「ラノベ好きな、女の子? ……もしかして、朝にお兄ちゃんが変態顔で話している、小学生ちゃん?」


 サラッと、……かなりサラッと窓から覗いていた事をカミングアウトしたぞ? やっぱ、ナツナツに接触したのは四葉ちゃんで間違いないな。

 誤解を解くいい機会だ。ついでに友達も作れちゃうかも知れないオマケ付きだ。


「よく知ってるな……ほら、あの子もラノベ好きなんだって。それで意気投合しちゃってさ。

 友達が欲しいって言ってたし、四葉ちゃん的にも僕よりラノベに詳しい女の子の知り合いがいてもいいんじゃないかな、と思って。駄目か?」

 四葉ちゃんは少し考え、

「うん、いいよ。可愛いらしいもんね、あの子。」

 と、何とか承諾を得られた。



 ——

 そして何気ない日々が過ぎて、四月十三日、——僕の誕生日前日がやってきた。今日は土曜日だけれど、会社は営業している。つまりは、僕も営業課の事務所で、いつものようにラノベを読み漁っていた。……今日も朱里さんのオススメ百合物をひたすらに読んでいたのだけど、ふと、朱里さんが口を開いた。


「……そうだ。妹さんは元気なのか? ……もう春休みも終わって実家に帰ってしまって、淋しい思いをしていないか、高野君?」


 朱里さんは、四葉ちゃんの残留を知らない。僕はそんな彼女に、春休みの終わりに四葉ちゃんがゴネてしまった事、実は不登校な事、そして今も部屋に居座っている事を、相談も踏まえて話す事にした。


 それを聞いた朱里さんは、

「そうだったのか、兄も色々と大変なんだな。……で、その妹さんが明日の日曜日、高野君の二十歳の誕生日パーティーを開催すると?」


「まぁ、そんな感じです。」

「それは、……高野君……。それは、わ、私も行って構わないのか!?」


 百合物文庫を両手に、僕に迫る朱里さんから、めちゃくちゃ良い香りがした。……いや、そんな事より、朱里さんが誕生日パーティーに?


「マジっすか!?」

「……マジっすけど?……え、駄目?」

「いや、駄目なんて……逆に良いんですか?」

「勿論、それに高野君の妹さんにも会ってみたいしね!……まだ綺麗なラブコメ読者を官能の世界にウェルカムしたい気持ちもあるし!」


 あの……それはやめてほしい。



 ——

 こうして、成り行きだが一人メンバーが増える事となった。ジャンルは違えど、同じ読書を趣味とする者の集いって感じで、なんだか悪くないよな。


 自分の誕生日がこんなに楽しみなのは、いつぶりだろうか。

 明日、四葉ちゃんに友達が出来ますように。

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