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結局、ラノベを読んで一日が終わった。——ノーマルなSM系は、勿論、朱里さんのオススメ、百合物、所謂GL、女の子同士のやつも読まされた、いや読ませていただいた。
率直な感想を述べるなら、ノーマルなSMは僕にはハードルが高く感じたのだけど、GL系、つまり女の子同士の恋愛物は意外と面白かったりした。……何だろう、言葉で説明はし難いけど、男という不純物がなくて、綺麗だと感じたから、かな?
と、真面目に感想を巡らせていると、いつの間にか午後五時が迫ってくる。ふと視線を上げると、頬を赤らめながらGLに没頭する朱里さんの姿。微妙に息が荒い。——しかし綺麗な
朱里さんの発言からして、多分彼女はMだろうと勝手に認識した僕の頭の中に、縛るのが大好きな女の子の影がちらついた。
Mの朱里さんに、Sの四葉ちゃん……百合とSMの融合!? ……駄目だ、これは想像してはいけない。
「あの、赤野さん? そろそろ時間ですよ?」
「……」
「……え、と…」
無視されている? ……ちらっと僕を見て、敢えて無視をされた気がする。
「あの、朱里、さん?」
「…………っ」
あ、少し反応した?
「……………………あ、朱里?」
「な、何だろうか? 高野君っ!」
呼び捨て以外は受け付けません、と。何故、……何故この人はこんなに嬉しそうな表情を。歳下の部下に呼び捨てにされて興奮しているのだろうか。
何にせよ、可愛いから全て許されちゃうんだけど。ヤバいな……朱里さんのペースに呑み込まれていく自分がいる。
「そろそろお仕事終わりですよ?」
「お、そうか! ……どうだった? いくつか持って帰っても大丈夫だから、帰って妹と共に読んではどうだ? もしかしたら新しい扉が開く! ……かも知れないっ!」
いや、これは流石に一人で読みたいよ、赤野朱里さん。——とか言ってる間に終業時間のチャイムがなる。古いスピーカーから流れる某ロボット物アニメのエンディング曲がうちの会社の終業のチャイムとなっている。……正直、これを聴いて、あっ、と思う人は少ないだろう。
——言うまでもなく、髪野専務の仕業である。
朱里さんから二冊程、オススメを拝借した僕は鞄にソレを入れ帰路についた。まだ明るいな。いつもすれ違う小学生達は今日もその手に小さな駄菓子。
こんな時間に食べると夕飯が食べられなくなるぞ、と少し心配になるけれど、そこは僕がとやかく言う事ではないか。
駄菓子屋を覗くと、「のんじゃぁっ!?」と、のじゃ子の叫び声が聞こえてくる。どうやら、ダ○ソンのコードレス掃除機に大きなゴミを詰まらせたみたいだ。優しそうなお婆ちゃんが頭を撫でて慰めるその光景は、心がほっこりする。
坂道を越え、商店街の手前で左に曲がると僕のアパートが見えてくる。いつもの茶トラ猫とすれ違い、児童に優しい自動販売機を通り過ぎて、僕は我が家へと無事帰還した。
——今日は色々あったけど、何とか無事に一日を終える事が出来た。
「ただいま〜」と、この言葉を言う相手がいるのは悪くない気分だ。四葉ちゃん、お腹空かせて待ってるだろうし、とりあえず出前でも取ろうか。
——僕がドアを開けると、リビングに四葉ちゃんが立っていた。部屋着姿で両手を腰に当て、小さな胸を張り頬を膨らませている。
「……お兄ちゃん、そこに座って。」
「…え、どしたの?」
「いいから座るの!」
凄む四葉ちゃんの勢いに負け、僕は大人しくその場に座った、もとい、ひれ伏した。頬を赤らめた四葉ちゃんは僕の背後に屈み、「両手を後ろに。」と囁いた。
「ちょ、待っ……」
「後ろに!」
「……あ、はい……」
はい、縛られましたとも。しかし、四葉ちゃんが何故にお怒りになられているのか、僕には想像すら出来ない訳ですよ。
「四葉ね、怒ってる。」
見ればわかりますよ、四葉ちゃん。
「何を怒ってるか、わかる? この前だって言ったよね?」
「この前……?」
「はぁ……もういい。手は打ったから。」
四葉ちゃんは一人呟きながら首を縦に振る。そして僕の目の前に屈むと顔を近づけ、耳元で囁いた。
「お兄ちゃんって、『——』なの?」
どういう意味だ? 四葉ちゃんはいったい、何を言ってるんだ? 僕は思考をフル回転させるが、その答えが全く見出せない訳で、ただ、自分の心臓の音と、時計の秒針の音だけがやけに大きく聞こえるような、そんな錯覚に襲われた。
僕に対して、『——』という単語をぶつける、彼女の、——高野四葉ちゃん意図が掴めない。
「もっと勉強が必要みたいだね、お兄ちゃん。……四葉のオススメ、かしてあげるからちゃんと読まないと駄目だよ?」
四葉ちゃんはローテーブルの上に積み上げられたラノベの山を指さした。やはり、『妹物』か。朱里さんのも読まないといけないのだけど、……それは四葉ちゃんが寝てからにしよう。
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