太陽が眩しいよぉ
歩き慣れた夢咲町を散策する。僕の斜め後ろには腰を曲げて小さくなった四葉ちゃんがいるのだけど、本当に外を歩くのが苦手なんだな。
小学生の頃より更に酷くなっている気がする。こんな状態で、よく僕のアパートまで来れたな。
僕のシャツを掴む指にも力が入っている。
「ま、眩しい……太陽が眩しいよぉっ……」
四葉ちゃんは吸血鬼か……
困ったものだな。とりあえず、早めに屋内へ入った方が良さそうだ。このままでは四葉ちゃんが溶けてなくなりそうだし。
——商店街を抜けるとその先に小さな青空駐車場が見えてきた。駐車場のベンツのボンネット上で魚を咥える黒猫と、それを見上げる茶トラ猫を横目に、僕等はその先の小さな喫茶店へ足を踏み入れた。
——カランコロン、と入り口の飾りが音を鳴らすと、エプロン姿の店員さんが笑顔で迎えてくれた。この店はマスターの強面おじさんと、その娘の二人で営んでいる。
時間的なものもあり、客は僕と四葉ちゃんの二人だけだった。
「お、いらっしゃい! ……久しぶりじゃねぇか! ……お? その子、もしかして、コレか?」
マスターはお茶目に小指を立てる。四葉ちゃんはその迫力に、身体を震わせた。
「えっ……その、あのですね……」
「妹ですよ。……茶化さないで下さい。」
「……あ……むぅ」
「おぉ! そうかそうか! ……可愛い妹ちゃんじゃぁねぇか! お嬢ちゃん、何でも好きなだけ頼みな! 優しい兄ちゃんがいるから遠慮はなしだ!」
調子のいいマスターだな。大声出すから四葉ちゃんが完全に怯えているじゃないか。……まるで、肉食獣に取り囲まれたバンビの如く、身体を震わせながら、四葉ちゃんは頑張って返事を返す。
「あ、あの……ありがとう……ございます……」
そこ、お礼を言うべきか微妙なところだけど。
——
午後二時半、僕等はアパートの部屋へ無事帰還した。四葉ちゃんは疲れたのか、ローテーブルにうな垂れてしまった。しかし、よく食べたな四葉ちゃん。あれだけ食べて何故これだけスリムなんだ、……若さ、か?
……
僕等は二人で何気ない事を話しながらテレビを見ていたのだけど、いつのまにか眠ってしまったようで、僕の目が覚めた時には既に時刻は夜の八時を回っていた。
起き上がりたいのだけど、——どうにも起きあがれない。……何故なら、四葉ちゃんの両腕が僕をしっかりホールドして離さないからであって、何というか、距離が近い。寝息を間近で感じられるくらい、……それくらいの距離感。——簡単に説明すると、僕は今、四葉ちゃんの抱き枕になっている。
真っ白なチュニックワンピースの胸元が開いていて、四葉ちゃんの小さな胸が見えそう……いや、残念ながら、そういったものは見えない。四葉ちゃんは貧に……違った、スリムだからね。
それはそうと、目の前に四葉ちゃんの顔が。……近い。——そんな可愛い寝顔をじっと堪能していると、四葉ちゃんが目を覚ました。
「……あ、寝ちゃったみたい……」
「起きた? ……僕も今起きた。」
「そうなんだ、んっ……ねぇ……お兄ちゃん?」
「どうした? 起きて早々に。」
「お兄ちゃんって、彼女いるの?」
妹が藪から棒に放った質問に、当然、僕は戸惑った。戸惑ったけれど、即答した。
「いや? いないよ?」と。実際、いないし。
四葉ちゃんは「知ってる。」と、悪戯に笑った。どうやら、からかわれたみたいだ。
「お兄ちゃんに彼女なんて出来るわけないもんね。可哀想なお兄ちゃん。」
「茶化すなって、気にしてるんだから。可哀想って言うなら、四葉ちゃんが彼女になってくれよ、……なんてな。」
「うん、いいよ。」
「冗談だよ。」
「……ば、馬鹿! ほ、本気なわけないでしょ? ちょっとからかっただけなんだから、か、勘違いしないでよねっ!」
——
こうして、二日間の休息が終わり、月曜日の朝が訪れた。僕は作業着に着替えて、僕の部屋で眠る四葉ちゃんに、行ってきます、と伝えるだけ伝え、アパートを後にした。
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