妹物のラブコメ
僕は夏野夏菜、——ナツナツと別れアパートへ向かっていた。……昨日、四葉ちゃんに借りて読んだのも面白かったけれど、今日も良いものを読ませてもらったな。序盤の展開は知っている筈なのに、文字で読むと、また違って見えるから不思議だ。
——四葉ちゃんの言う、骨の髄まで、って言葉は、あながち過言ではなさそう。つい、小一時間で読み切ってしまったけれど、こりゃ先が読みたくなる訳だ。異世界チート勇者エロスの世界も、文字にすれば意外と知的に見えるのも面白い。
……それはそうと、コーヒーの飲み過ぎで少しお腹の調子が良くない。結局、ブラックを飲みきれなかったナツナツの分も、僕は飲むことになった訳で。そして、可哀想だからオレンジジュースも買ってあげた。
——もう昼過ぎか。
僕は玄関のドアを開け、リビングへ。……四葉ちゃんはまだ眠っているようだ。昨日の夜、何時まで起きていたのやら、僕も人の事は言えないけれど。
ひとまず部屋の引き戸をノックしてみる。しかし反応はなし。引き戸を開けようとしたけれど、……やはり開かない。鍵でも取り付けたのだろうか?
——まさか、それはないだろ。
「お~い四葉ちゃ~ん? もう一時半だけど?」
微かに物音が聞こえてくる。布団の擦れるような音、……そうか、今、四葉ちゃんは僕のベッドで、僕の布団に包まって寝ている訳だ。
ちょっと、複雑な気分になる……と、そんな事を考えていると、ガチャ……と鍵の開くような音がした。そして、少し開いた隙間から、寝ぼけ眼の四葉ちゃんが出てきた。
「……お、おはよぉ、ふわぁ……」
部屋着は肌蹴て、肩が丸出しになっている。よく見ると、ブラの紐が見えない。四葉ちゃん、もしかしてノーブラの状態ですか?
「む、ジロジロ見ない。……よいしょ。」
四葉ちゃんは少し不機嫌そうに膨れて、僕の背後に座り、耳元で、「両手を後ろに。」と囁いた。
この後、僕が縛られたのは言うまでもない。
四葉ちゃんは僕をしっかり拘束すると、眠気を覚ます為、朝シャワー、ならぬ昼シャワーを浴びはじめた。——暫くするとシャツと短パンのラフな格好でリビングに帰って来て、僕の拘束を解いてくれた。もしかして、毎回僕は縛られる運命なのか?
「お兄ちゃん? ……ちゃんと読んだ?」
「おうよ、一晩で全部読破してしまった。四葉ちゃんの言う通り、ラノベは面白かった。正直、オタクっぽい文庫本としか思ってなかったけど、それは食べず嫌いってやつだったみたい。」
「す、凄いねお兄ちゃん……あれを一晩で。」
四葉ちゃん、流石に驚いているな。……僕的には四葉ちゃんがノーブラで白シャツ一枚な事に驚きを隠せないのだけど……その、微妙な膨らみというか、微妙に透けそうというか……いくら小さいからといって、油断し過ぎじゃないかな?
「そうだ、ラブコメってさ、『妹物』しかないの? ほら、四葉ちゃんのオススメって妹物ばかり……」
「そ、そそ、そんな事ないよ!? ほ、他のジャンルもいっぱいあるよ! ……あ、たまたまそっち系が重なっちゃっただけなんだから……え、と……その、か、勘違いしないでよねっ!」
ん? ……いったい何を勘違いするなと、僕の可愛い妹、四葉ちゃんは必死に訴えているのか。
痛い痛い、叩かないで……わかったから!
「……と、とりあえず、昼飯でも食べようか?」
「はぁ……」
四葉ちゃんは大きな溜め息をつき、顔を真っ赤にして言った。
「ほんっと、ラノベ主人公っ!」
「な、何をそんなに怒ってるんだよ?」
「そ、そーゆうところだよ! ……もう……」
お腹空いてイライラしているんだな。よし、日曜日だし、少し出掛けるか。
「何か食べに行くか、四葉ちゃん?」
僕の言葉にビクッと反応した四葉ちゃんは、
「えっ! ……あ、でも……四葉、あまり人の多いところ苦手、だし……」と、小さくなる。
「昔から変わらないな、それ。……僕と一緒なら大丈夫だろ? 出来るだけ人の少ないところ探してあげるから。家には何もないし。」
四葉ちゃんは少し考え、うん、と小さく頷くと、大きく深呼吸して、
「わ、わかった。お兄ちゃんがどうしてもって言うなら、……つ、付き合ってあげてもいいよ?」と、頬を赤らめた。
「どういたしまして。何かリクエストはあるか?」
「お、お兄ちゃんの……オススメで、いい。」
「そうか、ならサクッと着替えて、行くとしますか、あ、それと四葉ちゃん、ちゃんとブラつけとけよ? さすがに透けるぞ?」
「お、お兄ちゃんの……ばかぁっっ!」
——夢咲町に乾いた音が鳴り響いた。
打たれた右頰が痛い……四葉ちゃんに思いっ切りビンタされた右頰がジンジンする。
こうして少し遅いランチを食べる為、町へ出る事にした僕と四葉ちゃん。——いつも部屋着な四葉ちゃんの洋服姿は少しばかり新鮮に感じる。真っ白なチュニックワンピースに麦わら帽子を被った、春らしい装いは良く似合っていた。それこそ、月刊クリティカルの表紙を飾ってもいいくらいの可愛さだ。……僕は兄馬鹿なのかな?
本当、コミュ障じゃなければ、すぐにでも彼氏が出来てしまいそうで、……兄としては妹がコミュ障で良かったと胸を撫で下ろす次第です。
「恥ずかしいから、あまり見ないで。」
「いや、可愛いな、と思って。」
「そ、そそ、そんな事ないよっ! お兄ちゃんのそうゆうところが……もう、いい。はやく行こう?」
「照れてる?」
「照れてない!」
「……デレてる?」
「うるさいなぁっ! お兄ちゃんには、ツンしかあげないんだから!」
自分の属性は大方理解している様子だ。
僕は玄関の鍵をしっかり締め、確認する。
それじゃ、可愛い妹とデートでもしますか。
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