ライトノベル、入門


 ライトノベル、通称ラノベについて熱く語り始めた四葉ちゃん。僕が思っている以上に、四葉ちゃんはラノベにハマっているようだ。


「最近なら異世界物とか、悪役令嬢物とかが流行ってるの。お兄ちゃんの好きなアニメも異世界転移物に分類されるんだよ? その中でもハーレム要素の強い作品だね。お兄ちゃんらしいよ。

 他にも、ミステリー、ホラーなんかもあって、四葉は最近ラブコメにハマってるんだよ。」


 楽しそうに話す四葉ちゃん。話を聞いていると、少し興味が湧いてきたような気もする。


「意外と奥が深いんだな。時間あったら、ちょっと読んでみようかな。」

 ——すると、急に四葉ちゃんが立ち上がった!急に立ち上がったところで、小さな胸は殆ど揺れないけれど、とにかく唐突に立ち上がった。

「そ、それなら四葉が貸してあげる……! ちょ、ちょっと待ってて……!」


 四葉ちゃんは僕の部屋へ。暫く待っていると、数十冊の本を必死に抱えて出てきたのだけど、……多くないですか?

 ドン、とローテーブルの上に積み上げられた表紙がアニメな文庫本。


「とりあえず、これくらいかな。……ファンタジー物と、ラブコメ、四葉のオススメだからちゃんと読んで、感想も書いて! 特別に四葉のノート、使ってないやつ一冊あげるから……」


 ……感想……? ノートに?


「ねぇ、お兄ちゃん?」

「どうしたの、四葉ちゃん?」


 僕はこれまで見た事もない、そんな四葉ちゃんの表情に驚いた。頬を染めて、潤んだ大きな瞳で僕を見つめるその姿に、一瞬、心奪われそうになって、息をのんだ。相手は、妹だというのに。


「四葉をこんなにしたの……お、お兄ちゃんなんだから……ちゃんと責任取ってくれないと……だ、駄目なんだからね……!」


 ……え? 責任?


「と、とにかくっ……それは宿題っ! 春休み中にしっかり読んで感想を書くの! そして自覚して、お兄ちゃんがどれだけ『ラノベ主人公』なのかを!」


 四葉ちゃんはそう言い捨てて僕の部屋へ飛び込んでしまった。……ガチャ、と、謎の物音がすると、嵐が去ったようにリビングは静まり返る。僕はローテーブル上のラノベ達をじっと見つめてみた。


 折角だし、一冊読んでみようかな。


 というか、『ラノベ主人公』って、何だよ。


 ——読めばわかる、か。




 ——翌日、日曜日。

 時刻は既に昼前、午前十一時半。——眠い……昨日、四葉ちゃんに借りた本を読み始めたのはいいけど、どれも面白くて、つい読破してしまったから、殆ど眠れていない訳であって。

 ライトノベルか。確かに四葉ちゃんがハマるのも頷けるかも。いまだにラノベ主人公ってのが良く分からないけど。——四葉ちゃんは、まだ眠っているみたいだ。そっとしておいてあげよう。


 ——眠気覚ましにコーヒーでも飲むか。

 僕は物音を立てずに部屋を後にした。階段を降りて少し歩くと、自動販売機があるのだけど、今日も天気が良い。太陽が眩しくて、目を細めていると、僕の視界に女の子が映った。

 女の子は可愛らしいバッグの中から小銭入れを取り出し、自動販売機に投入する。

 丈の短いフリフリスカートのゴスロリ風ファッションに身を包む少女は、長い髪を二つ括りした、所謂ツインテール少女。前髪は綺麗に切り揃えられていて、可愛らしい。しかし、暑くないのか。

 ——あまり日に焼けていないところを見ると、インドア派のJSかな。

 そんな色白ツインテールのJSは、スカートから伸びる細くも肉づきの良い太ももを震わせながら背伸びをしている。

 つま先立ちでプルプルと震える姿は、僕の心を鷲掴みにする。言っておくけれど、ロリコンではない。ただ、小さくて可愛い女の子が好きなだけで。


「こ、この自動販売機……販売機のくせにに優しくないのです!」


 背が低くてボタンに手が届かない様子。

 ここで助けてやらない訳にはいかないだろう。このご時世、女子小学生に話しかけるのはリスクが高いが、困っているのは見過ごせない。

 とはいえ、事案発生の可能性も……

 いや、しかし……あんなにプルプルしてるんだ。よし——覚悟を決めるんだ僕!やましい事なんてないのだから、——僕はただ、困っている人を助けてあげたいだけだ。


「ですっ! ん~、ですっ! あぁっDeath! ……届かないのですぅっ!」プルプル!!

「……どれがいいの?」僕は屈んで問いかける。

「お? お兄さん、もしかして押してくれるのですか? それなら、えっと、こ、これっ……を!」


 小さく跳ねながら少女の指がさしたのは、


「……ブラックコーヒー? ……本当にこれでいいの? 小学生には早いと思うけど?」

「読書にはブラックがいいのです。最近の小学生を甘く見てもらっては困るのです!

 それに、わたしが小学生と、勝手に決め付けるのはどうかと思うのです!」

「じゃぁ聞くけど、何歳? ……いや何ちゃい?」

「八歳です!」

「小学生だよね。」

「とは限りませんっ! ……です!」


 いや、限るだろ。

 読書ね。……というか、最後、無理矢理『です』を挟んでくる辺りが僕としては気になる。——本人がブラックを飲むと言っているのだから、僕にそれを否定する権利はないか。そう思った僕は、代わりにボタンを押してあげる事にした。


 ……ガコン……と音が鳴り、冷たい缶コーヒーが取り出し口に転がり込んできた。ミニスカゴスロリ少女はそれを取り出し、僕を見上げ屈託のない笑顔を見せる。


「ありがとなのです!」

「どういたしまして。……じゃ、僕も…」


 と、小銭を自販機に投入しようとした時だった。液晶画面で回転していたドット絵の数字が、一つ、二つ、と停止して……

 『7』が三つ、揃った。——当たりだ。



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