第一回、ゲーム大会
——今、何時だろう。
両手両脚を縛られたまま、眠ってしまったみたいだけど。しかし、時計を見ようにも見れない。
——何故なら、目の前に僕の顔を覗き込む四葉ちゃんの超絶かわいいお顔があるから。
——何が起きているのだろうか?
「……あっ…起きた。」と、四葉ちゃん。
「起きましたが?」
「死んだかと思ったよ。」
「……残念ながら、まだ生きてるよ。」
四葉ちゃんは何処か安心したような、そんな表情を浮かべた、——ように見えなくもない。僕は少し、調子に乗ってみようと試みた。
「……もしかして、心配してくれてたの? 起きない兄に目覚めのキスでもするつもりだったか?」
すると、四葉ちゃんは顔を真っ赤にして、
「そ、そんなわけっ……ないでしょ!?か、勘違いしないで、……だから生存確認……死んでないか確認してただけなんだからね?
べ、別にお兄ちゃんの寝息を間近で堪能したいとか、ヨダレをどうこうとか……そんなんじゃないんだからっ!」
なんか色々気になるワードが混じってますが——昔から素直じゃない四葉ちゃんは、いつもこうしてツンツンする。僕の事が好きなら好きって言えばいいのに。いつでも愛でてやるぞ、兄として。
勿論、コミュ障でボッチの四葉ちゃんがこんな顔を見せるのは、僕に対してだけだ。誰とでもこうして話せれば、きっと友達も出来るだろうに。
少なくとも、貧乳ツンデレヒロインのポジションは確約されている。
「な、何……? き、気持ち悪い顔でジロジロ見ないで。」と、頬を赤らめる四葉ちゃん。
僕は起き上がってみる。そして今頃になって気付いたのだけど、ちゃんと拘束は解かれている。しっかり跡は残っているけれど、……そんな事より、僕はローテーブルの上に配置されたゲーム機本体の方が気になるのだ。それは僕のなのだけど、しっかりリビングのテレビに繋がれている。
どうやら、ゲームをやりたいみたいだな。それもこのチョイス。僕の家には二種類のゲーム機本体があるのだけれど、四葉ちゃんの選んだのは、皆んなでワイワイ遊べるタイプのやつ。どちらかと言うと子供向けの方だ。
四葉ちゃんはコントローラーを手に取り、それを僕に差し出した。流れるままにそれを受け取った僕は、ゲーム機の電源を入れた。
画面には何種類かのタイトルが表示される。とりあえず一つずつ画面をスクロールさせていると、「ストップ、これ。」と、四葉ちゃんが言った。
——パーティーゲームの王道、か。
「久しぶりだな、こうして一緒にゲームするの。ほら、四葉ちゃん2Pでいい?」
もう一つのコントローラーを差し出すと、四葉ちゃんは「うん。」とそれを手に取った。……しかし、この位置関係は良くない。1Pは基本的に左側に座るものだけど、僕は四葉ちゃんの右側に座っている。これでは画面と自分の位置がクロスして何かしらやり難い。
「お兄ちゃん、場所、変わろっか?」
妹よ、わかっているではないか。
こうして僕と四葉ちゃんのゲーム大会が始まった。僕達は早速対戦と洒落込んだ。いつもの事だけど、基本的に対戦メインで協力プレイをした記憶は殆どないに等しい。——部屋にコントローラーのボタンを連打する音が鳴り、それと同時にゲームのキャラクター達の裏声も響く。
この手のゲームのキャラクターは何故裏声なのか、今でも謎だ。見た目完全にヒゲのおじさんなんだけどな。
「あっ……も、もぅ……っ……」
懐かしいな。この感じ……四葉ちゃん、オタクだけどゲームはあまり上手くなくて、いつも身体が動いてしまって可愛いんだよな。声まで出ちゃうところも見ていて飽きない。
——つい苛めたくなってしまう。
「あ、んっ……もう! お兄ちゃんズルい!」
「ズルくないぜ? 勝負の世界はいつだって厳しいのだよ! お先っ!」
プギュ!
「あ、また踏んだぁーーっ……酷いよもうっ!」
頬を真っ赤にして必死に抵抗する姿、昔から変わらないな。正座してるのに、小ぶりなおしりは浮いちゃって細い身体は前のめりになって、そこまでしても僕には全く勝てなくて、——それでも、楽しそうに笑うんだよな、ゲームしてる時の四葉ちゃんって。喧嘩した時、いつもこうして対戦して、いつの間にか仲直りしていた、そんな頃を思い出す。
勝負は言うまでもなく僕の圧勝。四葉ちゃんは息を荒げてローテーブルにうな垂れている。まるでフルマラソンを走り終えたランナーみたい。
「お兄ちゃん……大人げないよ……」
「ついゲームってなると本気になってしまうんだよな。でも、一本取られたけどな。」
「連打のやつだけでしょ……四葉、頑張って連打したんだもん。」
確かに、あの連打は凄かった。
「指、見せてみ? ……さっきの連打で皮めくれてるだろ? ほら。」
「だ、大丈夫っ……こ、これしきの傷で倒れる我では……」
「……はいはい、世紀末覇者風に言っても駄目だ。見せなさい。」
四葉ちゃんの指、親指の皮が少しめくれてしまっている。これだけの連打を浴びては、流石の僕も負けるしかないというか、……本当は勝てたんだけれど、ここまでされると、流石に負けてあげないと可哀想って、そう思った訳だ。
僕も少しは大人になれたのかも知れない。ほんの少しだけ。
四葉ちゃんの指に絆創膏を貼ってあげると、少し照れくさそうに笑う。良かった、ちゃんと笑えるじゃないか。
白熱していただけあって、いつのまにか午後三時を回っている。僕は冷蔵庫で冷やしていた、焼きプリンを取り出し四葉ちゃんの前に置いた。
「朝、食べ切れなかった分、四葉ちゃんにあげる。ここの焼きプリン、好きだろ?」
「い、いいの?」
と、言いながら遠慮なく蓋を開けた四葉ちゃんは、幸せそうに一口食べて、ふと口を開く。
「お兄ちゃん、……今でも、アニメとか、好き?」
四葉ちゃんの目は、僕をしっかり見据えている。突然どうしたのかと少し戸惑ってしまったけれど、僕は答える。
「好きだな。今でも毎週楽しみにしてるアニメがある、四葉ちゃんも知ってるだろ?」
「うん。お兄ちゃんのことなら何でも知ってる……異世界チート勇者エロス、でしょ? じゃぁさ、お兄ちゃんは知ってる? そのアニメも、初めは無料小説サイトで読める、素人作品だったってこと。」
「……無料、小説?」
「そう、無料で読める投稿小説。そこから人気が出て、本になって、それからアニメ化したんだよ。
アニメじゃ描写されないような心理なんかも、小説なら分かったり、逆にアニメを見て、ここはこんな風になってたのか! って思ったり出来て、なんだかその作品を骨の髄まで楽しめてる気がするの! 実際、主人公のエロスが妄想する時の表現がアニメより生々しく表現されているんだよ?
エロいお兄ちゃん好みに。」
四葉ちゃんが、——いつも無口な四葉ちゃんが、めちゃくちゃ楽しげに語り始めた。
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