第5話 栄光の日々
それからアリムの生活は一変した。
「僕が最高クラスぅ!?」
「何を謙遜するんだ!?キメラ討伐者など我が校始まって以来の偉業だよ!さ!この後は私と一緒に肖像画に映ろうね!」
「ええぇえええ!?」
最高クラスへの編入。
「あ!アリムが来たぞ!」
「きゃー!アリム様ー!」
「おいアリム!あの魔法教えてくれよー!」
「あははは……」
多くの友人や女子からの黄色い声援。
それでも彼自身はそこまで変わってはいなかった。
ここは学校の保健室。
「ホムロン先生!あれから体調の方は……」
「!……あぁ少し待っていたまえ……」
アリムの耳には紙が擦れる音しか聞こえなかった。
「さぁ入ってくれ」
ホムロンの病室には急いでまとめられた書類がベッド机の上にあるだけで綺麗にまとめられていた。
「今日は何の用かな?」
「な、何って先生のお見舞いに……」
アリムはどこか冷たいホムロンの反応に困惑した。
「まあいいです。聞いてくださいよー!僕!初めてラブレターなる物を頂きました!」
さっとポケットから可愛らしい紙で装飾された手紙を取り出すアリム。
「それは良かったね。さて、用事がないならこれにて……」
「先生っ!」
アリムは椅子が転げてしまうのも構わず立ち上がった。
「僕何が先生に失礼なことしましたか!?ダメなとこがあるなら直します!だから先生!」
「私はもう君の担任じゃないだろ」
「っ!!」
「じゃあ私は眠らせてもらう」
アリムに背を向け眠るホムロン。
「分かりましたよ……分かりましたっ!」
アリムは保健室から急いで出て行った。
しかし部屋の外に出たところで「やっぱりちゃんと話し合おう」と思い、もう一度ドアを開こうとした。
「ふー。せいせいしましたよ!あの生徒にビシッと言ってくれて」
「そうですよ!あの子が助けに来るのが遅いから、あんなに犠牲者がいっぱい出て……生き残った私たちも責任取らされてクビだなんて……」
アリムのドアを開ける手が止まった。
「先生達はあんな風に僕のことを……それにクビって……」
アリムは混乱した。
何故命がけで生徒を守った教員がクビになるのか。
何故自分は助けたはずの人に恨まれているのか。
アリムの足は自然と昔の底辺クラスへ向かって行った。
どこかで「彼らなら自分を認めてくれているんじゃないか」と願いながら。
しかし中に入るのはさっきの件で怖くなったので教室入り口に聞き耳をたてる。
「あいつずーっと心のどこかで俺らみたいな底辺と違うってバカにしてたんだぜ」
「やっぱ許せねぇよ!」
「バカやめとけ、喧嘩なんか売ってみろ……」
「あの魔法で灰にされちゃうかもよ!」
「おーこわ」
「「「ぎゃははははは」」」
「……っ!」
アリムは底辺クラスの前を駆け抜けた。
「きっと今のクラスの友達はあんなこと言わない」と半ば願うかのように、今の教室の前に来た。
「今日もダメだったわー」
「ねー」
「あの魔法の秘密知りてぇよなぁ」
「それさえ分かればあとはどうでもいいんだけどな。あんな奴」
「わかるー。私なんかラブレターまで書いてさーあんな底辺の家、嫁ぎたくないわー」
「……そっか……そりゃそうだよな……」
アリムは絶望する以上にどこか納得した。
結局力が自分の存在価値なんだと。
それが無かったから昔はいじめられ、今は恐れられてるのだと。
「アリム……学校行かないのかい?」
ミリムがアリムのベッドに座りながら頭を撫でる。
「あのさ……もし学校が嫌ならやめても……」
「前まで行けって行ってたじゃん」
「……あれからいろいろ変わっちまったみたいだし……今のあんたなら引く手数多だろ?」
「そうだけどさ……」
ミリムがアリムのおでこにキスをした。
「な!なにすんだよ!?」
アリムは慌てて飛び起きた。
「ひひひっ!父さん御用達だった元気の出るおまじないさ!まあ父さんは口同士だったけどね!あははは!」
「うー……」
「ごめん下さーい」
その時、家の一回から聞き覚えのある男性の声がした。
「ホムロン先生……」
「あら、あんたの先生かい!?急いで行かないとー!今いきまーす!」
「……もう違うんだよ」
アリムの声はミリムには届かなかった。
「時間がないので単刀直入に言います」
松葉杖をついたホムロンが椅子にかけると、早速話を切り出した。
「御宅の息子さんを本国最高学位であるアーデミカル魔導学院へ推薦したいと考えています」
「「え?」」
「「ええぇえええ!?」」
アリムとミリムは驚愕したのは無理もない。
この世界でも最底辺と言っていい学校から世界最高レベルの学校への転入など普通はありえないからだ。
「しかし、恥ずかしながらうちの稼ぎじゃあ……」
「ご安心を、学費は実技試験に首席合格であれば免除という条件を取り付けました」
「まあっ!素敵っ!アンタ行っちゃいなさいよ!」
「いっ!痛いっ!背中叩かないでっ!」
ミリムは目を金貨色に光らせながらアリムの背中を叩いた。
「それに言っては悪いですが、本校は現在アリム君を広告塔として使い潰すつもりでしかなく、彼の努力の才能を殺してしまいかねません」
「……」
「どしたのアリム?何とか言いなよ!」
「先生はもう僕の担任じゃないんですよね?何でこんなことを……それに僕のことを恨んでるでしょうに」
「聞きましたか。私の同僚の愚痴を」
「はい」
アリムは顔を伏せた。
「あの時はああ言っておかないと他の教員にバラされて全てが水の泡になるところでしたので。あえて君を突き放しました」
「え?」
アリムは顔を上げた。
「しかしそのせいで君に余計な不安をあたえてしまったようですね。本当にすみませんでした」
「……」
「でも信じてください!この話だけは担任としての残り少ない時間で君に出来ることなんです!」
アリムはホムロンの真摯な眼差しをいじめの件以来、久々に受けた事を思い出した。
「……分かりました。僕行きます。アーデミカル魔導学院へ」
アリムの決意は固まった。
忘却の契約者 〜俺の魔力は天井知らず!?〜 ひろ。 @964319
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