幕間 愛は暴力

2.5-1

「送ってくれてありがとう。姉さんの様子を見に、明日も来るよ」

 そう口にした彼は逃げるように響華から遠ざかって行った。

 響華はたった今、ネメシス極東支部のビルの出口まで拓真を案内し終えたところだ。

 現在は早朝であり、約五十階ある巨大なビルのエントランスは当然ながら静かで、人影はほとんどない。正面玄関は目立つので、裏口から彼を送り出した。

 遠ざかる拓真の背中を愛おしげに見つめる。

 さっきまでの会話や仕草から判断するに、このままでは彼はきっと執行官にはなってくれないだろう。彼は酷く臆病だった。

 しかし、その程度で響華が諦める訳がなかった。

 彼女は己が欲したモノはなんとしてでも手に入れる。たとえ、その手法が非人道的なものだとしても。どんな手を使ってでも夢中にさせてみせる。

 少女は嗤う。その大きな目を細めて。そして、その隙間から覗くのは深い闇。

「緋織さん……」

 既に見えないほど小さくなった拓真の影に向かって、妙に艶のある声で呟いた。

「明日から、よろしくお願いしますね?」

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