絶望迷宮
達磨 太鼓
日常から絶望
俺こと
「なー、静。明日の弁当何がいい?今日は中華だったから和食?それとも洋食?」
「和食がいいかな...、でも隆二の作る料理なら何でも美味しい。(毎日恒例の新婚夫婦みたいな会話...よし、結婚しよ)」
「ははっ!褒めても弁当しか出ねぇぞ?...なら、和食で決定な!マツリカスーパーに寄って食材買って帰るか。......!!!...なんだっ!?」
「?!っ」
そのいつも通りの下校途中に、突然、地面が黒く眩く光ったかと思うと次の瞬間には、俺と静は今まで自分達の中ではある意味『都市伝説』として他人事の様に見ていた【絶望迷宮】と呼ばれる発見されてから千年間、誰一人として脱出した者のいない迷宮へと...突如として引きずり込まれていた。
「は?...何だ、ここ。...あっ!おい!静!!何処だ?!」
「......大丈夫だ、隆二。オレはここ、隆二の尻の下。(柔らかい...いい匂い)」
「うぉ!スマン静...今退く!」
洞窟のような内部は灯りも無いのに薄明るく見上げると上の空間はやけに高い、しかし周囲を見渡しても上と同じ岩の壁か、何処かへと続く道しか見当たらない。
最初は俺も静も何が起こったのか分からずに少し呆然としていたが、直ぐに状況の整理を始める。
「なぁ静、ここってまさか...。」
「ああ、間違いなく【絶望迷宮】だろうな。」
「マジかー、......ん?何か凄い大群が近付いてきてるな......デカい...犬?」
「目測で見繕っても平均6mはあるな、迷宮の番犬か?...すげぇ敵意剥き出しだけど。」
迷宮内に巣食う謎の生物、後に知った通称【喰らうもの】と呼ばれている化け物達が向かってくる。
『『ガルルルアァァァ!!』』
「俺達を襲う気か?...なら
「隆二を襲っても良いのはオレだけなんだよォ...?潰れろ...。」
直ぐさま我に返り、俺は蛇神の式神で、静は
「...はぁ、それにしてもまさか俺達があの【絶望迷宮】に引きずり込まれるハメになるとはな。大丈夫か、静?」
「あぁ......、ちょい吃驚したけどな。(......オレの心配で隆二の頭の中がいっぱいだぁ......ははっ!可愛いなぁ...オレの隆二は)」
下校時に持っていた荷物を確認しながら俺は、ふ...と顔を静に向けると、静の顔がニヤけていたーーって事は。
「こーら、静!...今、俺の頭ん中読んだだろ、顔がだらしなくなってんぞ?」
「ふふっ!あぁ、ゴメンゴメン...つい...な...、次は顔に出さないよう気を付けるから。」
「お前全く懲りてないな?!...まぁいいや、で、どうする?俺は最悪、体力切れても際限なく式神出して戦えるけど、静は能力使い過ぎるとヤバいだろ?」
俺は昔、静が能力を使い過ぎて暴走し、所構わず周囲を破壊し、誰彼構わず精神干渉して発狂させて大惨事を引き起こしたところを見て、落ち着かせるのに苦労した事があったため、心配になり問いかける。(因みにどれだけ暴走していようと静は俺に【だけ】は危害を絶対に加えない。本人曰く【どんなに理性が崩壊しようとも、オレが愛する隆二を傷つけるなんて太陽が消滅するのと同じくらい有り得ない】だそうだ)
「大丈夫...その時はオレ、隆二に抱きつきながら力使うから。そうすれば暴走しない...、多分。」
「随分と曖昧だな?まぁ...それならその時はそれで何とかするしかないな。」
「頼んだ。(あああぁ!!オレを全く疑わない隆二!!そのちょっと小首を傾げた姿も可愛い可愛い可愛いぃ!!...あ...、項...汗かいてる...舐めとりたいなぁ、勿体ねぇなぁ...)」
俺達が(正確には俺が)これからこの迷宮でどうするのか、考えていたその時ーー少し離れた場所から、かなりの爆発音が聞こえた。
「!!...静、今の音、聞こえたよな?」
「すげぇ爆発音だったな、...行くの?面倒くさくなる予感しかしねぇけど。(途切れ途切れに【声】が聞こえる...って事は他に人間がいるのか、せっかく隆二と二人っきりだったのに)」
「これからの食料とか寝床の事も考えなきゃだろ?人が居るなら行こうぜ、都合良く恩でも売れたらその手の場所が迷宮の何処にあるのか情報を貰おう、な?」
「......分かった...。(仕方ない...逆に考えればその寝床は今後、オレと隆二だけの愛の巣になるんだ...今だけの我慢だ我慢...)」
ーー▽△▽△ーー
爆発音のした方へ俺と静は
「第三部隊、全ランチャーの標準を標的の【キマイラ】正面方向中心部へ合わせろ!!第一・第二部隊は私と共に第三部隊へのキマイラ誘導に回れ!!」
「「「了解!!」」」
『グルガァアァァァ!!!』
ーー▽△▽△ーー
少し離れた位置から、どうやら【キマイラ】なる化け物と戦っている[軍隊]と称するのがピッタリな連中を眺めながら、俺は静に助けに入るタイミングを相談してみた。
「丁度、苦戦してるっぽいな。なぁ静、どのタイミングで助けに入るのがいいかな?」
「それならあの第三部隊とかいう奴らのランチャーが効かなかった時...ピンチを助けられれば獲物を横取りされた...何て思わないだろうし。」
「なるほどねぇ、ならあのキマイラとかいう奴の動き...俺が懐に入り込むまでの3秒間、静のサイコキネシスで動きを止めてくれ...んじゃぁ、頼んだ!」
俺は静にそう言うと式神から降りて、着弾したランチャーが全然効いておらず、第三部隊とやらに突進を続けるキマイラに向かって走り出した。
「任せろ。(オレを信じて疑わない隆二の絶対の信頼......はあぁぁぁっ!これってやっぱりオレ達は相思相愛なんだよなァ!!やっぱり隆二にはオレだけがいればいいんだ!!...ふぅぅ...落ち着けオレ...加減を間違って捻じ切らないようにしないと...はははっ!)」
ーー▽△▽△ーー
「くっ!強化弾を使ったランチャーでも倒れんか、第三部隊!ランチャーを放棄して第一部隊と急ぎ合流せよっ!......?!...キマイラの動きが...止まった?!!」
『グル...ゥゥ...ゥゥ!!』
「君は正面の頭が弱点なんだって?俺が君を楽にしてやるよ...ほいっ!」
素早く滑り込んだ俺の正拳突きは正面にあったライオンの頭を木っ端微塵にする。
頭だけ潰すつもりが、思ったより相手の頭蓋が脆かったのか俺の腕は頭部を破壊しそのまま肩の辺りまでキマイラを穿き、ソレは絶命した。
「!!?あのキマイラが...失礼だが、君は一体何者なのかね?」
大柄な男は少しだけ目を見開き、俺に問いかけてきた。
「?...ああ!俺は『(待って隆二、オレがつくまでその男には素性を何も話さないで、いい?)』......ちょっとその質問待ってもらっても良いですか?連れがいるんで。おーい、静!こっちー!」
静が俺の頭に直接話しかけてまで会話を止めさせたって事は、この大柄な男...結構な曲者か。
それから俺の式神に乗って現れた静は、口を開かず、じっ、と男を見つめ、自分の式神を労わっていた俺に再び頭へ直接話しかけてきた。
「『(隆二)』(どうした?)『(隆二の怪力のことは、鬼の式神を憑依させて強化してる事にして。じゃないとかなり面倒な事になる、この男[100の思考を同時進行で考えてる]。オレでも正確には考えが読み切れないから「かなり危険」な人間)』...。俺は芙葉隆二、一応...陰陽師を生業とした家系の者です。無口なこいつは幼馴染で親友の不動静。あの...失礼ですが貴方にも名乗ってもらっていいですか?」
俺の会話の間を訝しみながらも、要求に納得したのか大柄な男は姿勢を正して名乗った。
「それもそうだな、私としたことが。失礼、私はヴォルフ・カロン、元がつくが軍人だ。先程は私のギルドの同志を救ってくれて感謝する、ありがとう。」
「いえいえ!!...それにしても軍人さんだったんですか、...ああ!だからあんなに統率がとれた動きしてたんですね!」
「お褒めに預かり光栄だ...ふむ、君達は私達の戦闘を見ていたのだね。」
特に隠す必要もないので、俺はありのままの現状を伝えることにする。
「あ〜、すみません。俺達、実はついさっきこの迷宮に引きずり込まれたばっかりで...。出来れば食料のこととか安全な場所のこととか教えて欲しいんですけど...。」
「勿論だ、君は私の大切な同志達の恩人だからな。それにしても、君達は不運だったな...いきなりこの迷宮でもかなり危険な第80階層に飛ばされるとは。」
「80階層?...地下...なんですか、ここ?」
「その通り、私達の調査ではまだまだ下に階層がある事もそして上には出口が無い事も確認済みだ。しかし、不運であったと同時に幸運でもある。この80階層のセーフポイントを全て把握している私達に出会えたのだから。」
俺はヴォルフと名乗った男から、この絶望迷宮が地下に向かって伸びていること、上には出口が無かったこと、そして下へ進むにつれてどんどん空間が広くなっていること、下へ向かえば向かうほど現れる化け物が強くなっていること、どの階層にも様々な場所に《セーフポイント》と呼ばれる化け物が近付かない安全地帯があり、そこには屋敷の様な広さの家があり、どういう原理なのかガスや水道、電気なども通っているらしい。そしてその近くには野菜や果物などの作物が育ち、そこを拠点として動いている集団の事を『ギルド』と呼び、様々な派閥があることなどを教えて貰った。
「へ〜...、色々と教えてくれてありがとうございました、ヴォルフさん!」
「構わんよ、芙葉君。それから...話は変わるんだが、もし君達さえ良ければ私のギルド【フェンリル】に入らないかね?芙葉君はあのキマイラを一撃で倒す程の力を持っている、多種多様な式神という便利な偵察・先遣・撹乱・遊撃隊も使える。それに集団に身を置けば友人の不動君を守ってあげられるだろう。どうだろうか、君達にとっても決して悪い話ではあるまい?」
精悍な顔立ちに穏やかな笑みを浮かべながらヴォルフさんにそう言われた俺は押し黙ったままの静へ顔を向け...たことをちょっと後悔した。
静は無表情になり、仄暗い眼差しでヴォルフを見ている。
この表情と目は、俺に馴れ馴れしく肩を組んで絡んできた不良のクラスメイトに人格が崩壊するまでメンタルブラストを放ち続け、廃人になるまで追い込んだ時の顔だ。
静は俺にかなり依存・執着してるからなぁ...一応、抑えるか。
「静...、アレは駄目だぞ?」
「.........、隆二がそう言うならやめる。でも...コイツらと一緒は嫌、隆二...りゅうじりゅうじりゅうじりゅうじりゅうじ...りゅうじなら分かってくれるよな?オレいがいのニンゲンとイッショなんてダメだろ......?ダメだよな?イッショなんてダメだ...ダメだダメだダメだダメだダメだダメだ...そんなのユルサナイ...ユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイィ!!」
頭を抱えて狂ったように叫ぶ静を、落ち着かせるために俺はそっ...と静の両頬を包んで目線を合わせる。
「静、落ち着け...ほら...俺の目を見ろ。」
「......隆二............。」
ヴォルフさん達から向けられる困惑の目線を無視し、俺は静と数分間、視線を交わらせて自分の頭の中と心の中を包み隠さずさらけ出した。
「.........落ち着いたか?」
「...うん。隆二......、早くココから離れてもっと下へ行こう。オレと隆二の二人しかいない階層まで降りてそこで暮らそう?」
どうやら落ち着いたらしいかと思えば、さっき引きずり込まれたばかりなのに更に下へ降りると言い出した静に驚愕したヴォルフさんは少し慌てた様子で止めに入る。
「待ちたまえ、不動君!君のやろうとしている事はあまりにも無謀だ!!迷宮に引きずり込まれて間もない者が更に此処より下へ降りるなど...、自殺行為のようなものだぞっ?!」
「...うるさいなぁ......潰されたいのかよオッサン、なんならソコに居るお仲間と一緒にグチャグチャに潰して肉団子にしてやろうか?」
そう言った瞬間、静はサイコキネシスでヴォルフさん達の動きを封じ、砕けた瓦礫や小石や砂利、岩盤を辺りを囲むように浮かせてミキサーの様にグルグルと高速回転させ、ヴォルフさん達に対して威嚇しだす。
「ぐっ!?身体が...動かん...!...しかもこれは...まさか...超能力...なのか...?」
「そうだよ、アンタに心配されなくても...オレと隆二だけなら下の階層でもセーフポイントさえ見つけられれば外で暮らしてた時と何ら変わらない生活ができる。寧ろ、邪魔なんだよ...あんなに弱いキマイラ如きと戦えないような連中なんて。小石の方がまだ役に立つぜ?」
「くっ...!!」
ヴォルフさん達は屈辱に顔を歪めて、静を睨みつけている...。
これ以上は流石に危険(静の精神が)だと思った俺は、さっさとこの場から退散して下へ降りるべく、普段は絶対にやらないが、静の腕に誘うように絡み付き、身体を態と密着させて下層に繋がっている階段へと引っ張ることにした。
「!!!!?!...隆二?」
「なぁ...静?迷宮の仕組みも分かったことだしさっさと下に降りようぜ。静も、いつまでもこんなに大人数の『他人』と居たくないだろ?」
「!...うん!!!降りよう!......あ、アンタ達の拘束はオレ達がある程度まで降りたら解いてやるよ。」
「...芙葉君!私達は君達をいつでもギルドに迎え入れよう。その事は考えておいてくれたまえ。」
俺はヴォルフさんの勧誘を聞こえないフリをして、やけに上機嫌になった静と共に...下層へと降りていった。
絶望迷宮 達磨 太鼓 @NUXE
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。絶望迷宮の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます