起きるはなし

 次の日がやって来た。本日も見事な晴天で、日差しが少し鬱陶しいくらいだ。しかし天候など私達便利屋ウヴァンリャには関係ないのだ。掃除捜索遺跡調査エトセトラ、晴れでも嵐でもやるのが便利屋の仕事である。……嘘を吐いた、雨だと客足が遠のくので関係あるわ。

 日々の収入のために休むことは許されないので目を覚ましてベッドから起き上がる。去間さるま浮島うきじまはまだ眠っているようだった。浮島は昨日のうちに換金を済ませてくれたらしく、机の上には明細表と重石代わりの銀貨が乗せられていた。三枚。可もなく不可もなく、と言った程度である。恐らく三人分の一日の食事代に消えるだろう、お小遣いとしては上々と言えるかもしれない。

 何を食べようか思案しながら服を脱ぎにかかる。しかし魔法を使わずに着替えを行うのは中々難しく、時間がかかる。手間取っていると去間が目覚めたようで、こちらの様子を眠そうな目で眺めていた。

「女子の着替えを覗くなんて言語道断じゃねえ?」

「誰が女だよ、誰が」

 失礼な物言いのあと、去間はドゥイノと呟いた。するとたちまち着ていた寝巻きと用意されていた服や帽子がヤツの周りで浮き始める。こいつは着替えのときまで格好つけないと気が済まないらしい。衣服が舞うように去間の元へ寄り、透明人間が世話を焼くかの如く着せられていく。表情が丁度隠れて見えなかったが得意げに違いない。昨日魔法で恥ずかしい思いをしたというのに懲りないやつである。

 見学する気も失せたのでとっとと着替えを済ませて得物の確認をする。昨日活躍してくれた愛刀はかなり元気なようだ。光を浴びて輝くその姿が調子の良さを教えてくれる。今日もよろしく、と相棒に信頼の意を告げた。

 浮島はどれだけハードワークをこなしても翌日しっかり定刻に目覚めてくれる、根は真面目なやつなので特に声は掛けずに一階の食堂へ降りることにした。女将さんが気持ちの良い笑顔で挨拶をくれて、その横を手伝いの女マウスが忙しなく駆けていく。私は三人分の朝食の準備を始めてもらうよう頼んだ。確か宿泊代の中に食事代も入っていた筈だ。記憶は間違っていなかったようで、彼女は頷いて厨房に引っ込んでいった。

 適当に空いている席を見付けて腰を下ろす。程なくして先ほどのマウスがふらふらと水を運んできた。去間と浮島の分も頼むと、そのメスは一瞬黙り込んでその後に頷いた。先ほど女将が入っていった先へ歩いていくマウスの後ろ姿をぼうっと眺めて見送る。亜人より一回り小さく、圧倒的に劣る存在のマウス。どんな気持ちで生きてるのだろうなとつまらないことを考えた。やがてその考えは食堂の喧騒によってかき消されて、再び訪れた眠気に取って変わってゆく。

 眠気覚ましに水を飲もうとして、私の手ではグラスを掴めないことを思い出した。しまった、ストローを貰い損ねていた。マウスに頼もうかと待っていると、二人分の水も含めて一向にやって来ない。痺れを切らして厨房を覗いてしまおうかと考え始めた矢先、その扉が軋んだ音を立てて開く。やっとこさか。振り向くとそこに居たのは女将さんだった。丁度良いので声を掛ける。

「さっきのマウスに水二つ頼んでたんだけど、まだかかりそう?」

 ついでにストローも欲しい、と続けようとしたが、女将さんの上げた声でかき消されてしまう。あら! 驚いた高い声は、少し耳に煩かった。

「申し訳ございませんお客様、そうとは知らず、先ほど処分してしまいまして」

 今度は自分があらと声を漏らす番だった。その鋭利な爪で引き裂いたのだろうか、それとも太い牙で喉笛を噛み千切ったのか。なんでまた、聞いてみると彼女は堰を切ったように話し始めた。お喋りが大好きなようだ。

 要約しよう。何故ならばいつも私は去間や浮島に要点を意識して話せと言われるからだ。曰く、興味の対象があちらこちらと移り変わっていくスピードが速すぎて何が言いたいのか理解するのに時間がかかる、と。ついでにお前のナイフを振るうスピードよりも圧倒的に速いとか嫌味も言われた気がする。普段相性が悪い癖に、ヤツらは私を叱る時だけ異様な結託を見せるのだ。思い出して腹が立ってきた。水とか頼まなきゃ良かった。

 要約していなかった。それで、どうして女マウスが処分されたかと言うと、厨房で作業中にミスをしでかしたかららしい。一度目ならまだ許したが、それは三回目。繰り返される同じミスが本当に気に食わないと、吐き捨てるように女将さんは話した。私としては分かるようなここまでするかと言いたいような微妙なところだったので、それ「らしく」頷いて、話を右から、少し頭に残して、左へ追いやった。

 こんな朝っぱらから働き手を失って、今日を乗り切れるのかと他人事の薄っぺらい憂心を抱いていたが、そこは問題ないようだ。自分はマウス監督所の一人と仲が良く、融通を利かせてくれることを自慢げに話してくれた。マウス監督所マトと繋がりがある、なんて人によっては敬遠対象だと思うけれど、彼女はそんなこと考えもしないようなので余計なことは教えないでおこう。

 女将さんは粗方話し終えて満足すると、自分の要望通り水を持ってきてくれた。淹れてもらう時にストローも付けるように頼んだので、私はやっと水を飲むことが出来たのだった。

 面倒に思ったが長話も良い時間つぶしになったようだ。程なくして去間と浮島が揃ってやってきた。おういと手を振ってやれば私の姿に気が付いたようで、こちらに向かってきてくれる。去間は朝食がまだ来てないことを不満に感じたらしく、座ってすぐさま机の上をカリカリと掻き始めた。耳に障るからやめて欲しいが、めんどくさいオッサン去間は聞いてくれやしない。小さい苛立ちを貯めていると、小走りで女将さんが朝食を持ってきてくれた。ああ有り難い! お礼に若干の熱が籠ってしまったのは仕方のないことである。


 腹ごしらえを済ませて扉を押し外へ出る。ウヴァの中で一番憂鬱な癖に一番重要な仕事の時間だった。

「浮島」「嫌ですよ」

 間髪を入れずに返ってくる言葉はあまりにも冷たく取り付く島もない。浮島の癖に。しかし辟易したのは向こうも同じらしく、睨むような視線を投げられた。加えてため息も。酷いコンボである。

「いい加減諦めてくださいよ。貴方、今までもウヴァンリャとしてやってきたんでしょう」

 浮島の言う今まで、というのは恐らく去間浮島とチームを組む前の話だろう。そう伝えてあるからだ。いや、嘘じゃないけど。

 しかしなんちゃってウヴァと言うべきだろうか、あまり真面目に仕事をこなしていたこともない。生活に困る亜人などいないだろう。

 生きるために必要な野菜は変化の魔法であるヒァカトで入手出来る。よっぽど魔法が下手くそな亜人でも繰り返し練習すれば扱えるのが魔法であるので、餓えや衰弱で死ぬ亜人というのはほとんど存在しない。精神異常者やよほどのバカならあり得るかもしれないけれど。

 そんな事情により私は気が向けば依頼を請けてこなし時々放り投げる、なんて毎日を送っていたのだった。つまりこれからの作業――客引きなんて、今まではほとんどしていなかったのである!

「諦めたくない! 去間ァ!」「お断りだァ!」

 こっちも言い終わるか終わらないかのタイミング。むしろ食い気味だったので去間のヤツは待機してたに違いない。内心自分にも来るだろう来るだろうと思っていたのだ、嫌なオッサンだ。

 仕方がないので今回は浮島の要求を飲むことにした。ウヴァが仕事を募集した合図、イズィの魔法を発動してくれるボールを空に投げる。スイッチを入れて宙に放れば数秒で規制が解除され、ぽぽんっと軽快な音と、その場に色の付いた煙幕が巻き上がる。

 魔法を使うのは嫌だがマジックアイテムならぎりセーフ。貴方面倒くさがってるだけでしょう、という視線で浮島が睨んでくるが気付かない振り。

 声を上げてウヴァ営業中ですよ~なんて宣伝しても良いけれど、ボールがそれなりに長持ちするので正直蛇足だ。後は見つけて依頼を持ってくる人をひたすら待つのみ。ちなみに、私はこの作業が大嫌いだ。じっとしているのが苦手だし、そもそも何事においても受動的な姿勢を取らなければならないのは気に入らない。自分から動いて攻めていきたい。ほら、犬だし。わんわんきゃいん。

 去間は葉巻をふかし始め、浮島は武器の手入れに夢中だから、二人とも相手はしてくれないだろう。去間臭そうだし。ああ、逃げ出したい。逃げ出して魔物狩りか何かしたい。体を動かしたい。ああ、嫌だ!

「ううううう…………」

 私が呻いてもすっかり慣れたことなのか、二人は視線すら寄越してこない。薄情なヤツだ。二人で暇を潰すのは一先ず諦めることにする。代わりに空中で青い色の煙を吐き出しているマジックボールに小石を飛ばして当てようと遊ぶ。気まぐれに思い付いた遊びだったが中々面白い。浮島が視線を投げてきたが、声は掛けられなかったので気付かない振りをした。話しかけてくればすぐさま遊び道具にしたものを。まあ向こうもそれが分かっていたのだろう。

 正確な時間は分からないが、去間が葉巻を一本吸い終えて、浮島が三度目の手入れをしている時だった。イズィのボールが効果切れを示し出す色の緑に変わり始めたその時、遠くから大声が飛んでくる。「すみません!」聞こえた方向を見てみると、柔らかそうな垂れた耳を上下に揺らしながら上品そうな犬型亜人のお姉さんが走っていた。自分たちに声が掛けられたのだと気付くのにそう時間は掛からなかった。明らかにこちらを向いているし。後ろの二人を見やるといつの間にか私の後ろからお姉さんに笑いかけている。営業スマイル、というやつ。普段の彼らを思い出すと胡散臭くて仕方ないが、これも仕事のため。と思いつつ、ウヴァのこういう面はいつになっても面倒だし億劫だと感じる。

 止まった反動で身に着けていたポーチがガチャンと音を立てた。次いでふうと息を吐いて、女性は私と顔を合わせる。不安そうな顔。それを見て、私は一つの確信をした。――この人は必ず依頼をする。私達がどれだけ失礼な態度をとっていても。

まあ私の確信はよく外すのでアテにはならない。去間が一歩前に出て、軽く頭を下げた。お姉さんもお辞儀を返す。

「それじゃあ詳しいお話は、中で」

 依頼人候補と率先して話したがる性格の去間が、飯処としても営業している宿の扉を押し開ける。進むように促すと、女性は少し躊躇った。後ろから浮島が顔を出して、理由を尋ねる。更に黙り込んだ彼女を見て、私達は事情を察した。それなりにウヴァをやっているから、依頼人の背景は何となく分かってしまう。純粋に困っているのか、助けて欲しいが出来る限り金を払いたくないのか、むしろ騙し取ってやろうと考えているのか、等々。

「その、ごめんなさい。あまり人のいる場所では……」

「でしたら尚更ですよ。誰が通るか分からない街路より、賑やかで声を潜めれば周りに届かないお店の方が適してるモンです。秘め事にはね」

 うわっ今ウインクしたこのオッサン流石にやりすぎだと思わないのか。しかし幸運にも女性はその惨劇を目にしなかったらしい、成程と頷いて建物に入っていく。去間もキマったとばかりに満足そうな顔で後に続いた。残された私と浮島は堪らず顔を見合わせる。お互い同じ感想を抱いていることを察して、無言で扉を押した。と、煙玉の存在をそこで思い出したので回収しておく。

僅かに遅れて入り直す。三人はさっさと席に座っていたようだった。どうでも良いけど朝食時に座った場所の隣である。

 代わりのマウスはやって来ただろうか。真相は分からず、水を持ってきたのは女将さんだった。予めストローを持ってきてくれて有り難い。どっかでこの村について聞かれたらこの宿を勧めておこうと思う。

 周囲は去間の言った通り賑やかで、この騒めきの中では意図して聞き出そうとしない限り話が漏れることはないだろう。依頼人候補の亜人もそれが分かったらしく、水を一口飲んでから早速話し始めてくれた。

「二日後に、この村でソエリオというお祭りが開催されるのはご存知ですか?」

「それが目当てでもありました。なんでも数日に渡って大規模に行われるそうじゃないですか」

 浮島の言葉に、女性は頷いて、少し表情を曇らせる。

「ええ、そして村長が花で彩られた道を歩く時間が初日にあるんです。与花よかの時間、と呼ばれています。それが終わると、本格的にソエリオ祭が始まるので、つまり開会式のようなものでして」

「道を歩くのが?」

「はい。必ず行われる、大事な時間なのですが…………今のままだと、行うのが難しくて」

 話しているうちに滲んだ声色になった女性を見かねて、去間が慌てて慰めようとする。しかし流石オッサン、突然の出来事には対応出来ないようで、目が泳ぎ、声にならない声が揺れている。その様子が非常に面白かった(実際に目撃しなければ分からない面白さであるのが、惜しい!)ので、暫く観察していようと不干渉を貫いていたのだが、グダグダ相談の流れを絶対に許さない浮島が穏やかな笑顔を浮かべた。あいつ絶対内心はとっとと依頼確定させたいと思っている。仕事の無駄は許容出来ないやつなのだ、面倒臭がりの性格からして。

「それを解決するために、ここまで走ってきて下さったんでしょう? 私達に教えてください、力になりますから」

 定形書式テンプレート、けど一番理想的な言葉だった。別に整った顔、という訳でもないので物語よろしく女性がうっとりする展開は無かったが、多少の元気は取り戻したようだ。弱弱しいながらも微笑んで、頷いて見せた。同じくにこりと笑みを返す浮島。良かったと言いながら、役割を奪われ引きつった笑顔の去間。適当に相槌を打ちながら水を飲む私。いやあ面白い。

「与花の時間では、村民から村長に、また、村長から村民に、村の発展を願って花を贈り合うんです。……そして、村長からの花は、毎年特別なものを使っているんですが、それが……」

「盗まれた? なくなった?」

 言い淀んだ先の言葉を当てずっぽうで挙げてみると、女性は静かに首を横に振った。

「届かないんです。昨日の昼に届く予定だったのに、いつまで経っても」

 成程ねえ、という短い感想はストローで吸った水に溶けて消えた。去間は何やら思案顔をしている。この村周辺の地形には詳しいと言っていたから、色々考えを巡らせているのだろう。浮島が分かりました、と口にする。依頼の確認だ。我々がその花の行方を追えば良いんですね? それに、お姉さんはこくりと頷いた。

 ようし話はまとまった。立ち上がり我先にと飛び出そうとした私を、浮島が羽根で軽く叩いた。正式に依頼が成立していない状態で先走るなと言いたいのだろうが、そんなのは後で教えてくれれば良いのである。今の私は、衝動という名の抵抗出来ない頑丈な鎖に引っ張られて外へ向かうことしか出来ない。話し合いが飽きた、じっとしているのが退屈だ、そんな理由より、お天道様の光を浴びたいという気持ちが強い。結果は変わらないけど。

「後で去間教えてーっ。ご依頼有難う!」

 最後にお姉さんの方を一瞥してお礼を言っておく。これで明日もまた遊ぶことが出来る。返事や静止は聞かずに駆けだした。溜息を吐いたようだったが私には知ったことではない。折角ストローを用意してもらったのに水をほとんど飲まなかった事実に気付きつつ、扉を押して外へ出る。地面を踏みしめた瞬間、その足に力を込め屋根に向けて跳躍した。

 少し勢いが良すぎて、着地の衝撃を殺しきれずに多少の痛みが痺れとなって走り抜ける。それも一瞬。すぐに収まったので、瓦の並べられたそこに立ち村の様子を俯瞰する。店に入ったり、友人同士で談笑していたり、マウスが走っていたり、青い煙が登っていたり(同業者のものだろう)。営みというものを感じて、くすぐったい楽しさを覚えた。

 さて、やりたかったのは村の見物ではない。この近辺に、遺跡や町が無いかを調べることだ。村長が用意しておくべき花が届かないと彼女は言った。つまり届け元がある。この村は縮尺された地図上では私の爪より小さかった筈なので、近くに別の集落が……いや、むしろ遠くか?

 ここへやって来たのは数日前なのに、既にどんな土地だったか思い出せない。よく知っているという去間の言葉に任せてふらふら歩いていたから。こんなに去間や浮島に頼りっ放しで、万が一解散・脱退した場合、私は一人でやっていけるのだろうか?

「まあその時に考えればいいや」

 結論をひとりごちて、目を凝らしてみる。丁度涼しい風が吹いているから、去間が喜びそうな状況だ。そんなことはどうでもいいけれど。

 村の外を見やる私の目に入ってきたのは、不釣り合いな見た目の建物だった。不釣り合いというのは、周りの風景と比べた場合だ。その建物は緑の生えない地面に似合わぬ、ガラス張りのものだった。全体が古ぼけて黒ずんでいるし、間違いなく遺跡だろう。

 この世界にはこうした、効率的とは思えない建物が点在している。亜人たちがニェンで生活を始める前に建てられたものだと言われているが、誰が作ったのか、何を目的としたのか、それら一切が謎である。ウヴァンリャの仕事は、今みたいに誰かの困りごとを解決する場合もあるが、基本的にはああいった遺跡の調査が主である。依頼という形でこなす場合も、何か金になりそうなものが無いか捜索する場合もある。ただ、魔物が住み着いていることが多いから、欲を出すと大群に追い回される、といった出来事も度々起きるので注意して入る必要があるのだが。

 もし「特別な花」とやらが運搬時、魔物に襲われ何らかの理由で巣としていた遺跡に持ち帰られてしまっていたら、あそこに乗り込むことになるだろう。取り敢えず一番に配達元の痕跡を見付ける必要がある。まあ、去間が上手くやってくれるんじゃないかな。浮島も。私は魔物討伐の方が好きだが、二人はこういう、ちまちま依頼をこなす方が好きらしい。笑顔になってくれるのが嬉しい、とか良い子ちゃんのような事を言っていた気がする。本気なのは結構だが、いい年した野郎二人が口にしている時点で薄ら寒気を感じてしまうのは仕方がないと思う。

 そうしていると、下で扉の開く音がした。そんな気分なので、しゃがんで息を潜めながら様子を伺う。出てきたのは去間達だった。正式に依頼人となったお姉さんは居ないので、席に置いてきたらしい。二人して辺りを見回している。道を確認しているようだった。去間がひとつ頷いて、浮島にサインを送る。こっちだ、行こうぜ。浮島がそれを見て、返事代わりにかしゃんと重そうな鎧が音を立てた。そして彼に着いていくために歩き出した。

「ちょーおっと待てよ! 置いていくなっての!」

 うっかりそのまま見送るところだった。慌てて二人の前に飛び降りるが、驚きもしない。どうせそっから出てくると思ってた、と抜かしてくる。確かに屋根を揺らしていたから予想も付くだろうが、腹が立つものは腹が立つ。が、その苛立ちは抑えることにした。当たっていたら話が進まない。

「で、どっからどういう形で運ばれてるの? 何かしらの特別性を秘めた花は」

 要点を絞って尋ねると、浮島が溜息を吐いた。馬鹿にするつもりはなく、単純に呆れからつい零れ出たものだろう。代わりに去間が説明してくれる。浮島はその補足だ。

「発送元はチフーカンの花屋。所要時間は魔法で丸一日だと。花の方は、姿形は普通の花なんだが、どうやら黄金に輝くらしい」

「最短距離で届けられるでしょうから、チフーカンに向かうように北西へ進めば途中で痕跡が見付かると思いますね。まあ無理にでも作り出しますけど」

 目を細めて笑う浮島の姿はただの悪の大ボス……の参謀辺りがよく似合う。大層自信があるようだからもしかすると新しい魔法でも開発したのかもしれない。滅多に出来ないと聞くけれど。浮島、凝り性で暇人で中途半端に真面目だから。

 特別な花が届かない原因が何であるか、それを話のネタにしながら村の出口に向かう。人通りが多く、気を抜くとすぐに誰かとぶつかってしまう混みようだった。自分たちのように、ソエリオ目当ての亜人が増えたのだろう。無事に開催させるためにも、花を見付けてこなければ――とは、微塵も思わないが。祭りの雰囲気は好きなので、依頼未達成で尻尾巻いて逃げ出さないように、思い切り楽しめるように、頑張らねばと思う。ふぁいおー。

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