2.街の煌めき遠く溢れ
街の煌めき遠く溢れ 1
汽車から降りると、ホームでは見知った顔が出迎えに来ていた。
人混みの中、彼がハツキ達の顔を見つけ、その美貌を綻ばせ気安く手を上げて近づいてくる。その向こうでは、彼の護衛の者が駅員達にハツキ達の荷物を運ぶように指示を出していた。
彼はハツキの傍まで来ると、ふわりと抱き締めキスをしてきた。久しぶりの心癒やす感触にハツキも相手の背に腕を回す。
ほのかに香る彼の香水が鼻腔をくすぐった
「ハツキ。ヴィレドコーリへようこそ。また一緒に暮らすことが出来るな」
彼がハツキから唇を離し、挨拶の言葉をかけて腕を緩める。ハツキも少し身体を離すと、彼の
「うん、ユキ兄。今日からまた、よろしくお願いするね」
ハツキの返答に微笑しながら頷くと、カザハヤ・サネユキは顔を上げて、ハツキの後ろにいるアリタダ達にも笑顔を見せた。
「叔父様とサホもようこそ。ベーヌからの長旅お疲れ様でした」
「いやいや、サネユキ君もわざわざ出迎えに来てくれてありがとう。嬉しいよ」
「おい、ユキ。俺には何もなしか?」
他の人間にはにこやかに挨拶をするのに、自分には一言もない三つ年下の弟にサネアキが苦情を言うと、サネユキは兄に向かってふんと自信ありげな笑みを浮かべた。
「ハツキがヴィレドコーリに来るんだ。アキはお供でついてきて当然だろう?」
「おまえなあ……俺だって、美人の弟から温かく出迎えられたいぞ」
「よく言う」
兄の軽口に憎まれ口で返す。
だがサネアキが苦笑しながら軽く拳を突き出すと、サネユキもハツキから離した手で拳を作り、快闊に笑いながら兄のそれと合わせて兄弟同士の挨拶をした。
その後はサネユキの案内でカザハヤからの迎えの車に乗り、夕方の混雑時で人が溢れるヴィレドクルワーゼの駅をすみやかに後にしたのだった。
乗り込んだ車の中で、サホは大きく溜息をついて座席の背に凭れかかった。
その理由を察してサネアキ、サネユキの兄弟が笑う。
この兄弟は基本的な顔の造作は似ているのに、持っている雰囲気はまるで違っていた。兄のサネアキは男性的で精悍な印象だが、弟のサネユキは女性的とまでは言わないものの、兄に比べると柔らかな美しさが際立つ。
笑う表情にも二人の違いは良く表れていた。
そして、サネアキは高校と大学はヴィレドコーリの学校に通い、またサネユキに至っては高校入学時にこちらに出てきてからずっとヴィレドコーリの暮らしであるので、二人ともこの街によく慣れているのだった。
「ベーヌとは違うだろう?」
サネユキが笑い混じりに訊くと、サホは再度大きく息をついた。
「びっくりした。遠くから見た時は、きらきら光って綺麗だなって思っただけだったけれど……街に入ると光が溢れてて眩しくて。それに人もとても多くって目が回りそう。……兄様、本当に大丈夫?」
そんな心配など無用なのに、と思ったハツキの心中に気づいてのことかは解らないが、サホの言葉にサネアキが笑う。
「サホ。こっちにはユキがいるんだ。ハツキが困る訳はないだろう? それより、おまえだって来年は王立学院大学に進学したいと意気込んでいたのに、王都に来ただけでそれじゃどうする」
サネアキからかけられた発破に、サホはすぐに背を起こし、拳を握って気合いをいれるように息をついた。
妹の素直な様子に、車内の人間が笑いを洩す。
ハツキも皆と一緒に小さく微笑を浮かべてから、窓の外に目をやった。
街灯や繁華街のイルミネーションが煌びやかに光る。
ハツキにとってこの街の明るさは好ましい。
また、人の多さに多少辟易するものはあったとしても、この街の人々の関心は自分に向いてこない。ベーヌとは違うそのことこそが、ハツキには何よりも嬉しいものだった。
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