第301話 決着をつけるために!


「イダダダダ!痛いッス!」


「我慢しろ、固定すれば大丈夫だ」


 ボロがユリウスに手当てを強めにしてもらっている。カシラの方は地面に寝かせて、顔に銀聖水をかけてやる。まだ気を失ってはいるが、そのうち目覚めるだろう。なんたって顔色がいい。どす黒くて落ちくぼんだ目をした顔から、生気のある顔に戻っている。


「こちらは大丈夫だろう」


 ジークさんが上から覗き込みながら、そう評した。


「それよりヒロキ、こちらへ」


 俺はジークさんに連れられて、丘の上へ登った。


「フォリア?」


 そこには作業台の上に横たわる女神様の姿があった。カリンの小屋から持ち出したらしい夜具やぐの上に仰向けになって胸の上で手を組んでいる。


 身体から出る光はますます弱くなり、時たま明滅する。今にも消えそうだ。


「フォリア様がお前に話があると」


 そう言い残してジークさんは去っていく。なんだろう?


 そっと枕元に近づくと、長い睫毛まつげに飾られたまぶたが、ゆっくりと開いた。


 綺麗な紫色と空色を併せ持つ宝石のような瞳が、俺を映している。弱々しくため息をつくと、身体を起こそうとする。


 俺も手を貸して、上半身を支えると、フォリアはようやく口を開いた。


『……すまぬが、私の力が弱まっている』


「うん、もともと魔力が少なかったのに戦場に出て来てくれたんだものな。ゆっくり休めよ」


 戦いは厳しくなるだろうが、俺達だけでも追い払えるだろう。しかし彼女は首を振った。


『ヒロキ、奴は今夜こそ決着をつけるつもりだ。私も退くわけにはいかぬ』


「無理を言うな。だいぶ奴らの力をいでいるんだ。大丈夫だろ」


 フォリアは俺が支えている腕に更にもたれかかってきた。


『駄目なのだ。戦場の中心に奴の気配が集まっているのが、私にはわかる。いくら獣の体から黒い霧を追い出そうとも、別の個体に移ってしまう』


「わかってる。黒い霧の状態の奴を浄化するか、宿主やどぬしごと銀の矢で攻撃するか、だろ?」


『そうだ。だが宿主の候補はたくさんおる』


 確かにそうだ。

 銀の矢で黒い巨熊を滅ぼしたとしても、黒狼の数はまだまだいる。その中のグロスデンゲイルが集まれば、戦いは続行される。


 騎士団も大分戦力が落ちて来ているし、銀聖水も少ない。こちらの戦力がなくなって来たのだ。そしてまだ夜は明けない。


 俺は村の篝火かがりびうつしてほのかに輝く結界を見た。それすらも薄くなり、今にも壊れそうだ。


『今ここで私が姿を消せば、奴らは一斉に襲って来るだろう。あの村にも、な』


 フォリアは俺の腕をつかんだ。その手にぐっと力が入る。


『私は、大量の魔力を保存している』


「え?」


 反射的に彼女の顔を見る。

 しかしフォリアは俺と目を合わせなかった。その仕草しぐさに、胸の中に氷を押し込まれたような気持ちになる。


 目を合わせないまま、彼女は静かに言った。




『生贄の少女を使う』




 つづく

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