第300話 ハンカチとティッシュを持って行け!
必死で抵抗する俺の指先に、触れる物があった。
これ、これなんだっけ?
『アーッヒャヒャヒャ!苦しめ、苦しむがいいッ!』
くそう、何だっていい。
コイツの大口にぶっ込んでやるぁ。
俺は震える手で、ポケットの中の物を
声にならない声で叫ぶ。
「——!」
ズボッ。
しーん。
あれ?
何が起こった?
フワッとした浮遊感が起こり、俺は大地に投げ落とされた。急に自由になって、
「?」
少し身を起こして、彼の顔をみようとすると、折り良く彼の両腕が開いていく。ようやくカシラの顔が見えた。
が、目が白目を向いて
俺は一体何を奴の口にぶっ込んだのだ——?
見ればカシラの口から小さくも
「あっ!俺の『
カリンとの思い出の一本だ。これだけは俺の
……あああ!
何でそんな大事な物を奴の口に入れちゃったんだよ⁈
汚ないじゃないか!
(口にしたのがカリンだったらそんなことは思いもしないのだが)
しかし、カシラの身体はブルブルと震えが大きくなり、ついには——。
バシュ—ッ!
ありとあらゆる顔の穴から、黒い霧が噴き出したのだ!特に口と耳から大量に噴き出ている。
「わわわ!」
見ている方が驚く。
地面にうずくまるボロも、戦っているダズンも、その相手の熊も、目を丸くしてその様子を見ている。
どれくらいの時間であったのか、あっけにとられた皆が見守る中、カシラの体内から黒い霧が無くなったらしく、最後に耳からプシュンと小さく噴き出て、噴出は止まった。
ぐらりと体を傾け、地面に向かって倒れながら、カシラは口から『銀の匙』を落とした。
慌ててそれをキャッチしに行くが、受け止めたもののベチョリとし感触に
き、気持ち悪ッ。
とりあえず制服の端で拭いておく。ポケットにハンカチかティッシュを入れておけばよかった……。
スプーンに固執している間に、倒れたカシラはボロに受け止められていた。肩口に寄りかかるようにして、気を失っているようだ。
「えーと……ダズン!カシラを
動きを止めていたダズンは丸太を熊に投げ付けると、熊が怯んだ隙に、カシラをお姫様抱っこして駆け出した。
俺もボロを引っ張るように立ち上がらせると、
黒熊の事が気にかかって、振り返ると、奴は追っては来てなかった。
そのかわり——。
カシラから噴き出た黒い霧が集まって濃くなり、黒い帯となってその体にまとわりついていた。
それを吸収して、更に大きくなる。
……あれがラスボスだな。
そう思いながら、退却した。
つづく
300話記念オマケ 〜読んでくださる方々に感謝を込めて〜
ここまで読んでいただいて、本当にありがとうございます。読者の皆様には感謝しかありません。
◆ヒロキ/高校生
この戦いにおいて大怪我を負うが、カリンの機転で回復。彼女との約束を守る為、彼女の村を守る為、戦場を駆け回る。ジークさん(女騎士)の意外な一面に興味津々。
◆カリン/生贄の少女
この戦いにおいてヒロキを支えるように共に戦場を駆け抜け、更に女神フォリアの
◆フォリア/女神
この戦いの直前に力を使いすぎた為、はじめは幼子の姿でヒロキの前に現れた。戦場に降臨してからは強い結界を張ったり、雷撃を落としたりと活躍する。カリンの服に少々不満。
◆ジークさん/騎士
誰もが大貴族の彼女を腫れ物に触るように扱う中、初対面から自分を女性扱いしたユリウスが気になっている。しかし家柄と年齢と立場がそれを許さず、冷たい態度でしか彼に接する事が出来ない。隊長として騎士団員に敬愛されている。
◆ユリウス/騎士
彼はジークさんに対して特別何か思っている訳ではない。強いて言えば、怖い厳しい冷たい、と思っている。
この戦いにおいてはそこそこ活躍中。ヴァイスベル(馬)が大好き。
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