第297話 弱まる結界!

 ヒィイイ——ン……。


 澄んだ弦音つるおとを響かせて、銀の矢は戦場を飛んで行く。そして湧き上がる黒い霧を切り裂いた。


 光の帯が流れてゆく。


 銀や青、白金の光を織り交ぜて、その光は辺りの黒い霧を浄化していった。


「うわぁ……雪みたいだ」


 黄金色こがねいろ綺羅星きらぼしこぼれるようにゆっくりと降ってくる。


 銀の矢が触れた場所から、黒い霧は光に変わり、最後には光の粒となって降り、やがて大地に吸い込まれていった。


「銀の矢の力はすごいな」


 敵も味方も、皆が目の前の光景に見惚みとれていると、突然結界が揺らいだ。


「な、なんだ?」


「ヒロキ、見て!黒狼達が!」


 フォリアの結界によって、大地に押さえつけられていた黒狼達が首を上げ、前脚を伸ばし、徐々に立ち上がっていく。


「結界が……!」


 エレミアも声を上げて、カールに駆け寄る。


 彼女の目線を追うと、結界が薄くなって光の幕のようなその向こうの風景が、くっきりと見えているところがあった。


 フォリアの力が弱まっている?


 振り返って丘の方を見れば、ジークさんが俺に向かって、「戻れ」と手で招いていた。




 息を切らせながら丘のふもとに着くと、フォリアがうずくまっていた。身体から発せられる光も弱くなっている。


 ごめん。

 ちからが少ないのがわかっていたのに。

 子どもの姿で現れたのを見ていたのに。


 俺はうずくまるフォリアの肩に手を置いた。


「ごめん、無理をさせちゃったな」


『……ああ、少しな』


 フォリアは身を起こしながら、返事した。その表情は辛そうだ。顔色も良くない。まだ、かろうじて結界が在るのも、無理をして力を使っているのに違いない。


『まだなんとか結界はもつだろう。だが先程のような助力は無理だ』


 天からの雷撃のことだ。


「ありがとな。あとは俺達でなんとかする」


 俺はそう言うと、水鉄砲を交換しに丘を駆け上がる。だいぶ予備も少なくなって来た。


 それから戻って、フォリアとジークさんの護衛をしていたボロを呼ぶ。


「なんでやしょ?旦那」


「カシラを取り返しに行こうと思うんだ」


いま、でやすか?」


「うん。これ以上、闘いが長引くと、あとはもう銀の矢で身体ごと滅ぼすことになるかもしれない」


 俺は先程見た、崩れていく黒鷲の姿を思い浮かべた。助けられなかった事を少し悔やんでいる。


「カ、カシラをですかい⁈」


「そうなる前に、助けに行こう。ダズンは村の前にいるな。一緒に連れて行こう」


「へいっ!」




つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る