第298話 闇の誘惑!

 黒狼達の進撃を抑えるために奮闘している騎士団——。

 その脇から走り抜けて、俺とボロ、ダズンはカシラの正面に出る。真ん前ではなくて、少し距離をとった。


 何しろ奴は黒い熊に乗っている。その熊も幾度いくどか黒い霧の帯をまとったらしく、初めに見た時より大きくなっていた。


 その熊にいきなり攻撃されないために、距離をとったのだ。


 カシラが俺達に気がつく。


『クックック……出て来たな、女神の呼び出した小倅こせがれが』


「カシラ、戻って来い。二人とも待ってるんだぞ」


『クヒャヒャヒャ!待っている?コイツを?』


 カシラはどす黒い顔をのけぞらせて笑う。


みたいな愚図を利用するのは、楽だったからだ。だからつるんでいたんだよ。もクズ野郎だ。そんなのを待つなんてお笑い草だな』


 カシラは——いや、グロスデンゲイルはカシラの心の中を、さも知っているかのように話し出した。


 ボロとダズンは「うっ」と言葉に詰まる。


はこのままの方が楽しいと言っている。思うままに暴れ回り人々を蹂躙じゅうりんし、世界を自分と同じ物で埋め尽くしていく——いいだろう?』


 喉の奥で笑いながら、奴は俺達に——いや、ボロとダズンに向かって話し続けた。


『忘れてはいないだろう?山の中で誓い合っていたではないか。やり返すのだと。あれは誰に向かってだったかな?』


 ボロ達三人組が山の中に逃げ込んだ時の話だろう。ボロの目が挙動不審の動きをする。


『そうそう、そこにいる小僧と若い騎士に仕返しするんだったな?今がいい機会ではないか』


 ニヤリと口をゆがめて笑うと、奴は熊から降りて来た。黒く染まった爪の先をこちらへ向けてくる。


われが宿ると気分が良いだろう?もう一度こちらへくるが良い』


「カシラ……」


 ボロがつぶやく。

 脂汗あぶらあせを流しながら、目はキョトキョトと俺とカシラの間を行き来する。


 俺は腹に力を入れて、大声で言い返した。


「ボロとダズンはそちらには行かない!今は俺達の仲間だ!」




 つづく

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