第296話 天から降り注ぐ光!



 深緑騎士団の騎馬がサッと俺達の前に出て、盾となる。


「皆さん……」


「お気になさらず!救世主殿!」


 彼らは走り出し、向かって来る巨大鹿とぶつかり合った。角と槍が相見あいまみえ、絡み合う。


「ぐぬぬ、このまま引き倒すのだ!」


 誰かが叫ぶ。俺は巨大鹿を浄化する為に走った。倒れたら口に水を入れるチャンスだからだ。


 からんだ槍をうまく使って鹿を引き倒そうとし、更に別の騎士が足払いをかける。


 鹿は足を取られて大地にもんどり打った。地響きが聞こえる。寄ってたかって押さえつける巨大鹿の口に目掛けて銀聖水を放つ。


 が、おぼれさせる程の量ではない為か、なかなか鎮まらない。


「くそっ!フォリア——」


 頼ってしまう。

 なんとかならないかと。


 その焦る俺の頭上に影のような気配が走った。生き残っていた巨大鷲だ。


 俺を狙って——⁈


 急降下して来る敵に、思わず手をあげて頭をかばおうとすると、くうを切る鋭い音がした。


 ヒィン——!


 聞いたことのあるこの音は——。


 ジークさんの矢だ!


 フォリアの力を乗せた銀の矢は一条の光となって大きな黒鷲をつらぬいた。


 ゲ——ッ⁈


 あまりの威力に黒鷲が吹っ飛んでいく。大地に打ちつけられ、転がった先はカシラの足元だった。


 奴の目の前で、グズグスと形を崩してゆく巨大鷲。冷たい目でそれを見ているカシラ——いや、グロスデンゲイルは、チッと舌打ちをしたようだった。


「やった!」


「ヒロキ、前、前!」


「え?」


 カールに注意されて前を見ると、巨大鹿が立ち上がろうともがいていたところだった。まずい、急がなくては。


 俺はもがく巨大鹿の首元を抑えるように飛び乗った。再び大地に押さえつけられる巨大鹿。しかし、なおも暴れる。


 口元に水鉄砲を近づけるが、銀聖水の残量がわずかだ。カシュ、カシュ、と音を立てるばかりで、肝心の水が出ない。


 そこへ——。


「そのまま押さえていろ」


 ユリウスが剣を抜いてそばに立つ。


「薄皮一枚の傷をつける。そこに残りの銀聖水を注ぎ込め」


 そうか、それだけでも黒い霧を追い出す事が出来る!


 ユリウスが剣を走らせ、俺は水鉄砲からタンクを外して残りわずかな銀聖水を振りかけた。


 ギャッ!


 痛みからか、鹿は大きく跳ねた。俺は振り落とされ、騎士団の人々も跳ね飛ばされる。


 しまった!

 やっぱり水が足りなかった!


 それでもいくらかは黒い霧が抜け、巨体はサイズタウンしている。


「カール!エレミア!コリン!水は残ってるか⁈」


 三人は近寄ろうとする黒狼を近づけない為に、水鉄砲を使っていた。


「引き返す分だけ残ってる!」


 ダメか、敵の戦力を減らすチャンスだったのに……。


 あきらめかけたその時、空から光がさした。


 よ、夜なのに⁈


 皆が天を仰ぐと、光の塊が落ちてくる。キラキラと星屑を散らして、清らかなその光はまっすぐに落ちてくるのだ。


「フォリアの力か——?」


 そうに違いない。

 光はやがて収束しゅうそくし、稲妻のような形となる。そして、巨大鹿を直撃した。


 ヴォォオオオ——!!



 落雷。

 俺達には何も影響はないが、奴らにはまさに神の鉄槌てっつい


 バリバリと空気を震わせて、落ちたフォリアの雷撃は巨大鹿を気絶させ、その身体から黒い霧を追い出した。


 その噴出量はハンパない。


 空高く舞い上がるほど吹き出し、黒い噴煙のようだった。


 茫然と立ち尽くす俺たちに、丘の方から凛とした声が届いた。


「そこをどけ!」


 その声に押されて、皆がそれぞれ左右に分かれる。


 声の方を見れば、ジークさんが矢をつがえていた。


 そして立ち昇る黒煙の如き魔の霧に向かって——。




 つづく

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