第290話 女騎士のウィンクには勝てません!


「そこが危険が伴うわけだな。私にこそふさわしい場所だ」


 ジ、ジークさんっ。

 素敵です。でも、何というか女性を危険な場所に送り込むのは気が引ける。


「馬鹿なことを言うな。そんな事を言っている場合ではない。私が一番奥まっている東北を受け持つ」


「ジーク様、それはさすがに……」


 意見するユリウスをジロリとにらむと、ジークさんは胸を張った。


「この三ヶ所は敵に悟られずに素早く近づく必要がある。我らが騎士団が奴らを引きつけている間に、馬を走らせて所定の位置に付くのがよかろう?」


「……」


「ヴァイスベルも落ち着いたであろうな、ユリウス」


 その言葉にユリウスも顔を上げる。


「もちろんです!自分が愛馬ヴァイスベルと共に北へ参ります!」


 その言葉にいつも無表情なジークさんが少しだけ微笑んだ。そして次に俺に向かって、


「そなたは東でどうか?私が馬に乗せて行き、途中で下ろす。私とユリウスがそれぞれの場所に着くまで、自分の身を護れるな?」


 と、力強く言う。


「……本当は俺が東北に行くつもりだったけど……」


「フォリア様の前だ。少しくらい良い所をお見せしたい」


 そして見た事のない、キレイなウインクを決めてきた。


 これは断れない。

 そう言う事なら——。


「よし、決まりだな。みんな気を付けて行こうな」


 俺は皆んなの真ん中に右手を出した。以前、市場でやったヤツだ。


 カールとエレミアが俺の手に手を重ねて、他の皆をうながす。


「ほら、みんな右手を出して!」


 その場にいた全員が手を重ねる。


「絶対、勝つぞ!」


 せーの、


「おおー!!」




 敵を引き付けるのは、このまま今戦っている深緑騎士団の受け持ちだ。ついでにフォリアも張り切っている。


『ふふふ。ようはあの阿呆めの気を引けば良いのだろう?』


 何をする気だろう?

 バーカとか、言うんじゃなかろうな。


 フォリアは丘の端に降りると、戦場に響き渡る声でグロスデンゲイルに呼びかけた。


『魔の者よ、グロスデンゲイルよ!聞くが良い!!』


 朗々ろうろうたる女神の声に、戦場の時が止まる。


 黒狼達さえも動きを止め、騎士達も皆、敬愛すべき女神の一言を待つ。


 カシラもこちらを注視している。


 そしてフォリアは言い放った。




『バーカ!!』




 つづく

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