第289話 ある作戦をやってみよう!


 俺がかたわらに来た事に、フォリアは気がついていたようだ。振り返りもせずに、俺に話しかけて来る。


『ヒロキ、策はあるか?』


「……あてにしてくれてんのかよ」


『少しはな』


 少し、かぁ。

 ちょっとがっかりしながら、俺は戦いの前にユリウスにだけ打ち明けた作戦を話してみた。


「効果あるかな?」


『悪くはない。いや、奴らの全勢力を足止め出来る、良い作戦じゃ』


 わー、ほめらめられた。


『人を集めよ』




 丘の上の作業台に皆が集まった。村からボロも呼んである。


 俺、白金のフォリア、カール、エレミア、ユリウス、ボロ、そしてジークさん。(今はジークさんの代わりに副官の人が指揮を取っている)


『一人足りぬな』


 コリンがいればいいのだが、今は村の防衛にまわっている。


「おれが村に寄ってからコリンを連れて出るよ」


 カールがそう言ったので、フォリアはうなずいた。そこへエレミアが質問する。


しなければいけないの?順番に行くとか」


『同時が良い。多少のズレは構わぬ。奴らに気づかれなければ良いのじゃ』


 俺達は作業台の上に広げられた地図を見ていた。俺が丘の上から見て描いた、リール村周辺の地図だ。


 今、皆が見ているのは戦場となっている広大な麦畑の辺りである。


 奴らはほぼ全体がこの麦畑の中におさまっている。この戦場の中で、縦横無尽に走り回っていたり、多少の陣形を形作ってはいるが、歪な円形の中に囲むことが出来るのだ。(地図上では)


 そしてすぐそばにある、リール村の『結界を作る紋章』のタイルの位置も記入してある。その位置は俺が簡易的に作った日時計で調べたところ、ほぼ八方位に等しかった。(ちなみにスマホのコンパスは使えなかった)


 つまり東西南北に更に四方位を加えた位置に、紋章が配置されて、リール村を護っていたのだ。


「これを、この戦場に応用して、黒い霧を逃さないようにするわけか」


 ジークさんが形の良い細い顎に手を当てて、一人呟ひとりつぶやく。


「紋章のタイルの代わりにするのが、これです」


 俺はそう言いながら、『シルバー・スプーン』を出した。ユリウスには先に相談していたので、彼がそつなく八本の『銀の匙』を皆に渡す。これにはすでに女神の力が付与されている。


「コリンの分はおれが持って行くね」


 カールが二本受け取った。


「そうなるとカールが西側を受け持つ事になるな。そしてフォリアはここを離れられないから、南の担当な」


『うむ』


 俺の言葉にフォリアは悪戯いたずらっぽい笑みを浮かべる。奴らの鼻を明かしてやろうと思っているに違いない。


「で、村の方が篝火で明るくて、水鉄砲の援護もあるから、南西——村の入り口付近がエレミア」


「まかせて」


 こちらもニマッと笑う。勝気な彼女の事だ。やったろーじゃん、って感じたな。


「村の少し先、西の担当はコリンに頼もう。すぐに村に戻れるだろう。その向こうの北西がカールでOK?」


「了解っ!」


 いつも通りの頼れる笑顔だ。絶対成功するって、信じている顔だ。


「そして反対側の東南、ボロ。丘に近いから安心してくれ」


「へいっ!頑張りやす」


 ボロもカシラを取り戻す目標があるから張り切っている。


「ここからが問題だ。残る北、東北、東は奴らの陣営のほぼ背後うしろにあるんだ。だから……」




 つづく

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