第258話 聖なる結界!

 フォリアの聖なる丘を目指して、大鴉達は黒い矢のように突っ込んで来る。


「わわっ!やべっ!」


 俺は慌てて足元に横倒しになっていた長い棒を持ち上げた。棒の先には大きな布が付いている。


 シーツで作った、旗だ。


 白い旗は縁起が悪いと思い、青い絵具でフォリアの紋章を描いた。なかなかに良くできたと自画自賛したそれは、村への合図を送るためのものだ。


 下から上へ、大きく持ち上げて攻撃の開始を知らせる。


 敵が真っ直ぐに丘を目指して来るとなると、村はその側面側を攻撃できる位置にある。今は大鴉が丘を目指して飛んで来ているから——。


 好機チャンスだ!


 村の土壁の上に、人影が並ぶ。おれの合図が伝わったのだ。


 リール村の弓部隊。


 彼らが素早く矢をつがえ、引き絞る。当たらなくてもいい——そう伝えてある。


 大鴉が彼らの前を通り過ぎるのを見計らって、矢が放たれた。


 矢にはテグスが結ばれている。元々は矢を回収する為だったが、今は別の役に立つ。


 フォリアの魔力を宿した矢は、そもそもが曲がっていたり、矢羽が古かったりして真っ直ぐには飛ばない。


 だが返ってそれが奴らを撹乱する。


 大鴉達は少し戸惑って、矢を避けるためにそれぞれ左右に身体をよじった。


 そのうちの数羽が——急旋回して地に落ちる。


「やった!かかったぞ!」


「何をした?暗くて良く見えんが……」


「糸だよ。テグスっていう丈夫な糸。矢につけていたから、何羽か引っかかったんだ」


 絡まったままの大鴉は、ズルズルと村の方へ引っ張られていく。村の結界の中に引きずり込めば、大鴉も力が弱まるだろう。


「こっちにもまだ向かって来るぞ」


 取りこぼした分は仕方がない。この丘はフォリアの結界が守ってくれるだろう。


 まさに神頼み——。


「来るぞ!」


 ユリウスの叫びとともに、体に感じるほどの衝撃が丘の結界を襲った。十数羽の大鴉が勢いよく体当たりしてきたのだ。


 ギャアッ!ギャアッ!


 フォリアの結界に触れ、バチバチと音を立てて暴れる大鴉達。その黒い体に、無数の青い雷撃が走るのが見えた。


 ダメージを受けて、奴らが結界から離れると思いきや、大鴉達は逆に結界にまとわりつく。


 グワァッ!グアッ!


 一斉に苦しみの声をあげながら、何故か結界から離れようとしない。


「なんなんだコイツら⁈」


 カリンも悲痛な声を上げる。


「離れて!お願いだから!」


 彼女は加圧式水鉄砲を奴らに向けた。彼らの嫌いな銀聖水で結界から離れさせようというのだろう。


 カリンが銀聖水を放った。


 ギャアァァ—ッ!


 清らかな水を受けた大鴉が、ひときわ大声を上げて、結界から離れる。——が、それは一瞬の事。数メートル飛び退すさったあとに、再び見えない壁にぶち当たって来る。青い光が雷のように走るのが目に焼き付く。


「なんで?苦しいのに⁈」


 俺の疑問の声に、ユリウスが焦りを滲ませながら答えた。


「もしかして、だが……、結界の力を放出させて弱めようというのではあるまいな」


 ええっ⁈




 つづく

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