第259話 やって来た者!

 結界を弱める?

 そんなことが出来るのか?


「出来るかどうかはわからんが、フォリア様の御力おちからには信仰心が源になると言っていただろう?ここはだいぶ人が少なくなった。そこを突いてくるつもりかも知れん」


「でも、この丘は特別なんだ——」


 フォリアの薬指が埋められているから、と言おうとして、慌てて口を閉じる。この事が騎士団に知られると、掘り返される恐れがあるからだ。


 神殿都市のフォリアの聖骸を完璧なものにする為に、骨を持っていこうとするかもしれないと思ったのだ。(ユリウスがそういう奴では無いとわかっているが……)


 それに、フォリアの薬指が想い人のハイランダーと共に眠っている場所だ。


 荒らされたく無い。


「と、とにかく此処ここは大丈夫だと思う」


「そうか?では、このまま攻撃させてもらうぞ」


 ユリウスはそう言った剣を抜いた。確かにこのまま、結界に張り付いた大鴉を仕留める事は簡単だ。


「お待ち下さい!」


 俺とユリウスはカリンの声に振り返る。


「どうした?」


「あれを——」


 彼女は自分の小屋の上を指した。とんがった屋根のてっぺんに、一羽の鳥がとまっていた。


「もしかして、あの時の?」


「ええ、あの子です。おいで、クロウ」


 名前付けてたの⁈




 クロウと呼ばれたそれは、以前俺達が助けた鴉だった。カリンの言葉に従うように、彼女の足元に舞い降りる。


「クロウ、皆を助けてあげて」


 クロウは「グワッ」と返事をすると、青い雷撃を受けている仲間達に向かって近づいた。


 クアァァァ————ッ!


 響くような、歌うような、長い長いひと鳴きをする。ただの喚き声じゃ無い、語りかけるような鳴き声だ。


 クロウはそれを繰り返した。


 ひと鳴き、ふた鳴き。


 少しずつだが大鴉達に変化が出始めた。首を傾げるようにして、結界から離れる。見えない壁を挟んで、向かい合ったまま、クロウは仲間達に語りかける。


 その時、離れた黒い霧の一団から暗い闇色の罵声が飛んできた。


『さっさと結界を破れ!馬鹿者ども!お前らの中にはわれがいるのだぞ!』


 カシラだ。

 正確には彼の中に巣食っている、グロスデンゲイルだ。


 その声を聞くと、再び大鴉達は結界に向かってくる。


「クロウ、頑張って!」


 カリンの声に応えるように、クロウは声を張り上げた。


 クアァァァ——!


 すると大鴉達は結界に張り付き、苦しみながらもクロウに向かって鳴き声をあげる。


 クアッ!クアッ!


 今までとは違う、会話するような鳴き声。


 クロウは振り向くと、カリンに向かってひと鳴きした。


「あっ、わかりました!ヒロキ、手伝って下さい!」


 カリンって……鴉と会話出来るの?




 つづく


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