第252話 フ女子再び!

 手を上げたのは、ユリウスの部屋で鼻血を出して倒れたシャノンだった。


「あれ?もう大丈夫なの?」


「はっ!ヒロキ様……も、もう平気です。……それよりも私が奥様と一緒に参ります!」


 俺と村長は顔を見合わせた。

 女性二人で大丈夫だろうか?


「ヒロキ様に頂いた、銀の御守おまもりもございます!それに私にはコレが……」


 そう言いながらシャノンがエプロンの結び紐にはさんでいたモノを取り出した。


「それは……?」


「ふっふっふ、お菓子作りに欠かせない、めん棒でございます!」


 シャノンが取り出したのはクッキーの生地を延ばしたりするめん棒——握りやすく硬い木で出来ている、30センチ程の長さの棒であった。


 た、確かにコレで思い切り殴られたら気絶するかも。


 それを聞いていたオリビエさんも、


「あら、あんたもなの?私もコレよ」


 彼女が取り出したのはパスタ用のめん棒——太さはシャノンの物より倍以上あり、両端に持ち手がある、調理用のローラーだ。


 こ、これを振り回す気か……?


「気が合いますね!」


「ええ、早く支度しましょう、シャノン!」


 あああ——!

 二人は遠出の支度をすべく、さっさと行ってしまった。俺と村長は横目でちら、と目を合わすと、そのまま「仕方ない」と目で会話した。




 遠出とおで支度したく、といっても外套コート羽織はおり、村長から非常用の路銀ろぎんを受け取るくらいだ。特に今回は急ぎの道行きだから、荷物は少ない方が良い。


 とはいえ、銀聖水は持たせた方が安全と思い、シャノンにペットボトルを一つ渡す。


「いざという時はこれで円を描くんだ」


「円……ですか?」


「そう、そしてその中で身を守るんだ。魔物は入ってこれないから、大丈夫。街道からはずれなければ、人に見つけてもらえるし、町が近ければ魔物は現れないと思う」


「わかりました、ヒロキ様」


「それにしても……」


「はい?」


 それにしても、シャノンの外套コートは薄くて寒そうだった。だいぶ着古した物らしく、あちこち擦れている。


 もしも魔物に囲まれて銀聖水の結界の中で夜を過ごす事になったら、身体を壊してしまいそうだ。俺は着ていた学校指定のダッフルコートをその場で脱いで彼女に渡した。


「これを着て行って。オリビエさんの外套コートよりも、君のは薄手だから寒そうだよ」


「ヒ、ヒロキ様!」


 シャノンは嬉しそうに受け取ってくれた。良かった。気持ち悪いとか言われなくて……。


「どうしましょう……ユリウス様とヒロキ様が、私をめぐって争われたら……お二人の友情にヒビが?いえいえ、それは——イケますわね!」


 この大変な時に、君は何を言っとるんだ⁈





 つづく


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