第251話 誰か町へ行ってくれませんか!


「そうですね。誰かいている方はいるでしょうか?」


 町に人をやる——深緑騎士団グリューネ・ヴァルトのジークさんに知らせるために、誰かに行ってもらうのだ。


 今ならまだ明るいうちになんとか町に着くだろう。黄昏の中、ジークさんが来てくれるかはわからないけど……。


「えーと、俺ちょっと村へ行って、頼んでくる!」




 俺が村へ着くと、折り良く村長のデルトガさんが門のところに来ていた。


「ヒロキ殿、黒い霧がやって来ているとか?」


「はい、あれです」


 村の入り口から見ると、高い山を背景に地平に広がる黒いモノが押し寄せて来ている様に見えた。


「むう……。勝算はおありですかな?」


「ええ、まあ」


 無いとは言えない。

 変に期待される前に、俺は素早く言葉を継いだ。


「それでですね、町へ行ったジークさん達にも連絡を入れておきたいのですが、誰か町まで行ってくれる人はいませんか?」


「おお、そうですな。騎士団が来てくれたら鬼に金棒。勝利は間違いなしじゃ。誰か手の空いている者はおらぬか?」


 村は夜に備えて明り取りのための薪を準備していた。特に村の入り口近くの広場には焚き火の用意もしてあった。


 そうか、寒くなるから暖を取るために必要だな。まったく、奴らはなんて時に攻めて来たんだ。


「いつもならカールに頼むのだが……」


 バタバタしている村内では、誰もが忙しくしていた。薪を運ぶ者、武器代わりにすきくわを用意している者、投石用の石を集めている者、水鉄砲を運ぶ者、銀聖水の水桶を用意している者、食事用にパンを焼く支度している者、男も女も少年少女も動き回っていた。


 目の前に大きなテーブルを運ぶ一団が通りかかった。村長が声をかけて説明すると、その中の一人が手を上げた。


 カールのお母さん——オリビエさんだ。


「私が参ります」




「オリビエ、手を挙げてくれてありがたいが……女一人の身では危険では無いか?」


「いいえ、まだも出ています。まだまだあしも丈夫です」


「しかしのう……」


 デルトガさんは渋い顔だ。


「行かせて下さい」


「いや、やはり男手にまかそう」


 だが、村長に断られてもオリビエさんは食い下がった。


「今は村に必要なのは、戦うための男手ではありませんか?」


「むむ、それはそうじゃが……」


 押し問答する形となった二人だが、俺にはどちらの言うことも理解できる。村の為に行動したいオリビエさんと、一人で町へ行くことを心配する村長と、両方の気持ちがわかるんだ。


 そこへ、誰かが手を上げながら前に出てきた。


「私も参ります!」


 それはシャノンだった。




 つづく

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