第228話 勝つ見込みがあるのなら!

 それからは突貫工事ならぬ突貫作業だ。少しでも早く銀のスプーンを増やそうと、俺はボロを起こして——ダズンは起きなかった——ベビー服の入った箱を増やすのを手伝わせた。


 とにかく俺は窓から箱を押し出す。例のゼリーみたいな感触の抵抗を受けながら、押し出すのだ。箱を窓から出したら振り返ってクローゼットを開けて、また箱を出す。少し下の方にあるから出しにくい。とはいえ、これほど強力な武器を増やせるのだからと、ひたすらこの作業を繰り返す。


 一方、外では箱を受け取ったボロが、作業台に運び、古いガムテープをがし、小箱を出す。軽く蓋を閉じ、作業台のそばに積んでおく。(後で増えたベビー服を町まで売りにいくのだ)


 小箱は作業台の上に置かれ、椅子に座った『白金のフォリア』が手に取ってその力を込める。


 そうして寒い中、およそ50本ほど増やして今夜はここまでにしようと、俺は切り出した。


 俺は部屋の中だけど、ボロとフォリアは外での作業だ。すっかり身体が冷えてしまっただろう。


「あっしは動いていたんで、それほどでもねえですけど」


「でも悪かったな。助かったよ」


「いえ、これくらいのこと、旦那の手伝いになるなら平気でやす」


 そう言ってボロはダズンの隣に早々と引き返して行った。


 俺は『白金のフォリア』も追い立てるようにして、カリンの小屋に押し込んだ。


「早くあったまってくれよ。風邪をひかれちゃ困る」


『なんじゃ。せっかく銀に力を宿したのに、それはなかろう』


 いやいや、俺はカリンの身体を心配しているんだけど。フォリアは風邪をひく事はないだろうけど、カリンの身体はかなり冷えてしまったはずだ。


『そうかの?』


 フォリアは小屋に入ると、いきなり俺の手を握った。


「ぅわッ!」


 冷たい手に触れられて、思わず声が出る。


『なるほど、お前の手は暖かいな。……この者の身体が冷えているのか』


 自分ではわかりにくいらしい。


『それでも、この身体に宿れば人の温もりがわかるというのは不思議なものだな……』


 フォリアは——カリンの身体に宿ったまま、俺の胸に飛び込んで来た。


「ちょっと!またふざけるのは……」


 やめろと言いかけた俺の顔を、冷たい手で挟むように抑えると、フォリアは紫色の瞳で俺を見つめた。




 時が、止まる。





 つづく

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