第229話 馬鹿な二人!

 俺はいつもまどわされる。

 カリンによく似た、カリンの身体に宿った、女神様に。





『お前は暖かい』


 フォリアの手は冷たくて、寝不足で少しぼんやりした頭にかつが入る。一気に目がめた。


 めたけど、なんか現実味が無い状態だ。目の前に好きな女子に似た顔で俺を見つめる綺麗な女神様。


 その身体は好きな女子の身体で、その両手で俺の顔を挟んで——引き寄せられる。


 顔が——。



 ゆっくりとまぶたが閉じていく。長い茶金色のまつ毛が白い頬に少し影を落とす。桜色の唇が少しだけ開いていて、そのまま近づいて来る——のがスローモーションのように俺の目に映っていて——。





 むにっ。


 俺の手が反射的にフォリアの顔面を押しとどめていた。


『……』

「……」


 そのまま2人して動きを止める。


 俺の指の間から紫色の瞳がにらんでいた。


 いやね、手が勝手に動いたわけで。俺も時間が巻き戻って、もう一度チャンスが来ないかなとか、やり直したいとか一瞬考えたけど。


「カリンの身体で勝手な事すんなよ」


 精一杯の虚勢を張る。

 初めてでびびったのもあるが、ダメだろこれは。


 顔面を押さえられたまま棒立ちになる女神様ははたから見たらシュールな光景だ。そのままフォリアは口を開いた。


『馬鹿め』


「ばっ、馬鹿?」


『これはこの者の感情に引きずられただけだ』


 え?


『私が自らそんなことする訳なかろう』


「……」


『この者の気持ちを汲んだけじゃ。勘違いしおって』


 待て待て待て。

 それって、それって…………カリンが……?


 フォリアは俺の手を軽く押し除けてそっぽを向く。


瞬間に私がこの者の身体から離れるつもりであったのに、ああ、残念じゃのう』


「あ、う……」


 女神様は横目で俺を見ながら悪戯いたずらっぽく口を曲げた。


『なんじゃ?言いたいことでもあるのか?』


「あのう、すみません。もう一度チャンスを下さい」






 その夜、聖なる丘には『誰がやるかー!』という女神様の怒鳴り声が響き渡った。




 つづく

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