第174話 嘲りの男!

き出しの敵意に、フォリアはその美しい眉をひそめた。


しかしグロスデンゲイルはそのまま意にかいせず続ける。


『クヒャヒャヒャ!またしても我の前に立ちはだかるか!』


フォリアは右手を勢いよく振った。

銀聖水の球が奴に向かって飛ぶ。


水の球はグロスデンゲイルの眼前で見えない壁に当たったように弾けた。


銀色に光るの水が細かく散って地に落ちる。


『クヒャヒャヒャ…どうした?力が弱くなってるなァ。あの頃の生命のほとばしるような戦い方は出来なそうじゃないか?』


フォリアは唇を噛んだ。

奴のいう事が的を得ているのだろう。


だが今は今で違う戦い方が出来るはずだ。そうでなければ、俺を召喚したりしないはずだ。


…?

…てことは俺が何かするのか?


な、何が出来るんだろう…。

(ヤバイ…思いつかない)



フォリアは手首をひるがえし、2発、3発と銀聖水の球を放つ。しかしそれらもまたはじけ飛んだ。


周りの狼達がその飛沫しぶきを嫌がり逃げまどう。


『ブヒャーッヒャッヒャッ!…何が人ならざるもの、だ。お前もそうなってしまったようだな?お前こそ人ならざるものだ』


『黙れ!わざわいをなす者よ!この世を、人々を、無におとしいれるわけにはいかぬぞ』


『やってみるがいい!』


グロスデンゲイルの身体から黒い霧が吹き出す。湧いて出たそれはうねりながらフォリアに向かって来る。


俺はとっさに彼女の前に立ちふさがった。


「危ない!——…あれ?」


黒い霧の塊は丘の結界にぶつかって霧散していた。


フォリアが呆れたように俺に向かって言う。


『馬鹿者、この丘の結界をなめるでない』


…せっかくまもろうと思ったのに。


ん?


目が合った。

奴と。


なんだ?

なんで俺を見ている?


一瞬の後、奴はまた下卑げびた笑い声をあげた。


『…ッヒャヒャヒャ!それが、あの男の代わりか?女よ』


あの男の代わり?


それを聞いたフォリアが激昂する。


『ふざけおって!』


残りの銀聖水を放つ。

今までよりも強い光を宿している!


最大に弾けた——が、やはり奴は無傷だ。その代わりに飛沫しぶきを受けた周りの狼達が、耳を塞ぎたいくらいに吠え立てる。


『どうした?もう手がないみたいだなァ?ソイツに力を使い過ぎたか」


奴が指しているのはいまだ地に倒れたままの大男・ダズンの事だ。


「フォリア!あの雷撃みたいなのは出せないのか?」


『……』


彼女は困った表情で俺を見た。

俺は真っ直ぐに見返す。


「頑張れ、フォリア」


紫色の瞳が驚いたように見開かれる。

俺もそんな言葉が口から出て驚いている。


でも、フォリアを信じる力が彼女の力になるなら——俺は誰よりも彼女の事を信じている。


だって俺をこの世界に連れて来た女神なんだから。




つづく

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