第171話 引っ張り合い!

やっぱり仲間の声が聞こえてるんだ!


「も、もっと…呼びかけろ…」


俺も喉元を締め上げるように持ち上げられ、苦しくなる。


後方からカリンの声がした。馬のいななきも聞こえる。


「ヒロキ、私達も引っ張ります」


ユリウスの愛馬ヴァイスベルだ。カリンはロープを馬に繋いで、さらにダズンの左腕にサッとくくりつけた。


「さあ、引っ張って!」


「馬力」という単語があるだけにすごい力だ。見る間にダズンの肩まで引き込む。


『ゔぁああ…!』


引き込まれた方はうめき声をあげる。体内の黒い霧が反応しているのだろう。


俺も足が大地をつかむのを感じて、攻勢に転じた。太い手首についた黒革のリストバンドみたいな物を取っ掛かりにして引っ張るのだ。


ユリウスはそれを見て俺から離れ、ボロのつかんでいる右腕を彼と共に引き込み始めた。


「頑張って!」


カリンがヴァイスベルを誘導する。すごいぞ「馬力」!

ダズンのバカでかい上半身が結界内に入って来た!


耐えかねたのか、俺の喉元に伸ばしていた手を離す。自由になった俺は今度は相手の胸元に飛び込んだ。


奴の肩からかけられている毛皮のベストを引っ張る。(く、くさい…)


だが相手もただ我慢しているわけではない。


俺を離したことで自由になった両手を自分の身体に引きつけるようにして外に出ようとする。


「逃すな!」


俺が声をあげた瞬間、ダズンの身体がぐわっと大きくなった——⁈


ドス黒く膨れ上がったように見える…。なんだ⁈


「ヒロキ、奴の後ろに親玉がいるぞ!」


正面の俺からは見えないが、ユリウスが言うのは3人組のリーダーの事だろう。黒い霧でも送り込んだのか…?


「あっ!」


大男を引っ張っていた全員が悲鳴のような声をもらす。ずるずるとヴァイスベルやユリウスが引きずられたのだ。


俺が見上げると、ダズンはにやぁと顔を歪めて笑った。


『あれ…旨そう…』


そう言って馬と繋がっている左手のロープを手繰り寄せる。旨そうって…食う気か⁈




つづく

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