第170話 しっかりしろよ!

この大男を馬の水飲み桶に突っ込むには、3人がかりでも大変そうだ。さらに周りに狼達。そしてさらに向こうからグロスデンゲイルがゆっくりと近づいてくる。


急がなきゃ!


大男は例のデカいフライパンみたいな手で結界に触れてくる。


俺達は素通りできるこの丘の結界は、彼らには害を成すらしく、大男は触れては手を引っ込め、そしてまた触れている。


触れるその先からビリビリとした震えが伝わってくる。


「ヒロキ、おかしいです。何かあのもの達のけがれが、女神様の結界に影響しているみたいです」


カリンも異変を感じ取っている。


そういえば、狼達の時は結界に触れる事すらしなかったのに、今回はわざわざ結界に触れて強度を確かめているようだ。


この結界が破られたところは見たことがないが、不安になる。


「ダズン!俺だよ、ボロだ!」


バンダナ野郎が大男に向かって呼びかける。どうやらバンダナ野郎がボロ、大男がダズンのようだ。


呼びかけに呼応するように、大男の動きが鈍る。


いいぞ、仲間の声が聞こえているに違いない。


さぁ、この大男を早く水桶に入れたいが…。


さすがのユリウスも攻める手がかりを思いつかず両手を構えたままだ。


「剣を使うぞ」


ユリウスがその手を剣のつかにかけた。


驚いたボロがその手にすがりつく。


「ま、待て剣で斬られたら死んじまうよ」


「致命傷を与えるつもりはない」


「よせよ、仲間が斬られるのを黙って見てられるかッ」


「ヒロキ、どうにかしろ」


ユリウスが辟易へきえきしたように俺に言う。

まあ、俺も出来れば人を傷つけずにしたい。


「俺がオトリになるから、奴の腕を引っ張ってこちらへ引き入れよう」


俺はそう言うと大男——ダズンの前に出た。水桶はすぐそこにある。少しでもこちらへ引き入れれば、勝ち目はある。


「ぐぅっ⁈」


いきなり喉元をつかまれた。

ダズンは躊躇ちゅうちょなく結界の中に手を突っ込んで、その大きな手で俺を持ち上げようとする。


ユリウスが慌てて俺を取り返そうと後ろから抱えて引っ張る。


「ヒロキ!コイツの力…」


俺も踏ん張るが、身体が浮きそうだ。


バンダナ野郎のボロがその太い腕に飛びついて、結界の中に引き込もうと引っ張るが、体格差があり過ぎる。


ボロは叫んだ。


「しっかりしろよ、ダズン!!」


その声に、呼ばれた方がピクリと反応した。




つづく

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