第169話 まずは一人目!


「〰〰!」


ユリウスが頭を抱えてうずくまる。バンダナ野郎の方も再びひっくり返った。目玉がぐるんぐるんになっている。


「おい、しっかり!」


俺がバンダナ野郎の胸元を掴んで軽く引っ張ると、弱々しくもなんとか上体を起こす。


「おい?わかるか?」


「う…?」


だんだん目の焦点が合って来た。

黒い霧が体から抜けているか?

しっかりしてくれ!


「あ…お前…?」


良かった。どうやらうまく行ったようだ。コイツの手を取って腕を見ると、肌の色もだいぶ元に戻っている。皮膚の上を黒く蠢くモノも無くなっていた。


少し安心する。

そこへカリンの声が飛んで来た。


「ヒロキ!すぐそこに…!」


振り返ると丘の結界のふちに狼と大男が来ていた。結界のせいか中には入ってこない。


「ユリウス、行けるか?」


「……」


無言のまま頭を押さえて彼は立ち上がる。まだ痛そうだ。


「カリン、銀聖水は?」


俺の問いに彼女は首を横に振って、残りがない事を知らせる。


「あるだけか…おい?」


俺はバンダナ野郎に声をかけた。

かけられた方はビクッと飛び上がる。


「な、なんだ?」


「お前達を助ける。手伝えよ」


「へ?」


先に丘を降りるユリウスの背を横目で見ながら、バンダナ野郎を立たせる。


「この水桶をあそこまで——結界のふちまで持っていく。中の水をこぼすなよ」


「?」


2人で水桶をユリウスの方へ引きずりながら、訳がわからない顔のバンダナ野郎に簡単に説明する。


黒い霧に取り憑かれていたこいつを銀聖水に浸して、黒い霧を追い出した事と、それをあの大男にもする事だ。


「た、助かるのか?」


仲間の様子がおかしい事はすぐにわかったようだ。


「お前もこうだったぞ」


「…わかった。やるよ」


バンダナ野郎がうなずいた。

よし!

男3人がかりなら…。


そう思ったが、大男は目の前で見るとかなりデカい。ユリウスよりも背が高いし、ウエイトはそれ以上の開きがあるだろう。


こ、これを水桶に…?



つづく


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