第168話 銀のツバメ!

水音高く——とはいかなかったが、とにかくバンダナ野郎を背中から落とし入れる。


『ぎゃあああッ!』


暴れる暴れる。

とにかく銀聖水がきいているらしい。


でかい桶は村長に頼んでおいた馬用の水飲み桶だ。フォリアの銀聖水で満たしたかったが間に合わなくて、水位は半分くらいだ。


「頼むからこらえてくれよ!」


暴れる人間を押さえつけて水に沈めるなんて、やったことない!


怖いィィィー!!


「わ、私もお手伝いします!」


カリンも参戦する。

目をつむりながら彼女はバンダナ野郎の足を持つ——え?


持ち上げた。


自然と頭が水の中に落ちる。


…ひでえ。


コイツが溺れない様にだけ、気をつけて押さえ込もう…。(人間なら決して真似をしないで…)


ゴボッ、と音がしてバンダナ野郎が溺れかけた。


「うわっ!」


同時にバンダナ野郎の体から、特に口から黒い霧が吐き出されて来た。


わだかまる黒いもやの様なそれは、結界の中で行き場を失っているかの様だ。


「カリン!アレを!」


俺の声にカリンはパッと目を開き、胸元から銀のツバメを取り出した。


小さな小さなそれは、フォリアの意匠だ。古くからリール村に伝わるそれはきっと人間のフォリアから伝わったものなんだ。


カリンは震える手でそれを構えた。


指先でつまむ様に持ち、横一線に黒いもやをなぎ払う——。





それは、浄化であった。


白い蒸気のような、煙のような、どちらともいえるものが細かな銀の光と共に立ち昇り、清浄な空気に溶けていく。


「やった…か?」


しばし立ち昇る白煙を見ていたが、『目的』を思い出して、慌てて水桶に入れっぱなしのバンダナ野郎を引き上げた。


グショグショに濡れているが、どうやら息はあるようだ。


「おい、起きろ!」


ユリウスがバンダナ野郎の頬をペチペチと叩くと、奴は薄目を開けた。何が起きているのかわからない顔で、自分を取り囲む人影が誰であるかをぼんやりと眺める。


次第に目の焦点が合う。


「大丈夫か?」


声をかけた俺を認めると、ギョッとしたように跳ね起きる。


ゴッ。


覗き込んでいたユリウスの頭にバンダナ頭がヒット!


「…!!」


これは痛い。



つづく

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