第167話 俺達のねらい!

目の前に迫る手は白く乾いて見えた。それでいて彼の体をむしばむように黒いあざのようなものが浮かんだり消えたりしている。


皮膚の下にいる何かがうごめいているようで、それを目にした俺は背中に冷たいものが走った。


伸びた爪の間に土の様な汚れが目立つ。捕まりそうなのに、俺の目はそんな所を眺めていた——。




突然巻き起こった、大地を揺るがすひづめの響きに、スローモーションみたいだった世界が動き出す。


俺は叫んでいた。


「ユリウス!!」


村の門から風の様に飛び出して来たユリウスと愛馬ヴァイスベル。強く大地を蹴る白馬の足音に狼達も3人組も何事かと振り返る。


「…!」


うわぁ、ユリウスのマジ顔すげえな。俺の代わりに村の女子達が土壁の上から声援を送る。


ユリウスは真っぐに俺とバンダナ野郎に向かって駆けてくる。


そしてその力強い右腕を差し出し、そのまま速度を上げる。まるでお姫様をさらいに来た王子様だ。俺はその腕を待ちわびる。


白馬の勢いに雑魚の狼達が逃げ惑い、蹴散らされた。



そして——!




ユリウスの腕が届く刹那せつな、俺は大地に身を伏せた。



——⁈



戦いの場にいた狼達が、大男が、傷男が、そしてバンダナ野郎が目を丸くする。


そのまま白馬の騎士は軽々とバンダナ野郎をかついで丘へと疾走する。


「…っ!」


俺もまごまごしてられない。からの水鉄砲を持ちながらもユリウスの後を全力で追う。


丘ではカリンが準備して待っているはずだ。


息を切らせて丘にたどり着くと、ユリウスが嫌がるバンダナ野郎を取り押さえて、無理矢理丘の結界に押し込んでいる所だった。


俺も脇から押し込むのを手伝う。


『ぅあああっ!』


すっげー嫌がってる。

逃げようとする力が半端ない。


「大人しくしろッ!」


それでもさすがに2人がかりで結界に押し込むと、痛そうな悲鳴をあげながらその身をこわばらせる。


そのまま2人で担いで、丘のふもとにカリンが用意してくれた馬鹿でかい桶に突っ込んでやる。


中には——ありったけの銀聖水が入っていた。




つづく

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