第138話 女神様と夜のお茶!

俺はカリンの小屋にあるポットとカップを持って、ベッドの端に腰掛けるフォリアのもとに戻った。


冷めているが木の実で作ったお茶が残っていたのだ。


それを木のカップにそそぐと、1つはフォリアに渡して、俺も同じ物を手に床のラグの上に座った。


『すまんな。…不思議な味だ』


「味覚があるのか?」


『彼女のものだがな。このようなものを口にするのは久しぶりじゃ』


「あっ、じゃあ今度、菓子パン食べさせてやるよ」


今までこんな風にフォリアと話した事はなかったな、なんて考える。


カリンの寝間着姿のままなので、俺の方はちょっと照れる。


ふわふわのパフスリーブに触り心地の良さそうなガーゼっぽい生地は、めちゃくちゃ女子って感じが出てるし。


ギャザーのたくさん入ったゆるふわパジャマズボンは膝のあたりでキュッと絞られていて、そのふちに波打つレースみたいに見えるすそ可愛かわいい。


「あ…えーと、そうそう、村の土壁に小さなタイルみたいな石板が埋めてあってさ、ツバメの絵が彫られてて…アレはフォリアの力が宿っているのかな?」


なんか話さないと落ち着かないので話し出したらフォリアが『ふっ』と笑う。


『気がついたか。さて、何処どこから話したものかな』


と、また泣きそうな顔をする。俺はあわてて話を変えた。


「フォリア、あのさ、俺思うんだけど、グロスデンゲイルってなんで名乗ったのかな?」


『…なんじゃ、藪から棒に。さっきも話したではないか。人々に恐怖を与えるためじゃ』


「でもなんで名乗るだけで?」


『黒い霧というぼんやりしたものから、明確な個体を人々に認識させたのだ。ぼやけた恐怖の対象から、はっきりとした魔物である事を表したのだ』


「…村の人達が怖がってなきゃいいけどな」


俺はカップに残ったお茶を飲み干した。苦い。


それが顔に出たのか、フォリアが笑った。だがそれはどこか自嘲気味な笑いだった。


『ヒロキ、人の心は揺れやすい。それは仕方のない事だ。だが人々が私に疑いの心を持てば、私の力は弱まる』


それってまずいじゃないか。


『人がいるから、私もいる。私は確かに生贄の命を——人を喰らうが、人がいなければ存在できない。しかしそれはヤツも同じ。人の恐怖や猜疑心をかてとするからな。だが——』


フォリアは俺の目を真っ直ぐ見た。俺は他人と目を合わせるのが苦手だ。けど、この真摯な瞳から目をそらすわけにはいかなかった。


『だが、あやつらは人がいなくても良いのだ』


え?



つづく

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