第90話 商人と取引を!
「何より驚きなのは、どの菓子も同じ大きさで作られている事です!」
あー、そこ?
いや、同じ物を増やしているだけだからそうなるんだけどね。
「見たところ全て寸分たがわず同じ大きさで作れるとは、よほどの職人がいるに違いない!」
菓子パン1つとバカに出来ないな。こちらで作るにはすごい高価な材料とすごい手間ひまかけて作る事になるんだ。
オットーさんは「むふーっ」とひと息つくと俺の顔を覗き込んだ。
反射的に後ずさる。
「本心を言えばこれを作った職人を連れて行きたいくらいですぞ」
と、ニヤリとする。
たがこの笑いは本心からであったようで、その瞳には先ほどと違って感情があった。
それだけで人間味が生まれる。
「これでわしがこの菓子パンを欲しがるのがお分かりいただけただろうな。ぜひお取引を願いたいが…」
「なんです?」
「お若い
そうか。
雇われ店長か販売専門と見られたか。
「はい、俺が責任者です」
俺がそう言うと、彼は大きな顔の中の小さな目を細めたが、直ぐに両手を差し出してきた。
「では改めて我々にこの菓子を売っていただきたい」
「こちらこそよろしくお願いします、オットーさん」
俺は差し出された分厚い手を両手でギュッと握った。
取り決めはいくつかある。
この町で取引するという事。
基本的に日曜の自由市で行う事。
その都度次の仕入れ数をやり取りする事。(次回はとりあえず100個買ってくれるそうだ)
そして「菓子パン職人」について詮索しない事。(コレ大事)
「ううむ、お会いしたかったが仕方ない」
会ったら絶対引き抜きにかかってくるだろうな。(いないけど)
「ところでこちらもお願いがあるんだけどいいですか?」
「おう、なんなりと」
「種が欲しいんだ」
「ほう?何がよろしいか?」
「野菜の種が良いです。うちの村には小麦、じゃがいも、玉ねぎはあるからそれ以外で…」
「ううん、そうするとライ麦や大麦。ニンジンや赤カブ…珍しい物だと…」
「珍しい物は要らないです。作りやすいものが欲しいので」
「では今言ったものを持ってこよう」
「今回は代金をそれでお願いします」
「良いのかね?こちらは構わんが」
「はい、よろしくお願いします」
俺が深々とお辞儀すると、彼も礼を返してくれる。こういう所が相手を取り込む商人の柔軟さを感じさせた。
つづく
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