第89話 商人による菓子パンの分析!
このシマシマ派手男は、多少身銭を切ってもこの菓子パンを大量購入したいらしい。
こちらも儲けは嬉しいけど、今日楽しみにしていた町の人々の期待を裏切るのは避けたい。後々菓子パンやその他の商品が売れなくなるのも困るからだ。
「店主殿、いかがで?」
男が俺を
「ちょっとぉ、金にモノを言わせて全部持っていく気?」
「そうはさせないわよ!」
「わわわ、何を言う!儲けが出る方が店主も喜ぶだろう?」
言外に「お前らも小銅貨6枚払うか?」と嫌味をにじませる。
「んー…、ではお客様はこちらに。カリン、10個包んでくれ」
「そんな!10個では商売にならん!」
男は自分の思惑通りにならず、情けない声を上げる。自信たっぷりだっただけにその落差が激しい。
俺は彼を店の裏側——といってもテーブルのこちら側に
そこで俺は被っていたバスタオルを外して改めて挨拶した。
「リール村のヒロキです」
俺の礼儀正しい挨拶に驚いたのか、男は自らも背筋を伸ばし、挨拶を返す。
「わしはオットー・モレーン・コンスタンティン。コンスタンティン商会の経営者です」
やはり『商人』ってのは本当らしい。
しかもうちの菓子パンについては『転売ヤー』するつもりだろう。まあ、仕入れて遠くで売るのを責めるつもりはないけど。
「オットーさんはこの菓子パンを別の場所で売るのでしょう?」
「おう、わかっていただければ話が早い。この素晴らしい菓子をもっと中央の方で販売したいのです」
「いくらで売るつもりですか?」
俺がそこに突っ込むとは思わなかったらしく、オットーさんは目を泳がす。
それも一瞬で、すぐに答えるところは判断が早い。さすがに有名な商人だ。
「実はこの菓子なら銅貨1枚でも安いと思っておる」
銅貨1枚——小銅貨10枚!
今の2倍で売れるの⁈
「なぜこれ程安く販売できるのか?不思議でならん。まず生地が素晴らしい!きめ細かく均一で、しかも層が出来ている。あれは間にバターを織り込む手法だ」
そうなんだ。
「中に仕込まれたクリームブリュレもまた美味い!ふんだんに砂糖を使っているであろうに、更に高級なバニラの香り…!」
カスタードクリームがすげぇ褒められている。
「焼き上げたものを油で揚げているにもかかわらず、油臭く無い。そして仕上げに上からかけられた粉砂糖とナッツ!このように贅沢な菓子がたった小銅貨5枚で提供されているとは!」
そ、そうなのかー。
コンビニでこの菓子パンは158円。
食パンが安いやつで100円として、こちらの世界で小銅貨2〜3枚と言うのでそこから小銅貨1枚が25〜30円くらいと考えて、菓子パンを小銅貨5枚に決めたのだった。
でもこんな地方都市では高すぎては売れないと思うんだよなぁ。
俺は腕組みしながら天を仰ぐ。
オットーさんはそんな俺に気づかず、熱弁をふるい続ける。
「そして何より驚きなのは…」
つづく
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