第82話 君の欲しいもの!

 俺がちょっと見とれている間に、カリンは汚れた青い服を持って洗濯の準備をした。準備といっても村の人からもらった洗濯板一つ持つだけだけど。


 洗濯は川でする。


 村にさしかかる川の下流の方に洗濯場がある。


 水はだいぶ冷たくなってきた。冬なんかもこの清流で洗うのだそうだ。


 石けんは高価なのであまり手に入らない。水でゴシゴシするだけ。(俺の部屋にも石けんは無かった。小学校のPTAで作ってたなぁ。もっと興味を持って作り方知ってればな…)


 洗い場は川辺に杭と板で作られている。そこに腰をかがめて洗濯するカリンに、


「今度買うのはどんな布が良いかな?」


 と聞くと、カリンは少し考えた後で、


「私、ヒロキの部屋の布が良いです」


 と返してきた。


「俺の部屋の布?」


「ええ。あの窓の側の青い布が冬服に良さそうだと思うのですが…どうでしょう?」


 ええ?

 カーテンの事?


 確かに厚手で遮光性で遮熱効果があって…。


「肌触りが良くなさそうだけど?」


「そんな事ないですよ。そうすればお金もかから無いですし」


「あ、じゃあ今持ってくる!洗った方がいいから!」


 俺は丘に駆けて戻ると、部屋のカーテンを外して持ち出した。長さが無いので予備を合わせて3枚用意する。


 部屋の中の物はこちらの世界に来た時のままなので、普段洗濯しないカーテンは洗わないとホコリが取れない。


 俺は洗い場でカリンのとなりにかがむと、大きなカーテンを冷たい水にさらした。


 その様子を見ていたカリンが驚きの声を上げた。


「ヒロキ、洗濯は私がしますから!」


「?…ああ!そっか、俺の世界では洗濯は男もするんだ」


 俺は部屋に戻ると元の服に戻るから特に洗濯はしてなかったのだ。こちらでは女性が担う仕事のようだ。


「本当ですか?」


「ほんとだよ。勝手に洗濯してくれる道具があるんだ」


 俺達は洗濯しながら少しあっちの世界のことを話した。


 カリンはまるで魔法の話でも聞いてるみたいに目を丸くし、そして時たま笑うのだ。


 きらきらした笑顔で——。



 つづく

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