第55話 彼の者の名は!
「何?近くの村が無くなったじゃと?」
「知らなかったのか?」
「ええい、仕方なかろう!私はこの空間を通じて各地の神殿や聖域を守っておるのじゃ!」
忙しいのだ、とフォリアはふてくされたように言う。ふてくされても子どもの姿だから可愛らしい。
「しかし奴らも力をつけているのか…」
「アイツらに名前はないのか?」
「名前?」
「前から疑問に思っていたんだが、黒い霧のことや狼の事を『魔の物』とは呼ぶけど、呼称がないと感じたんだ」
「アレは…名前はある。だが言えぬ」
「なんでだよ?」
「名前はあのもの達の『形』を明確にしてしまうからじゃ」
フォリアは唇を噛むようにして答えた。
「…?」
「名前は其の者の個を形作る。黒い霧に名前を与えれば、恐らく人の形になるであろう」
「人の形に?」
「私がそうであるからな」
そうか。
善と悪…というと極端かもしれないが、善き力の象徴がフォリアなのだ。
「でも形があればそれを倒せばいいじゃないか」
明確な形があるならそれができるはずだ。
「お前…私を倒せるか?」
フォリアは呆れたように言う。
俺が無理だと答えると、フォリアは続けた。
「そうであろう。私は人の想いがある限り消えはせぬ。黒い霧も同じじゃ。恐れや不安が強ければアレも消えぬ」
彼女は俺の目を真っ直ぐに見て言葉を繋いだ。
「あやつの名前を教えれば、人々はその事を考えるであろう。それはあやつの力が増すのではないかと私は考えている」
それは一理ある。
黒い霧が近づいて来て皆が不安になる。すると奴らは力を増す…。
「厄介だな」
「期せずしてリール村が奴らとの矢面に立つ事になってしまったが、期待しているぞ、ヒロキ!」
あっ、待ってくれ。まだ聞きたいことが…。汗だくで帰ってきた時、部屋に入ったらなぜかきれいになった事とか…。あと頼みたいことが…銀聖水(勝手に命名)をもっと欲しいとか…あるのに!また急にフォリアは消えちゃっ…た……。
つづく
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