第54話 完全体の女神!
「ヤベェ、
それから逃げるような複数の足音。
なんとか目を開けると、カリンの泣きそうな顔が見えた。
心配しないで——。
そこで俺の意識は途絶えた。
……。
…?
どのくらい時間がたったのだろう?
意識がはっきりしてくると、俺は自分が例の暗い中空に漂っているのに気がついた。ただ、いつもと違って存在が希薄だ。いつもなら自分の体があることも認識できるのにそれができない。
光が見えた。
銀色の輝き。
漂いながら俺はそれに近づいて行く。
そこにいたのはやはり銀の女神・フォリアだ。だが1人ではない。誰かを抱えている。
近づくにつれて、フォリアが前に見た時より大人びているのがわかった。
うわ…。
綺麗だ。
豊かな銀の髪は身の丈ほどに伸び、その頭には戦乙女の兜を付けている。以前はティアラだったのが装いごと変わっているのだ。
胸当てをつけて背中に青く光る銀の弓を背負っている。
その横顔も静かな面持ちで長い銀の睫毛が影を落としていた。
一体誰を抱えているのかとぐるりと宙を舞いながら覗き込む。
……俺だ。
フォリアは俺を抱きかかえてこの暗い空間に浮かんでいたのだ。
(フォリア!)
声を出したつもりだったが、出ていない。彼女も何も気づかない。
もどかしく宙を泳ぐようにかいて近づこうとする。
そのうちにフォリアが抱きかかえている俺の顔に唇を寄せた。
(わ、わ、やめ…)
本心からやめて欲しかったかと聞かれたら、そうではないと答えてしまいそうだが、彼女は意識の無い俺の本体と唇を重ねた。
(うわ…)
思わず目を閉じる。
すると意識体の俺が本体の方へ引き寄せられた。
反射的に目を開ける。
大人びたフォリアの顔がすぐ近くにあった。
「うわっ!」
慌てて身を離す。
唇を手の甲で隠す。
顔が熱い。
はたから見たら真っ赤だろう。
「戻ったか」
彼女が微笑む。
微笑むと同時に細かな光の粒がフォリアの体から放出されていく。みるみるうちに彼女の体が初めて会った時の幼女姿になってしまった。
「やれやれ、私の身体も戻ってしまったな」
「な、なんで?」
「お前の意識を戻すために力を使った。物質である身体自体は『部屋』が修復するが、そなたの意識は私が呼び寄せて体に戻したのじゃ」
「もしかして、前に死んだ時も…?」
「そうじゃ。だがその時は意識が戻るのが遅かったな」
「前もフォリアの力を使っちゃったのか?」
フォリアは得意げに顎を上げて、
「無論」
「悪かった…な」
「何を言う。そなたが
逆に女神に気を使わせてしまう。
「これからはもっと気をつける」
「そうして欲しいものじゃな」
つづく
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