第10話 村の売り物について考えます!

 村の人々は皆痩せ細っていて、痛んだ粗末な服に身を包んでいた。5、6人いる子どもたちだけいくらか普通の体型に見える。子どもたちだけ少しは食べさせていたらしい。


 村長らしき人物が出てきた。

 細く背が高い初老の男性だが、その頭髪は顔に似合わず真っ白で長く、たくわえたヒゲも同じだった。まるで仙人のような風貌だ。

 俺の後ろにカリンの姿を見るとホッとしたように表情を和らげる。門番の叔父さんに話を聞いてるらしい。


 改めてカリンが俺の事を説明してくれる。一度死んで蘇ったことも含めて、奇蹟だと言ってくれた。


 村長は前に進んでくると、膝をついた。それにならって村人みんなが膝をつく。


「救世主殿…!」


 人々が思い思いに感謝の言葉を口にする。


 ああ、俺まだ何もやってない。

 狼に襲われて死んだだけ。

 うう、恥ずかしい…。


「か、顔を上げて下さい」


 俺は名を名乗ると、取り敢えずパンを配ることにした。

 ビニール袋に入ったまま配る。


 皆に開け方を教えて、ゴミはダンボール箱に入れるように頼む。

(部屋に戻せば消えるからな)


 残念ながら少し数が足りないが、子どもたちは分けて食べてもらう。


 甘い香りと驚きの声がさざ波のように広がる。


 やっぱり何回聞いても嬉しい反応だなぁ。ちょっと感動。


 もっと頑張って持ってこよう。

 でも、同じものじゃ飽きがくるだろう。他にはポテチしかない。


 麦はもうほとんど実をつけていないようだし、放棄寸前のこの村に収入源があるようには見えない。


 根本的に村の経済状況を立て直さなくては。

(経済状態なんて言葉、普段使わないな)


 村の代表として、村長と話すことになった。


「私はこの村を治めております。デルトガと申します」


 彼が語るところによると、一年ほど前から村の周辺に黒い霧が現れはじめ、村の外にいた村人や家畜が狼に襲われるようになったという。


 蓄えも尽き、村人も減り(近くの他の村や町に移った者もいる)、もはやこの村を捨てるかどうかというところである。


 そして、最後の試みとしてカリンを神の丘に捧げたという事か。


「村長、魔物の件もあるけどまずは、この村には食糧が必要だと思うんだ…思います」


 俺は口調を改める。


「この村に産業はあるんですか?」


「産業…この村は麦の生産を主に行い、村で使わぬ分を近くの集落や町で売ったり他の物と交換したりしておりました」


 その麦がダメということは別の手を考えねば。


 俺はまた食べ物を持ってくるから、と一旦村を辞すことにした。


 ただ、食べ物の種類は多くないと伝えておいた。


 村長は有難い有難いと礼を言うばかりである。


 でもこれは俺自身の力じゃないしなって思うようになってきた。


 ま、喜んでくれる人がいるからいいか。


 俺は村の産業について考えながら帰路についた。


 つづく

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