第9話 君は生贄の少女!

 空のダンボール箱を1つ増やして菓子パンを詰めると、かかえて歩き出す。


 カリンが持つと言ったが、さすがに女子に持たせるのは男がすたる。


 幸い狼たちが出てくる気配はなかった。


 村への道を歩いて行くと、門の前にいた男達が驚愕の顔で出迎えてくれた。

 無理もない。

 目の前で狼に食われた男がまたやってくるんだから、そりゃ驚くだろう。


 地に平伏へいふくしておがまれるとなんだか恥ずかしい。カリンが説明してくれて、いくらか驚きと恐怖がやわらいだようだ。


 カリンもカリンで銀の女神フォリアの御技みわざだと説明している。俺もここに来た理由はよくわからないからそういうことにしておく。


 俺はうながされて門の中に入った。

 村というよりは、俺の感覚では集落くらいのレベルだ。


 元々200人ほどいたのが今では100人と少しまで減ってしまったという。


 石と木とで作られた家々はやはり中世ヨーロッパを思わせる。戸数は40から50というところか。


 ふと気がつくと、カリンがいなかった。振り返ると門の外で待っている。

 俺は門まで戻ると尋ねた。


「カリン?来ないの?」


 カリンは首を横に振り、

「私は入れないのです」

 と答えた。


「な、なんで?」


「私は魔をはらうために村を出た者だからです」


「さっき入っていたじゃん!」


物見櫓ものみやぐらは境界であるから許されました」


 そして小声で、

「実は門番しているのは私の父と叔父おじなのです。だから…」

 ちらっと門番の2人を見ながら微笑んだ。


 その笑顔にどきっとする。

 そういえば今までカリンがこんなふうに笑ったことがなかった。


 いや、そんなことより、

「魔を祓うために村を出たら戻れないのか?」


「はい。私はこの村の最後の希望。村に有る一番良い服で着飾り、唯一の御守りを身につけて聖なる丘に捧げられた神への供物なのです」


 神への供物…。

 それって…。


「はい、ヒロキ。私はすでに生きたまま神に捧げられた、いわば生贄です」


 カリンが言うには、生きたまま葬られた死者として、つまりけがれとかそういう扱いになって村へ入る事を禁じられるのだそうだ。

(死者は生者の領域に入らないということか)


 しかも村で一番良い服で着飾ったって…こんな粗末な服なのに。

 家族と別れて、あの丘で一人祈っていたのか。


 俺は不覚にも涙が出そうになった。


 それを察してか、カリンは気遣うように、

「ヒロキ、この村は私を生贄にしても神の御力おちからが現れなければ、村を放棄するところまで追いつめられていました。貴方が現れてくれて、私は村の役に立ったのです。これ以上の喜びはありません」

 と、慰めてくれる。


「うん、ありがとな」


 俺に礼を言われてカリンが慌てる。

 少し頰が紅い?


 けど村人に説明するにはカリンが居てくれないと困るんだ。


 俺はこのまま、門の所で村人が集まるのを待った。


 つづく

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