とあるきょうだいの登校風景

「「行ってきます」」


声を揃えていって戸締まりをしてから、学校に向かう。「おにーさま」とか言って腕


を絡め取ってくる楓の腕をふりほどきがてら、ふと疑問に思ったことを尋ねる。


「なあ楓、どうして僕たちは「行ってきます」って言うのかな」


「どういうことですか?」


質問が悪かったのか、首を傾げて逆に聞かれてしまう。


「ごめん、質問が悪かったな。僕らの場合、家に誰も残ってないのに何で行ってきますって言うのかな、って」


「ああ、なるほど。・・ちょっと待ってください、お兄様」


しばらく考えた後、楓は一つの解答を示した。


「それは私達を守ってくださる家に対してではないですか」


「ああ、そっか何も人に向かって言う必要もないんだね。さすが楓」


「えへへ、もっと褒めててもいいんですよ」


なんて楓と戯れていると後ろから


「相も変わらず仲良いなお前等」


と言う声がかかった。


もみ・・・兄さんか。おはよう」



「おはようございます樅姉さん」


「ん、おはようさん。でも楓、このかっこの時は姉さんって呼ばんとってや」


「良いじゃないですか。樅姉さんはどんな格好でも私のお姉様なのですから」


橘樅たちばなもみは僕らのである。女装癖があることにさえ目をつむ

れば、僕達の面倒をよく見てくれる良い兄である。一昨年桜義姉さん(関西出身、僕から見て九つ上の兄さんと同い年)と結婚し、家を出ていったときには、大泣きした楓を宥めるのがが大変だった。


「はぁ。こいつに俺のテクを伝授したのが間違いやったな。親父に顔向け出来んくなったわ」


「?私は感謝しておりますが」


「純粋無垢な弟を、実兄に恋する乙女変態に変質させたらどんな親でも怒るわ」


しかし先の言葉からわかるように、楓に女装の術を教え込んだ張本人である。勘違いされている方もいらっしゃるかもしれないが、楓は男である。

大事なことなので、もう一度言おう

事情は話すと長くなるが25字以内で説明すると、樅兄さんに女装を教わって何かが目覚めたらしい。(23字)以来ずっと女の子として生きている。もう五年になるだろうか。思わず僕が遠い目をしていると


「どうしましたかお兄様?」


楓が僕の顔を覗き込んできた。近い。楓の綺麗な顔から慌てて目線をそらして言う。


「何でもないよ。それより早く学校に行こう」


僕がそう言ったとき、


「おはよう。変態兄弟」


と、声が掛かった。

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