第九話=終わりを迎えた戦い

  カキン!カキン!と、前は真っ黒であるけれど、音ははっきり聞こえる。全身が痛み、意識を保つのが精一杯であるが、それでも私は立とうとした。

  姫様のために、エリハイアのために、そしてなにより、私のためにも。私はまだ戦わなければならない。

  クソ……!力が、入らない!

  普通な人族としてはすでに限界を迎えたんだろう。ですが、私はゆうしゃ、勇者になるべく者。ここで私も普通な人族と認めてはならない!

  私は、特別だ!だから立たないと……!!


「ハッ!」

  力いっぱい立った。周りは真っ黒で、目の前には一人の女性が居る。彼女の周りに光の玉が飛び散っている。それがオーラと言うものか?

「貴女は……?ここは?」

  気が付く周りに居たはずの兵士がいなく、戦う音だけが響いてくる。カキン!カキン!と。耳障りな雑音も含めて耳に入って来ている。

  私は目の前の女性に問いを掛けた。

「アタシは誰なのかは、アタシでもわかりません。ですが、ここは……」

  待て、そういえば、この子……どこかで見たことがあるような……そうだ!思い出した、この子は、いえ、この方は!

  神様だ!

  でも、彼女は自分が誰なのかは分からない?どういうこと?

「ど、どういうことですか?貴女様は神様ではなかったのですか?」

「神?アタシはそのような存在ではないと思います。」

「では、貴女は、一体……」

  いや、彼女は知らないと言ったから、無理か。

「話を変えます。ここはどこですか?」

「それも分かりません。」

  それも分からないって、おい。さすがに温厚な私でもそろそろ怒りそうだ。

「と、とにかく、急いで出ないと。元のところに戻らないと。」

「そうですね、話は聞いております。エリハイア国が大変だと。」

「そうです!だから、早く私を元のところに帰らせて下さい!」

「……」

「どうかしました?」

  彼女はじっと私を見ている。その目の中には底なしの混沌だけ。彼女は何を考えているのか、何を言うのかは、ますます分からなくなった。

「貴方は、ゆうしゃさん、ですか?」

「え、ええ、はい。そうですが。」

「それならよかった。貴方への伝言を扱っております。」

「誰からですか?」

  またしばしの沈黙。そしてやっと、彼女は口を開けた。

「確か名前は……天取だって言ってた……」

「アマ……ドリ?あのアマドリ?」

「貴方が言っているアマドリは誰なのかはわかりませんが、彼のことを、アタシたちは神とも呼んでいましたよ。」

「か、は!?あんなのが、神!?」

  そしてまた急に、眩暈がしてきた。今にもまた倒れそうになった。

「くっ、眩暈が……!」

「彼は貴方に言いたかっただそうですよ。」

  ダメだ、眩暈が……力が、入らなくなっている。パタンと、真っ黒な地面に倒れてしまった。意識も段々、途切れ途切れになっている。

「『早く、私を……』」

  そして意識を無くす前に、私は彼女の言葉を聞いた。

「『殺しに来てね』」


  意識を無くし、再び夢へ入ると思えばどうやら現実世界に戻ってきたみたい。

「ゆうしゃさん、大丈夫でしたか!」

「うっ、ま、まぁ、だ、大丈夫、かな?」

  頭を揺らし、少しでも意識を明らかにした。

  さっきの夢の中の女の子は最後に、私へのアマドリさんの伝言?内容はたしか……「早く、私を殺しに来てね」だった……?ですが、神様は私に姫様を殺すようにと……それは間違いですか?私に殺して欲しいのは、アマドリであって、姫様ではなかったんですか?でも……

「ダメだ、今はそんな事より……!」

「い、いけません!もう少し休んでいてください!」

  体を上げようとしたが、兵士さんに止められた。

「貴方は急に倒れたのに、まだ前線へ戻ってはなりません!」

「体のほうは大丈夫、早く私の剣を……!」

  タッタッと、後から足音を聞こえてきた。

「雑魚は引っ込んでろ。ここは俺に任せろ。」

「ひ、姫様!」

  そこに居るのは姫様だった。着ている服はボロボロで、体中に少なくのない傷を見かける。姫様はさっき、誰と戦っていたんですか?まさか、グランバールと?だとすれば、グランバールとの話は決裂して、打ち勝ったんでしょうか。

「おい!貴様らさっさといけ!一気に蹴散らすぞ!」

「は、はい!分かりました!」

  剣を掲げて、姫様は前へ進んだ。姫様の凛々しい姿を見て、改めてかっこいいと思いました。この人に惚れて、良かった。

  しかし、何故か姫様の影が、ちょっと……濃い気がする?


  周りを見渡して、兵士達は姫様と一緒に前線へ向かった。周りには誰も居ない。だったら……!

  体を上げて、自分の剣に手を取って、私も前へ向かった。結局、さっきのあの恐怖も、あの夢の原因も分からずじまいだった。とにかく今は、そんな事なんかよりも国の安全のほうが大事だ。

  しかし、ラルフ君はどうしたのでしょうか。どこに行ってしまったのだろうか。


「これで、終わったのだろうか……」

  恐らく最後の魔族の心臓を貫き、彼を倒した。姫様から聞いた話によると、グランバールは死んだ。だから魔族たちを止められる者は居なくなり、仕方なくこうした。

  けれど、誰が殺したのかは言わなかった。姫様ではないとだけ言ってくださった。

  だとすれば、デュランダル様ではないのだろうか。ですが、どこにもデュランダル様の姿が見当たらないと言う……一体どうなっているんだろう。

「クッ!」

  戦いが終わって、緊張感が解かれ、全身の痛みが一気に襲ってきて、またもや倒れてしまった。どうやらやっぱり、すでに限界を超えていたようだった。

「しばらく休んでね、ゆうしゃ君。」

「あぁ、そうさせていただきます。師匠。」

  倒れた私の隣には、師匠が居る。姫様はどこに行ったのかは分からないが。まぁ、彼女は国の要人だ、いろいろ片付けなければならないことがあるのでしょう。

  そのあと、師匠は私をベッドのある場所へ運んでくださいました。


………………

…………

……

「おい、ジジィ!どこに居るんだよ!」

  クソ!あのクソジジィ!どこに行きやがった!国の一大事なのに、どこで油売ってんだよ!

  王宮の中を探し、王族の兄弟は居たが、肝心の王本人が居ない!道理で指揮が取れてないわけだ!最悪なことにデュランのやつも裏切ったし!

  ああ、もう!本当になんなんだよ!ついてねぇなぁマジで!

  謁見の間も、ジジィの部屋も、広場も、客室も、いろんなところを探し回ってたが、結局ジジィは見当たらない!あのジジィ、まさか一人で逃げたか?

「あ、お姉さん!」

「んだよ、ガキ。」

  突然後から引っ張られた。ガキは何かを見つけたかのようにすごくはしゃいでいる。壁に向かって指差しててもなにもどうにかならねぇと思うけど。

「ここ、なんか怪しくないんですか?」

「ふん。どこがだよ。」

  別に魔法で隠された扉とかはないように見えるのに、なにが怪しんだよ。そう思いながらも、触ってみたら分かった。

「なんでここだけこんなに薄いんだ?」

  魔法が施されている様子は見当たらないが、何故かここだけ異様に薄い。後ろには部屋などないはずなのに、どういうこと?

「どうですか?やっぱっ」

「ふん!」

  ドスン!と、拳に力を入れて壁をぶん殴ったら、壁に穴が出来た。

「うわわ、ちょっとお姉さん!危ないじゃないですか!」

「避けないアンタが悪いんだよ。」

  壁の中を覗くと、中には下へ続く階段があった。

「もう、そんな事をするならはやっ」

「はぁ!」

  もう一度拳に力を入れて壁をぶん殴った。周りの壁にまでヒビが入ってしまったが、道は開いた。

「もう!危ないですよ、こんなことするの!」

「うるせぇ!俺のやることに文句をつけるな!さっさと行くぞ。」

「もう……」

  階段を下りて、中にある謎を探りに。


  不思議なことに、中の空気には澱みを感じない。換気はしっかり行われてるようだ。つまり、さっきの壁以外の入り口があるんだろう。いや、そもそもさっきのところは入り口だったのか?出口ではなかったのか?

「ね、ねぇ、お姉さん……なんか、寒くありませんか?」

「さみぃの?ちっ、しょうがねぇな。」

  力を手に集って、ガキの手を取った。

「これで多少は暖かくなるんだろう。」

「あ、ありがとう。お姉さん……」

  まったく、これくらいの事すら出来ないのか?……でも、まぁ、こいつの力は光系統だから、しょうがないか。


  階段を下りてはいるものの、その実感はまったくない。周りはますます暗くなっているけど、そろそろ何か別なものを見たい。このまま階段だけだとそろそろ気が狂ってしまいそう。

「うう……暗いよ、怖いよ……」

  弱音を吐いているガキと違って、俺は吐かない。

「怖いなら一人で帰れ、俺は一人で降りるから。」

「え!?だ、ダメ!それはダメ!」

  ちっ!なんなんだよ、怖くて一人で帰れないのか?お前、一応男だろ?そんな臆病でいいわけ?


「うん?」

  途中で光が完全に途絶えて、自分の体を力で灯そうとしたが、なぜかそれでも明るくならない。

「おい、ガキ。」

「ふえええ……帰りたいよぉぉ……」

「おい!」

「は、はい!お姉さんどこに居るのですか!ここ暗くてなんも見えません!」

「手ぇ繋いでんだろうが、アホか!」

「あ、そうだった……てへへ。」

  クソ!これだから子供は嫌いだ!……と、いかんいかん。本題に戻さないと。

「アンタ、光を灯せねぇのか?」

「え、そ、それは……うん、試してみる。」

  小さな声で詠唱し、力を呼び覚まそうとする。何秒か過ぎたら周りが明るくなってきた。どうやら成功したみたい。

  ガキが灯したらすぐに分かった。隣に扉がある事に。

「おい、お前はどっちへ入る?」

  しかも両方ある。左と右、両扉の間に居る俺達。ガキはどっちを選ぶんだろう。

「ふええ、一緒に入れないのか?」

「ちっ、しょうがねぇな。で、どっちに入りたい?」

「じ、じゃあ……左のほう。」

  と、指を左の扉へ指した。扉を開こうと手を出したが、すぐさまに中から声が届いてきた。

「外に居るのは、プリスティンか?」

  ……この声は!

「おい、ジジィ!こんなところでなにやってんだよ!外が大変だっていうのに!」

  このクソジジィが!こんなところでなにやってんだ!

「すまんすまん、ちょっと調べことをしておった。」

  扉が開かれ、中からあのジジィが出てきた。

「どころで、プリスティンはここに……後におるのは?」

「それより質問を答えろ!こんなところでなに調べてたんだ!」

「今回の事件の起因、と言ったところでしょうか。で、今度はそっちが質問に答える番じゃ。」

  ガキを突いて、前へ出ることを命令した。すぐに前へ出てきた。

「は、初めまして、お爺様。ラルフ=ハーモスです。」

「な、なんと、おぬしがアリア王でしたか。此度は大変だったんでしょう。しばらくはこちらで休んでいくと良い。」

  ん?ジジィもこいつの顔見たことなかったの?おかしくねぇか?

  仮にも一国の王だろ?友好国の王の顔くらい見たことあるだろう。それに、此度は大変だった、て。まるで奴らの国は何かの事件にあったようにいってんじゃん。そこへ行った俺ですら知らなかったぞ?

「え、大変だった、てのはどういうことでしょうか。」

「おや、存じておりませんでしたか。」

  と、ここでジジィが俺に目をくれた。

「と、ここで話すのもなんですが、一旦、上へ戻りませんか?そこでゆっくりお話しましょう。」

「は、はい。分かりました。じゃあ、戻りましょうか、お姉さん。」

「……ちっ。気に食わねぇが、一旦戻るか。」

  ここの調査をするのは、また今度だな。


  階段を上る途中、ジジィは何も言わずに、ただひたすらに階段を上るだけでした。上へ着いて、壁がぶち破られたのを見てびっくりしたみたいだが、それだけだった。

「さて、アリア王。いろいろと質問がおるが、しばらくいいでしょうか。」

  俺に目をくれて、指示を求めてきた。

「俺が代わりに答えてやるか?」

「う、うん。お願いします、お姉さん……」

「いや、プリスティン。おぬしには答えられぬ質問だと思うぞ。」

「ならば、俺も同行させてもらう。こいつが答えられない時に俺が代わりに答える。」

「……まぁよいでしょう。」

  場所を変えて、比較的に被害を加えられなかった場所に、三人が座った。


「まず、おぬしは何故、プリスティンと一緒におる。」

「え、それは……!」

  早速、こいつには答えられない質問が出てきた。

「休むために郊外へ遊んでいたら、偶然見かけたんだよ。」

「まことか、アリア王。」

「……はい。」

  われながらとんだ嘘をついたな。それを信じるジジィの気も知れないな。

「グランバールの暴走を止めようと、一人で出かけてたんだが、途中で力尽きそうになったところ俺が助けてやったんだよ。」

「にしては、服装がパジャマだけれど?」

「寝ようとした時に奴の暴走が起きたんだよ!」

「なるほど。」

  これで信じてくれるのだろうか。


「で、暴走の原因については、ご存知でしょうか。」

「あ、いや、それは……」

  俺に目をくれた。いや、ここで素直に俺が攫ったせいで暴走したとでも言うと思ったか。

「知らねぇな。」

「ふむ。では、彼はおぬしになんも言わずに急に暴走し始めた、でしょうか。」

「は、はい。恐らく……」

  恐れ恐れで俺に何度か目をくれた。だがそんなこと俺がばらしたらどうなるのかは、さすがに分かっているのだろう。


「さて、と。」

  腰を上げて、ジジィはこの場を離れようとした。質問は終わったのか?と言いたいところだが、これ以上聞かれるとさすがにばれてしまう。これで勘弁してくれてよかった。

「プリスティン、おぬしには話がある。一人で付いてまいれ。」

「なんだ、ジジィ。俺に話があるならここで聞けばいいじゃねぇか。」

「とても大事な話だ、アリア王に聞かれては不味い。さ、早く。」

「ちっ。分かったよ。」

  ガキに一瞥をし、ここに留まるよう命じたあと、俺はジジィと共に部屋を去った。

  そして別の部屋で、ジジィはいきなり俺に衝撃的な事実を突きつけてきた。

「これのすべては、神のせいだ。」

「神?んなもん居るかよ。年食ったせいで逝かれたのか?」

  神?それは伝説上にしか存在しない存在だろ?いきなり何を言い出すんだ、このクソジジィ。

「そうだな、では、神と呼ばずに、彼の名を出そうか。」

  息を吸い込んで、ジジィはまた口を開けた。

「人は彼の事をこう呼んでおる。『光明魔王 アマドリ=スー』と。」


(つづく)

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