第七話=やがて終わりを迎えた

「こ、これは……!!」

「ひどい有様だ、まったく。」

「……」

  私達四人は、ついに王宮の前にたどり着いた。王宮門前には大量の死体があり、ここでどんな死闘を繰り返されてきたのかを教えてくれた。ひどい臭いと共に、私達は王宮へ入った。

  ラルフ君はいまだにさっきの兵士さんの死を乗り越えられていないようだが、それでも彼は私達についてきている。

  ラルフ君も分かっているのでしょう、彼以外グランバールを説得できるものは居ない。

「くっ!クソ!」

「だ、誰か!増援を!」

「こっちだってもう保てなさそうだから無理だ!」

  王宮内に響く兵士達の声。中には悲鳴もある。

「わ、私、できるだけ助けに行きます!」

「あ、ゆうしゃ君!アタシも一緒に行く!」

「勝手にしろ!ガキ、お前は俺と一緒に来い、グランバールの奴を見つけ出せ!」

「はい、分かりました。」

  私が単独行動をしようとしたら、師匠がついてきた。姫様に止められなくてほっとした。そして、師匠が付いてきてくれたことには感謝してもしきれない。

  私だけだと、さすがに途中で殺されるでしょう。

「!!民間人!?下がれ、どうしてここに居るかは後で聞いてやるから!」

「そういうわけにはいけません!私達は、兵士達を、エリハイアを救うと決めたから!」

  魔族と戦っている兵士達に、私と師匠が助太刀に入った。


………………

…………

……

  まったく、なんていうことだ!

  どうしてそこら中が死体だらけだ!エリハイア軍は所詮その程度か!魔族なんか、生気のない魔族なんか簡単に蹴散らせるんじゃねぇの!?

「お、お姉さん……ボク……」

「余計なことは考えるな。本当に助けたいならさっさとグランバールを見つけ出して、やつに兵を退いてもらうしかない。」

「う、うん……分かりました……」

  まったく、こんな状況でも人助けがしたいの?どんだけだよ!お前ら魔族はそうじゃねぇだろ!?

「お前は……!!」

  一人の男性が目の前に立ちふさがった。

「デュランダル、これはどういう状況だ!」

「おやおや、姫様ではありませんか。ここ数日どこへいらっしゃったのですか?」

「んなこと後で説明してやる!この状況を説明しろ!」

  デュランダルだ。だけど、なんか、ちょっとおかしい?鎧に傷がつけられている?誰だ……と言っても、あいつしかないでしょう。

  グランバールの仕業でしょう。

「ええ、そうですね。」

「!?」

  カン!

「姫様が、俺に勝ったら教えてやるよ。」

  素早い一撃を防いで、後ろへと小ジャンプした。こいつ、何を考えやがる!

「おい貴様!どういうことだ!反逆罪だぞこれは!」

「反逆罪、ですか……だといいですね。」

  満面の笑みで、彼はまた一度剣を振り落とした。

「おい、ガキ!なにをボーとしてんだよ!アンタも一緒に戦え!」

「え、え!?どういうこと!?この人はお姉さんのところの将軍でしょ?どうして!?」

「んなこと知らん!だがこいつ……狂ってる!!」

「ははっ、狂ってる、ねぇ……」

  シャー!剣を振り落とされた。

  カーン!!弾けてみたが、弾けられなかった。

「狂っているのは、俺じゃなくてこの世界かも知れねぇぞ、姫様!」

  カン!カン!なんどか防いでいるが、このままだと……!!

「ガキ!いいから戦え!剣がなくても俺に魔法を掛けろ!それか屍から剣を取って来い!」

「え、ええ!?で、でも!?」

「でもはねぇ!戦わねぇと、俺達が死ぬぞ!」

「……!!わ、わかりました!」

  俺に向けて手をかざし、力を入れようとした。

「聖光の導きを、聖光の輝きを!永劫なる聖光(エターナルディバイン)!」

「おい、まっ!」

  だが、ことはそう簡単に進まなかった。

「ありがとうよ、坊主……この俺を強化してくれて!」

「デュランダル、貴様!!」

  デュランダルは俺とガキの間に入って、その強化を奪った。

  まったく!これだから体に触れないでの強化は嫌いだ!相手に奪われたら元も子もないだろうが!

「ははっ、これがかの魔王の力か、これが魔王に強化される感覚か!おもしれぇ!!」

  そして跳んで、俺達から距離を取ってからやつはその力を感じて、歓声を上げた。やはりこいつ、狂ってやがる……!!

「ダメだ、ガキ!剣を拾って来い!こいつを、ここで殺さねぇと!」

「ご、ごめんなさい!ボクのせいで……!!」

「んなこと今はどうでもいい!共に戦え!」

「う、うん!」

  剣を拾って、隣に来た。少しだけ戦ってたが、いつも通り一人で戦って勝てる相手じゃないと知った。ガキの力を借りるつもりだったが逆にデュランダルが強化された。これは不味いと分かった。だからガキに一緒に戦って欲しい。

  ガキの力を借りることになってしまうけど、そうしなければ、俺達二人とも死んでしまう。

  デュランダルに何があったのかは分からんが。俺に逆らった罪、きちんと償ってもらう。


………………

…………

……

「――!!」

  なんだろ、背筋が冷え込んでいる。嫌な予感がする。姫様たちに何かあったのか?

「師匠、ここは私に任せてください!姫様たちのところへ行ってください!」

「え、どういうこと?あの子達のことなら大丈夫だと思うけど?」

「嫌な予感がするんです……何が起こるかはわからないが、どうか、行ってください!」

  カン!カン!ドスン!

  魔族の剣を弾いて、心臓にブッ刺した。これが、これこそが、本当の殺し合い。最初は抵抗あったが、今では大分和らいだ。

  やらないと、やられる!と、その思いのお陰で克服できた。

「嫌だ!」

  カン!ドスン!と、師匠は華麗に魔族の首を刎ねた。

「ここをあなた達に任せてはならないと、アタシの心の中の声が響いているから!」

「あぁ、クリア様……!!」

「クリア様、ありがとうございます!」

  周りに居る、共に戦っている兵士達が歓声を上げた。

  まったく、師匠ってば石頭だ!姫様達が危ないかもしれないのに、どうして!?私なんかより、姫様のほうがずっと大事でしょうが!!

「仕方ない……さっさと片付けて、姫様達のところへ行くぞ!」

「はいはい。まったく、プリスティンちゃんのことしか頭にないですね。」

  そう言っているんだけど、正直、この場面をどう覆すか……魔族の数は多いのに、こっちの数がどんどん減っていく……どうすれば……!?


………………

…………

……

「くっ!こ、こいつ……!!」

  手が痛む。足が痛む。腹、腕、脚、全身が痛む。こいつの力が強すぎたのか?それとも、ただ、俺が弱いだけか?

「どうしたんですか、姫様?これで終わりとは言わせませんよ?」

「はぁはぁ……このまま終わって、たまるもんか!」

  剣に注いだ力がもうほぼなくなっている。奴に打ち消されて空気に散った。その力を打ち消すには奴も大量の力を使ったはずなのに、一向に疲労が見られない……俺んちの将軍って、こんな化け物だったっけ?それともやっぱり、あの時ガキの強化を受けたせいで大幅に強くなっただけ?

  ちっ!あのガキ、魔力には自信が有るにも拘らず、剣の使い方がヘタすぎる!

「おい、ガキ!立て!魔法で攻撃しろ!」

「で、でも!それじゃあまた吸収されてしまう!」

「んなもん知るか!アンタら魔族の闇の力を使えば中和できるから!」

  さっき光(ライト)の魔法で撃ってたが、それを吸収されたのは見た。そのせいで奴の力がまた増幅されたのかもしれない。ならば、闇(シャドウ)の力ならばワンチャン?

「え、それ、初めて聞いたんですけど!」

「あぁ、俺の数多くの推測の一つに過ぎないから!」

「でも、ボクは闇の力を……!!」

「ちっともないとは言わせねぇぞ!」

  力をまた剣に注入して、またデュランダルに剣を向けた。

「なければ作り出せ!作り出せないなら頑張って作れ!でないと、俺達はここで死ぬ!」

「そ、そんな無茶苦茶な!」

「お?姫様、まだ俺に逆らいますか?」

「逆らってるのはてめぇの方だろうが、デュランダル!」


  怒り心頭だった。そのとき、声が聞こえた。奴は俺に「殺せ」と囁いた。どこかで聞いたことがあるような声だが、思い出せない。ただ、体の主導権が少しだけ奪われた。

「させるかあああああ!!」

「!?この力は!?」

  「殺せ」「ころせ」「コロセ」「殺セ」……ずっと響いてくる。あぁ、頭が狂いそうだ!

「殺してやる……アンタを、殺してやる!!」

  カン!カン!カン!

  三回連続で攻撃が弾かれて、後へ跳んで距離を置いた。

「お、お姉さん……?なんか、目が……」

「今は話しかけるな!でないと、アンタも殺してしまうぞ……!!」

  ガキに一瞥した。そいつの俺を見る目に恐怖だけが残されている。俺が、そんなに怖いのか?

「姫様、まさか貴女もでしたか。けれど、どうして逆らうんですか?」

「何を言っているのかは分からないが……」

  力を剣にさらに注入した。そして再び構えて……なぜか体中の傷が和らいだ気がする。

「俺に逆らった罪、償ってもらう!」

「!!」

  「殺せ!」「殺せええええ!!」心の中にある殺害衝動が一段と強い声で指図してきた。

  あぁ、言われなくても、殺すさ。


  カン!カン!ギーーーーン!カン!と、全部防がれた。クソが!こいつ!

「姫様、そろそろ幕引きをしませんか?」

「お前が死ねばなぁああああ!!」

  カン!カン!カン!何度も何度も切りかかったが、奴に全部防がれた。

  クソ!!どうしてだ!どうして勝てない!こんな奴に、こんな奴に負けてしまうのか!?こいつを殺す前に、俺は俺で居られるのか?

  段々と体が言うことを聞かなくなってる。恐らく心にあるあの殺害衝動に体を奪われるだろう。だが、ここで屈する俺ではない!

  カーーーン!ドスン。

  やっと、やっとだ。

「さぁ、命を請うことを許してやろう。だが、聞くかどうかは分からんがな。」

「ヒュー、さすがだぜ、姫様。」

  奴の剣を飛ばし、倒した。

  目の前が真っ赤になってる。心の中にあるあの声がいまだに俺に殺せと囁き続いている。だが、もう終わったんだ。デュランダルは、俺に負けた。

「降参降参っと……だけど、ここで死ぬ俺ではないのでねぇ~」

「貴様……まだ逆らうつもりか?」

「いえ、逃げさせていただきますね。」

「させるかよ!」

  奴が体を上げて、逃げようとした。追撃を加えようとしたが、体が言うことを聞かない。ようやっとあの声が収まった途端、体が言うこと聞かなくなった。

  その同時に、激痛が全身を走った。

「くっ!」

「次に会うときは、もっと万全な態勢で来るから。そこまで生き抜いてくださいね。姫様。」

「き、貴様……!」

  何でだ!何でトドメを刺さない?何で俺に攻撃を仕掛けてこない?俺の体が動かなくなったが、アンタはいけるんだろ、デュランダル!なんでだ、なんでだ!!

「お、お姉さん……?」

「ちっ!お前もお前だ!何で奴を殺さなかった!」

「そ、それが……お姉さんの様子を見て、怖くて、腰が……」

  ちっ!本当、つっかえねぇな!どいつもこいつも!

「まぁ、いい。俺は少しだけ休憩してもらう。お前はさっさとグランバールの奴を探して来い。」

「はい、分かりました!」

  シュッタッタッタと、ガキの歩き音が響いてきた。俺は、そのまま床に倒れて休憩をした。


………………

…………

……

「な、なんだこれ……!?」

  心の中が、恐怖で満たされている。何に対して恐れている?分からない、ただひたすらに恐怖だけが響いてきている。

「くっ!体が、重い……!!」

「師匠も、ですか!こ、これは……そろそろ、やばいのかも、しれないですね……!」

  体が重くなっている。剣を振る腕も段々力が入らなくなっている。

「おい、ゆうしゃさん!大丈夫ですか!」

  横に居る兵士が私に声を掛けた。返事をしたいが、出来なかった。体の重さが限界に達して地べたに倒れた。

「お、おい!誰か、ゆうしゃさんを運んで行ってくれ!」

「は、はい!分かりました!ゆうしゃさん、大丈夫ですか!?」

  必死に目を開けようとしたが、恐怖に満たされた心はそうさせてくれなかった。やがて意識まで重力に負けて、地べたに倒れた。


………………

…………

……

「ふぅ、これで大分治ったか。」

  体がまだ完全に治ったわけじゃないが、動けるようになったし大丈夫だろ。早く、グランバールの野郎を見つけ出して、兵を撤収させないと。

「てか、あのガキ、まだ見つからないの?」

  王宮は広いが、そこまでか?てか、あいつも王宮住みでしたよね?そんなに迷わねぇはずでしょ?……と言っても、こことは大分構造が違うか。

「……ッ!」

  うん?何の音だ?

  ガランガランと、鉄片が地面に落ちた音が響いてきている。どういうことだ?

「誰だ?」

  角を曲げて、その音の源に居る者に剣を向けた。

「ッ!あ、貴女は!」

  そこに居るのはグランバールでした。

「あぁ、姫様、こんなご立派に……!」

「何言ってんだ、アンタ。」

  奴の体に大きな傷が見られる。腹が剣に貫かれた痕が見られる。こいつは、どこで戦って負けたの?こいつを打ち負かせる人って……デュランダル?だが、どういうこと?デュランダルも狂ってたんだろ?どうしてグランバールを倒した?グルじゃなかったの?

「このグランバール、やっと、姫様にまた、お会いできて……大変、嬉しゅうございます……」

「おい、しっかりしろ!何言ってんのかはわからねぇが、しっかりしろ!さっさと兵を撤収させろ!」

「あぁ、姫様……」

「その姫様ってのをやめろ!誰かと間違うな!」

  手を奴の傷口に当てて、力を注入し始めた。だが、こいつはひたすらに姫様姫様っての連呼するだけだった。

  いつものグランバールならプリスティンって呼ぶはずなのに、一体……誰と間違ってるんだ?まぁ、あのガキに聞けば多少な手がかりはもらえるんだろう。

「我は、恐らくもう救えないだろう。だから……姫様。」

「だからその姫様ってのをやめろっていってんだろ?」

「もし、またお父上様……先王様にお会いできたら、申し訳ありませんと、お伝えしていただけないでしょうか……」

「父上?先王?誰のこと?さっぱりだが。」

「あぁ、姫様……」

「おい、しっかりしろ!おい!」

  奴の手が、俺の頬に触れた。触れた途端、力を失って落ちた。


「おい!ふざけるな!勝手に死ぬな!!」

  しかし、彼からの返答はなかった。必死に力を注入しようとしているけど、奴の体から溢れ出す闇の力が一つの真相を示している。

  奴は死んだ。だから力が飛び出して、散り散りになり始めた。

「クソ!父上様?誰のことか教えてくれねぇとわかんねぇぞ!勝手に死ぬな!」

「!!お、お姉さん、そこに居ますか?」

「ガキか!こっちだ!グランバールの治療をしろ!」

「は、はい!」

  廊下の端からガキが出てきた。どうやらガキは通り過ぎたみたいだ。この横にある部屋にガキは入らなかったんだろう。そして、グランバールの血痕はその中から出てきている。このガキ、ちゃんと探せ!


「グランさん……!」

  力を注入しようとしたら、ガキはすぐさま手を戻した。

「グランさんは、すでに……」

「ちっ!なら蘇生(リザレクション)の魔法でも使って、奴の命を取り戻せ!」

「なっ!む、無理です!あの魔法は、至天なる(ケルサス)レベルじゃないと使えません!だから、ボクには……!!」

「あーもう!まったく、とことん使えないやつじゃねぇか!アンタ!仕方ない、お前も一緒に来い!」

  まったく、こいつはいつもいつも……!!足を引っ張ってばっかり!もううんざりだよ!いっそのことこいつを殺すか?そうしたら俺との婚約は解消されるし、敵国であるアリアも滅ぼせるし!

  ……冷静になれ。それだとアリアの他の後継者が攻めてくるだけだ、意味はない。

「どこへ行くのですか?」

「魔族どもを、一匹残らず蹴散らすんだよ!」

「ええ!?で、でも!」

  ガキには酷なのは分かる。だが、そうしなければならない。それかあれか?ガキに試しに魔族どもに命令を下してもらう?それさえできればいいんだが、できるの?このガキに。

「それとも、アンタには魔族共を正気に戻す力があるか?ねぇだろ。」

「……」

  俯いたまま、口を閉じた。

「ちっ、しょうがねぇ。アンタ、しばらくここにいろ。」

「……はい、分かりました。」

  ガキにまた一瞥して、俺はこの場を去った。

  去る前に、小さな声でガキは言った。

「ごめんなさい、グランさん……ボクのせいで……」

  アンタのせいであいつが死んだんじゃねぇよ。俺のせいだよ。と言いたいが、今のあいつは聞き入れられないだろう。


………………

…………

……

「見つけたぞ、こいつか、やはりこいつか!!」

  地下図書室にて、ハイム王が一人で大声を上げた。

「光明魔王、アマドリ=スー!貴様が……!!」

(つづく)

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