第六話=収束を向かえる戦い
段々と夜が近づいてきた。空が徐々に赤く染まって、やがて黒になるんだろう。そんな時でも、私達は人助けに専念している。
「いい加減にしろ!」
と、姫様の罵声が響いた。
目の前には男性の死体がある。その前に跪いているのはラルフ君でした。自分が力を持ってないせいで男は死んだと、いまだに嘆いている。
「ごめんなさい……ごめんなさい……!!」
「だから!こいつが死んだのはアンタのせいじゃねぇっつってんだろうが!」
「ごめんなさい、ごめんなさい!」
「あーもう!いい加減にしろ!!!」
ラルフ君の襟を掴んで、姫様は怒鳴りを入れた。
「こいつが死んだのは、アンタんとこの魔将軍が攻めて来たからだ!だからさっさと立て!前へ進め!グランバールの野郎を止めろ!」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……!!」
私と師匠は、ただ俯いたままだけだった。
私達には、どうしようもない……姫様みたいに強くないし、ラルフ君みたいに優しくもない。ただ、悔しかっただけ。ひたすらに、悔しかっただけ。
「くっ!」
ポツリっと、一粒の涙が零れ落ちた。
………………
…………
……
ちょっと進んで、前に一人の男性が歩いているのを見た。男は鎧を着ているので、恐らく兵士の一人でしょう。
満身創痍の彼を見たラルフ君は、すぐさま前へ行って、彼を支えた。
「大丈夫ですか、兵士さん?」
「あぁ、まだ、大丈夫だ。坊主は?どうしてここに居るの?」
万が一のために、姫様が一枚の麻布を拾って、ラルフ君の特徴的な角と翼を隠してあげた。だから兵士はラルフ君のことを魔族だとは思わなかったのだろう。
「横になって、今から治療するから。」
「あぁ、ありがとう……民間人を護るための兵士が、逆に民間人に助けられるとはねぇ~はっはは……」
「静かに、お願いします。」
「へっ、分かったよ。」
横になった兵士に、ラルフ君は力を展開した。その力は、れっきとした光(ライト)系統の力。魔族なのに、光?これっておかしくないんですか?いくらラルフ君は人族とのハーフだからって、こんな事って普通ありえないんじゃなかったっけ。
「お、こいつはすげぇな、さすが光系統の魔法だ。」
しばらく経過して、治療を終えた男は立ち上がった。ラルフ君は横で汗を拭いた。
「ありがとうな、坊主。だが、ここは危ないから早く外へ行きなさい。」
「いいえ、ダメです。ボクにはまだ、やるべきことがありますので。」
「そいつは大変だろうね。まぁ、せいぜい頑張りな。」
ラルフ君の背中を叩いた。励ますつもりだろう。
「で?どこに行くんだい?おじさんにも付いて行ってもらえねぇか?」
「え、それは……」
ラルフ君はこっちに目を移した。
「なんだ、仲間が居たのか。そいつは心強いでしょう……って!」
兵士もこっちに目を移した。そして隣に居る女性の二人にびっくりした。
「ひ、姫様に、クリア様!こ、これは失礼いたしました!」
「まぁ、減るもんでもねぇし。」
「それより、兵士さんはどうしたんだ?その傷は?」
「こ、これは、その……」
動揺している兵士を見て、姫様が目を逸らした。
「魔族に、攻撃されて、それで……」
「門前の防衛は?どうなったんですか?」
「そ、それが……お、いえ、私は前線の防衛を努めさせていただいておりました。ですが、魔族に突破されて、意識もなくしてた。今すぐにでも王宮へ参るつもりでしたが、どうも傷が予想以上に深刻で……」
「まぁ、よい。それだけアンタは防衛に専念しなかっただけだ。」
「い、いいえ!決してそのようなことは!」
「ならどうして魔族が入ってきてものこのこと戻ってこようとしたんだ!アンタは俺達王族を護るつもりで防衛に参加したんじゃなかったのか!」
「そ、それは……!!」
「言い訳をするな!」
「はいっ!」
「ですが、姫様、彼にも理由があるでしょう。」
「黙れ、ゆ……雑魚が!」
これは完全に私の名前を呼びたくないようです。悲しいけど、しょうがなくも感じた。
彼にも理由があるんでしょう。彼も必死で魔族の侵攻を食い止めたかったんでしょう。だが出来なかった。それでももし、まだ王様の力になれるのかもしれないと思って、精一杯の力で体を引き摺れて王宮へ戻る予定だったんでしょう。
だが、姫様は聞き耳を持たない様子。どうするものか……
「まぁまぁ、プリスティンちゃん、ちょっと落ち着こう、ね?」
「ちっ。で?どうした?どうしてここに居るの?」
「そ、それは……」
兵士さんは淡々とここまでの経歴を話してくれた。
城門を護ろうと前線へ出たものの、大砲で城門が壊されて、彼は破片に頭を打たれて一時的に意識をなくしたが、少し経ったら意識を取り戻したらしい。
幸い、彼が意識を取り戻した時にはまだ魔族が外に居る。だが数はあんまり居なかったみたい。
彼はその魔族たちに攻めて来た理由を問い出そうと思ったが、魔族たちは何も答えなかった。
そして、生気も感じられなかったと、兵士さんは語った。
生気を感じられなかった?どういうこと?
奴らを蹴散らす途中で彼も傷を負ったので、動きが遅くなって、やがて魔族の軍勢に追いつけなくなった。そして、街中でまた意識をなくした。気がついたら、もう周りの建物に火をつけられた。それでも彼は必死に王宮へ行こうとしたが、途中で私達に出くわした。
「魔族の軍勢が、なぜ攻めて来たのかは、残念ながら私にも分かりません。ですが、このまま放置してはならないと、私も分かっております。だから、どうか、姫様たちに私も付いていきたい。」
「ふん。まぁ好きにしろ。」
「あ、ありがとうございます!ありがとうございます!」
繰り返しで礼を言っている兵士を連れて、私達はまた前へ進んだ。仲間がまた一人増えたことに、感謝してもしきれない。
の、はずだったが。
「坊主!戻って来い!」
王宮まであとわずかのところで、私達は魔族と出くわした。魔族の体のあちこちにも大きな傷が見られる。それでも立てられることに驚きながらも、ラルフ君の行動にも驚かされた。
ラルフ君はその魔族を見て、助けたいという気持ちがまた騒ぎ出した。そして前へ走って行って、魔族を助けようとしたところ、魔族が剣を振り下ろした。
「くっ!」
兵士さんは剣を抜いて、魔族の攻撃を防いだ。
彼の言う通り、その魔族からは生気を感じ取れない。
「坊主、早く下がれ!ここはおじさんに任せろ!」
「で、でも!」
「いいから下がれ!姫様、クリア様、ここは私に任せてください!」
「ふん。お手並み拝見と行くか。」
「うん!任せたよ、兵士さん。」
「え、いいの!?」
と、びっくりした私と違って、姫様と師匠は安心して彼の任してもいいと思っているみたい。
相手からは生気を感じ取れないけど、それでも魔族でしょ?任してもいいの?
さっき彼が言っていた、城門の前に居た魔族を蹴散らしてたのは本当とは思うけど……それでも、なんか、安心できない。
「はっ!」
キン!剣を弾いた兵士さんは素早く次の一撃を繰り出そうとした。
「おら!」
バッ!と、兵士さんがその魔族に切りかかって、一撃を見舞った。
「へっ、こんな程度か。」
魔族は倒れた。そしてその魔族を救おうと、ラルフ君が前へ行った。
「おいおい、どういう冗談だ、坊主。敵も救うってんのか?」
「はい。相手は誰であろうとも、助けたいと思っています。だから……」
その魔族に手を当て、力を入れ始めた。相手はすでに死んでいるのかもしれないというのに、どうしてラルフ君は助けようとするんだろう。
「いくら坊主でも無理じゃないの?相手はすでに死んでいるんだろ?」
「いいえ、彼はまだ死んでおりません。だから、ボクには救う理由があるはず。」
「たまげたなぁ。」
やれやれと、兵士さんが手を振った。
少し経過して、魔族が動き出した。
「マジかよ、本当にまだ生きていたとは。」
まさか本当にまだ生きているとは、これが魔族の生命力か?
だが、様子がおかしい。魔族の手は、相変わらず剣を握っている。そして、急にーー!
「坊主、危ない!」
「ッ!」
ダメだ、今行っても間に合わない!それに、今剣を抜いて魔族の剣を防ごうともラルフ君が近すぎた!これじゃあラルフ君にも当たってしまう!
どうする?どうする!?
と、まだ考えている私達三人と違って、兵士さんは前へ走った。ラルフ君を助けた。
「くっ!!いってぇなぁ、おい。」
ラルフ君を後に投げ飛ばして、自分が代わりに魔族の剣を受け入れた。剣が、兵士さんの体を貫き通した。
「おいおい、それがアンタを救った魔王への礼儀か!この下種が!」
兵士さんも剣を取って、魔族の心臓に向けて、突き刺した。
魔王……!?兵士さんは、知っていたのか!?ラルフ君のことを!?
「あ、あああ!!兵士さん!兵士さん!大丈夫ですか!今すぐ治療しますから、耐えてください!!」
魔族が倒れて、兵士さんも倒れた。そして、またしても治療すること以外頭にないラルフ君が前へ行った。急いで兵士さんの治療をしようとしているが、さっきのあの一撃の当たり所が……悪すぎた。
魔族は死んだ、今度こそ。心臓を貫かれて、今度こそ死んだ。その同時に兵士さんも……致命傷を当てられて、もうすぐこの世を去りそうだ。
「へっ、いいんだよ、おじさんは死ぬから。」
「そ、そんなこと言わないでください!兵士さんはボクを護ろうとしたから、そんな兵士さんなら神様も見捨てないはずです!」
「神、ねぇ……けっけっけ……」
「これ以上喋らないでください!傷口が広がってしまいます!」
「大丈夫だから、おじさんはもう……死ぬから。」
「そ、そんな事はありません!大丈夫、絶対大丈夫から!」
「ちぇ、さすが魔王『ラルフ=ハーモス』だ。諦めが悪いね。」
「いいから喋らないでください、これ以上は!!」
兵士さんの傷口から血が溢れ出している。血が、地面を赤く染めている。
兵士さんはもう……死んでしまうでしょう。だけど、ラルフ君は諦めようとせずに、ひたすらに力を注入している。
「ボクなんかのために、どうして……!!生きてください、お願いします。生きて居てください!」
「……」
兵士さんの口からは、やがて声が出なくなり、目を閉じようとしている。
「いや、いやだ……!!もっと、もっと光の力を……!!」
「おい……」
「お願いだ、お願いします、神様!彼を、救ってください……!」
「やめろ!!」
兵士さんの目が閉じた。血はいまだに溢れ出している。兵士さんはこんな運命を受け入れたんでしょう。だが、ラルフ君はどうしても受け入れたくないようだ。
「ごめんなさい……ごめんなさい、ごめんなさい……!!」
やがて、ラルフ君は泣き出した。
………………
…………
……
そのとき、王宮にて。いまだに死闘を繰り返している二人にようやく、終わりが訪れた。
「そろそろ倒れろ!グラン!」
「くっ!やはり、我の力だけでは太刀打ちできないのか!」
魔将軍グランバールは諦めようとした。それも神の意思だろうと悟った。
「あぁ、神よ。貴方様は我を見捨てるのか!」
「神なんかもういねぇよ!!いい加減目を覚ませ!その力を外に出せ、そうすれば助けてやるから!」
「あぁ、神よ……」
グランバールは剣を捨てて、窓に向かって跪いた。
「何のマネだ。」
「神よ、我は貴方様の命に従った。これで貴方様も満足するんでしょう。」
「ええ、これで神様も満足するのであろう。」
「!?誰だ!」
突然、出てきた小さなメイドに、デュランダルは驚いている。
「あぁ、貴女様が神の使者ですか。我を向かいに来てくれたのか。」
「待って、グラン!奴に近づくな!」
「グランバール様、貴方の使命は果たされました。」
「おい、グランから離れろ!」
「これからは、デュランダル様、貴方の番です。」
「あぁ、神よ……」
グランバールはメイドに向いた。小さなメイドは右手をグランバールの頭の上に置いて、赤い玉を抽出した。それを抽出されたグランバールは、倒れた。
それは恐らく、魂というものだとデュランダルは思った。
「ッ!?居ない、どこだ!」
雷光と共に、メイドの姿は消えた。周りの空気を感知(サーチ)して、デュランダルはメイドが居ないことを分かったらグランバールのところへ走った。
「おい、グラン!しっかりしろ!グラン!!」
「ッ!こ、ここは?お前は……デュラン?我は、どうしてここに?」
「よかった、気づいたのか!早く、早く兵を撤収しろ!」
「兵?どういうこと?クッ!体が、痛む!」
「治療するから、終わったら話そう。とにかく、今は喋るな。」
グランバールの傷に向けて力を注入しようとした。さすがに光系統ほどには行かないが、応急処置としてのヒールなら、デュランダルも出来る。
だが、それは致命的だった。
「ッ!お前は!」
「クスクス……油断しましたわね、デュランダル様。」
また現れたメイドに向けて、剣を抜こうとしたが、すでに遅かった。
「おまッ、何を……!!」
何かが、入ってくると感じたデュランダルは必死に堪えようとしたが、それも無駄に終わった。
「貴女、デュランに何をした!」
「クスクス……大したことではありませんよ、グランバール様。これも……」
ちょっと間をおいて、メイドがまた言い出した。
「神様の遊戯の一つに過ぎませんので。」
満面の笑みを出した。そんな彼女を見たグランバールは、心の底から恐怖を感じた。
言い終えたら、メイドはまた消えた。今度こそ完全に、この城を去ったのだろう。
「デュラン、大丈夫か?」
さっきまで自分を治療しようとしたデュランダルに向けて、グランバールは何度か呼び覚まそうとした。
やがて、デュランダルは起きた。だが、さっきとはまるで別人になった。
「ッ!!デュラン、どうして!?」
グランバールの体が、デュランダルの剣に貫かれた。そして、小さな声で言った。
「すべては、神様の仰せのままに。」
その瞬間、大きな雷が落ちてきた。
(つづく)
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