第三話=神?の託宣

エリハイア王国―ハイム暦36年魔月王日―


  この日の夜、ゆうしゃは奇妙な夢を見る。彼にとってそれは「天の告げ」だが、他人にとってはただの妄言。彼はそんな天の告げを信じ、生きてきた。ゆえに、今更それを否定しようともせず、無条件的に受け入れている。

  彼は夢を見る。そのたび、起きたら最初に夢の内容を思い出し、それを脳内に留める。

「……しゃ……」

  誰かが、私の名前を呼んでいる。

  目を開けて、周りは暗闇。今どこに居るかは分からない。そして、これは夢?天の告げ?どっちだ。今までとは大分違うから、どっちなのかは分からない……

「ゆうしゃ、こっちにくるのです。」

「分かりました、神様。」

  体は言うことを聞かずに、前へ進んだ。相変わらず暗闇だらけでどこへ向かってるのか、さらには自分の目は開いてるのかどうかすらわからない。

  神……様?

  なるほど、これは天の告げですか。神様は私に何を伝えようとしてるのだろうか。まぁ、すべては神様に会えば分かるだろう。

  恐らく、この先に神様が居るんだろう。迷わず進むか。……と言っても、体が言うことを聞かないがな。

「くっ!」

  どれくらい進んだのかはわからないが、目の前が急に光り出した。その強烈な光のせいで目を閉じて、少し後ずさりもしてしまった。

「良く来た、ゆうしゃ。」

  目の前に突如的に、一人の女性が現れた。

  全身は白いロープに覆われ、頭には草冠、両手両足には何の装飾もなく。彼女こそが、神様でしょう。そんな彼女を見て、私は跪いた。

「そう畏まらなくてよい、ゆうしゃ。」

「いえ、そういうわけには参りません。貴女様は神で、私はただの凡人。身分の差は明白でございます。」

「……」

  しばらくの沈黙。やがて、神様は再び口を開いた。

「ゆうしゃ、君に試練を与えましょう。」

「はっ!」

  試練……神様直々下した試練。それだけで心を躍らせた。

「貴方には、ある人物と接触するよう命じる。その「ある人物」は……」

  また、しばらく沈黙。私は神様の言葉を待ち、その間も顔を上げずに地面に向いてる。

「その存在を、人々は『光明魔王』と呼び、恐れている。」

  こ、光明魔王!?え、どういうこと?あの方に会いに行けって、え、どういうこと?

神様は私に「死ね」って言ってるのか!?

「……畏まりました。」

「では、行きなさい。」

  それでも、相手は神様だ。きっと、何らかの理由があるのだろう。

「しかし、かの者は傲慢で、傍若無人で、悪逆非道と、人の世でそう伝わっております。神様は何故私に彼に会いに行けと……」

「まさか、私に口答えするとは……」

「い、いえ!滅相もございません!」

「……いいでしょう、その気魄に免じて、教えて差し上げましょう。」

  そして、神様が言った言葉に、私の脳があんまり上手に理解できませんでした。

「彼を、殺せ。」

………………

…………

……

エリハイア王国―ハイム暦36年魔月妃日―


「はっ!」

  ど、どういうこと?さっきのは?なんだったの?

  天の告げを受けて、ようやく目が覚ました。必死にさっき夢の中での出来事を思い出し、整理しようとする。

「『彼女』を、殺せ……?その彼女とは?」

  さらに思い出そうとして、ようやっと答が出た。

「『プリスティン=エリハイア』を、殺せ……!!」

  思い出して、背筋が冷え込んでいた。

  ど、どうしてだ?どうして神様は私に姫様を殺せと命じたんだ?姫様は横暴だけど、悪い人ではないといわれてるから、何かの間違いでしょう。

「だ、だけど!夢の中では、神様は確かな声で……!」

  「彼女を、殺せ」と、神様が言ってた。なんでだ!?

  こんなのおかしい!こんなのは絶対にありえない!

  相手はただの平民であれば迷わず殺すが、相手は王族!しかも、私が想いを寄せてる者……!どういうことだ、一体どういうことだ!

「クソッ!」

  ドン!と、壁を叩いて気晴らしをしようとしたが、全然晴れそうにない。それでもベッドから降りて、朝食の支度をし始めた。

  頭の中はそのことばかりで、朝食の支度すら上手く行かず。

「クソッ!」

  何度も失敗したパンケーキに、暴言を吐いた。朝食の支度が終わって、時計を見たらすでに9時になってた。いつもより20分くらい遅れてる。

  イライラした気持ちで、師匠を起こし、二人で一緒に食事をした。食事中は師匠に何回かイライラしてる原因を聞かれたけれど、私はそれに答えなかった。そもそも答えられなかった。

  今日の修練を始めた。朝食のとき同様、師匠にまた原因を聞かれた。それでも私は答えない。答えたい気持ちでいっぱいだけど、答えてしまったら、師匠に師匠をしていただいてる理由がなくなる。

  私がこの人に、師匠になっていただいてる理由は、強くなって姫様の目を奪おうとしたことだ。なのに、彼女を殺さなければならないだなんておかしい!

「くっ!」

「やれやれ。集中して、ゆうしゃ君。機嫌が悪い原因を言いたくないのはまぁ、許してあげる。だけど、修練にまで影響を及ぶなら……」

「うっ!」

  凄い気魄だ!師匠からとてつもない殺気を感じた。

「無理やりにでも、言ってもらうよ。」

  剣を構えて、師匠は私に向かって走ってきた。

  シュ!シュ!カッ!カッ!と、師匠の剣が音を立てて迫ってきてる。けれど、私は反すところか、避けるのに精一杯だ。

  シュ!シュ!カッ!カッ!と、またまた迫ってきてる。今度は髪にちょっと触れられた。このままではダメだ。反さなきゃ。だけど……!

  速い!

  さすが剣の達人とまで言われていた人だ。鋭さも、速さも、なにもかも凄い!持ってるのは本物ではなくて、木製である事には感謝してもしきれない!

  シュ!師匠の剣が、私の死角を狙って振って来た。

  だ、ダメだ!これは、反せない……!!

「殺せ。」

  突然、頭の中に浮かんできた声。その瞬間、周りの時間が遅くなったように感じて、体は自分のものでなくなったかのように、勝手に師匠に攻撃を見舞えた。

「うっ!ぐ……!!」

  気がつけば師匠は、剣を飛ばされて、草地に膝を着いて、必死に痛みを堪えようとしてる。自分の手に持ってる木剣に目を移したら、そこには……

「うっ、うわぁぁぁぁ!」

  先端には少し血が付いてる。私の体に異様はないが、師匠は攻撃を受けて跪いてる……その血の来由がはっきり分かる。

「ど、どうしたんですか、師匠!」

「い、いって……!」

「あ、あわわ、み、見せてください師匠!傷を見せてください!すぐに応急措置を取りますから!」

「はぁはぁ……うぐっ!ちっ!使えないな、アタシ……師匠なのに……」

「今はそういうことを言ってる場合ではありません!速く、速く傷を見せて!薬草を貼るから!」

「くっ……!」

  そして、やっと手を退かして、傷を見せてくれた。服の一部は破れて、師匠の体が見えるようになった。そこには浅はかだが横長い傷がある。それを治療すべく、ポケットから薬草を取り出して、唾を少しつけて貼った。

「これでしばらく休めば治るはず。」

「はっ、はは!木剣でよかったね!本物の剣だったら今頃あの世行きだろうね!ははっ!」

「笑わないでください!まったくもう……すみません、私のせいで。」

「……」

「師匠?」

  何かを考えているようだ。師匠にしては珍しい。

 それから少し時間が過ぎて、師匠は沈黙のまま。何度か話しかけたが、何も答えずに、俯いたまま。何かを考えているようだ。

「な、ゆうしゃ君。」

「はい、どうしました?」

  そして、いきなり口を開けた。

「さっきのは、なんだったんだ?なんでいきなり目が真っ赤になって、力も使えたの?」

「え?」

「え?じゃないでしょ。お前さ、アタシに何か隠してない?不機嫌の原因といい、いきなり使ってきた訳の分からない力といい。お前、アタシになにを、隠してるんだ?」

「そう、ですね……では、言わせていただきます。昨日の夜、私が受けた、天の告げを。」

  師匠に吐き出した。昨日の夜に頂いた天の告げ。そして、あの時起こったことを。

  正直言ってなにが起こったのかは私も分からなかった。だけど、あの声は明晰的だ。何者かが私に師匠を殺せって言った。

「うむ……どういうことですかねー」

「え!?」

「夢?天の告げ?まぁどっちでもいいや。あれはひとまず置いとく。さっきあの瞬間、ゆうしゃ君の身に起こったことは、私にも分からない。ゆうしゃ君があの時、凄い力を使った。それはゆうしゃ君の力ではないだよね?」

「はい、恐らく……」

  私の力は普通な風(ジ・ウィンド)だから、それほどの力を持っておらずので、こうして剣技を磨いて、補おうとしてる。だけど、さっきの力は……

「さっきのはなんだったんでしょうね……世間を歩いて十数年は経ったが、見たこともない。力を使って防いで見たが、完全に防ぎきれなかった。」

「ちなみに、師匠の力は?」

「え?昔、言わなかったっけ?」

 うーむ……どうなんだろうね、良く覚えてない……師匠は確か永劫レベルだったはず……なに系統かは思い出せない。

「アタシの力は『永劫なる激流(エターナルウォーターフォール)』。体に注げばほぼすべての攻撃を水のように流せる。」

  なるほど……さっきの私の攻撃を水に流そうとしてたのに、完全に流しきれなかった。つまり、あの私の攻撃に付与された力は、永劫レベル以上の攻撃だった、ってことになる……うん?そういや、ここらへんのことをほとんど思い出せない……永劫以上になにがあったっけ、それ以下になにがあったっけ……ついでだ、師匠に聞いてみるか。

「すみません、師匠。」

「うん?」

「……『力』について、詳しく教えていただけませんか?」

「りょうか……へ?詳しく?具体的になにを説明すればいいの?」

「うーむ……そうだな、レベルについて教えていただければ。」

「はぁ……」

  傷口を押さえながらも、師匠は立ち上がった。

「まずは、最下位の『最低なる(ヘターナル)』ですかな。それ以下はないはず。」

  最低なる……確かに、文字から聞くとダメダメってことは良くわかる。

「次に、ゆうしゃ君が所有してるはずの『普通な(ザ・ジ)』だよ。」

  うん……つまり、さっきの私が出した力は、普通な力ではない、てことでいいのかな。だって、師匠がまだ言及してない永劫なるはさらに上……その力さえも凌駕するほどの力が、普通な力であるはずがない。

「次に『煌く(シャイニング)』、さらに『栄光ある(グローリー)』、それの次はアタシが所有してる、『永劫なる(エターナル)』。そして最高級の『至天なる(ケルサス)』です。これで分かった?」

「うん、良くわかりました!」

  と、いうことは……さっきの私が使った力は……至天の力!?嘘でしょ、私が、そんな力を持ってるわけないでしょ!?

「で?系統とかについては説明したくないが……理由は、多すぎる。」

「系統?」

「まったく……」

  コン!と、私の頭に師匠のが拳を下ろして、重たい音が響いた。

「説明したくないって言ったんだろ?二度も言わせるな。」

「はい……ですが、系統ってのは四元素だけではないんですか?」

「だーかーらー!あぁ、もう!四元素以外多すぎるから説明したくないんだよ!」

「あはは……そうですか。ありがとうございます。」

「ふーむ……だけど。」

  いきなり深刻な表情になって、師匠はまた座った。

  師匠の顔を見れば分かるほど、さっきの私が使った力はあまりにも異質的なものだと分かってしまう。

「さっきのゆうしゃ君が使った力は、どの系統の力でもないかもしれない。」

「え?」

  世間を歩き回ってた師匠ですら知らないっていうことは……もしかして、初の系統だったり?

  だがなぁ、あんまり喜べないかもしれないな。だって、あれは私のものではないし。仮に私のものだとしても、使い方が良くわからないし。

「ん?」

  師匠は右手で私の頭撫でた。

  そして、急に驚いた表情になった。

「ウソだろ……」

  と、小声で言った。

  ウソ?なにが?なにが師匠をそんなに驚かしたんだ?

「……どうかしましたか?」

  それに、なんでいきなり私の頭を撫でたの?

「そ、そんなの……ありえない……ありえるはずがない……!!」

  師匠はいきなりぶつぶつ言い始めた。頭を抱えながらぶつぶつ言い始めた。一体どうしたんだろうか、師匠……

  自分で頭を撫でて、確認してみたが、何もなかったはずなのに、師匠はひどく混乱してる……一体どうしたのでしょうか……

「師匠?ねぇ、師匠ってば!」

  師匠を揺さぶって、正気を取り戻させようとしてる。

「あっ、あぁ!どうしたんだい、ゆうしゃ君?」

「一体どうしっちゃったの?」

「いや、なんでもない、なんでもないの……ははは……」

  強がってるのは考えなくても分かるほど明白で、そしてそれを隠そうとしてるが、隠し切れない師匠……

「す、すまん。ちょっと、一人に居させてくれ。少しだけでいいから。ね?」

「あっ、はい。分かりました。では、私、ちょっと昼食の支度をしてきますね。」

「あ、あぁ、そうしてくれ。今は、そうしてくれ……」

  おかしな師匠をここで一人にするのはちょっと心が痛むが、まぁ師匠はこれでも剣の達人だから、大丈夫でしょ。

  木剣をしまって、家の中に帰った。師匠の木剣はそのまま置いたのは、万が一、師匠を狙う人が偶然通りかかったら師匠に防身用にと置いてきた。なんせ、ここは野外だからな。家のすぐ側ではあるが。

  家に帰った私は、必死になってさっきの声を思い出そうとした。

  あの声は聞いたことがない。そして、あの時周りの時間の流れが遅くなったと感じた。あの声の主は誰だ?そして、なんで私の脳の中に浮かんだのだ?

  ……もしかして……

  あの声は、もしかしたら、神だったのかもしれない。あの日のように、神が脳の中に直接響かせた声なのかもしれない……

  しかし、どうして?

  どうして私ですか?状況から推測すると、恐らく師匠は聞こえなかったはず。どうして私でしょうか……あの声は男性の声で、女性の声ではないから、昨日の夜に告げを下さった神様ではないはず。そのものは一体……

  さらに、どうした私の体は勝手に動いてた?時間の流れが遅くなったのも感じたし……まるで、私の体が奪われてたみたい。いやいや、そんなはずはない。

  思考中の私を妨げようとするように、師匠が慌てて入ってきた。

「ゆうしゃ君、大変だ!」

「ど、どうしたんですか、師匠。そんなに慌てて。」

「ま、魔族が……」

  魔族?……いやな予感。

  師匠の話が終わる前に、遠いところからでかい爆発音が響いてきた。

  ドスン!!と、耳膜が破れそうな音が、この街から離れた土地にある師匠の家まで届いた。

「魔族が……攻めて来た!!」

「なっ!なんだと!?」

  急いで外に出たら、街のほうから黒い煙幕が上がって、爆発音が絶えなく響いてくる。

………………

…………

……


「くっくっく……そう来なくてはな、グランバール……」

  そんな状況を見て、楽しむ存在があった。

「やれやれ……お前、いくらでもやりすぎだろ。」

「ちっ、っんだよ、ケンさん。それでも魔王か?」

「魔王、ねぇ……俺様なんかより、お前のほうがよっぽど魔王だと思うけど、スー?」

「くっくっく……だから『この世界』では、光明魔王と名乗ってるのでは?」

「やれやれ……」

  二つの存在の談話を、静かに見ていた人族の女の子が居る。

「アンタら、そろそろ帰る時間だろ?このままだとあたし達の居る場所が感知される。」

「はいはーい、さてと、そろそろ帰るかな。」

「やれやれ……」

「その前に……」

  金色の髪をして、赤い目をしてるその人族の女の子が、急に武器を抜いた。

「滅ッ!」

「っ!!」

  声も発せずに、三つの存在の談話を盗み聞きしていた人族の首が、地面に落ちてしまった。

「ひゅーなっちゃんの剣術はいつ見てもすばらしいね。だよな、ケンさん。」

「ふん。人族の癖によくやるとは思う。」

「こらこら~素直に褒めてあげてよ~」

「やめろ!褒められたくて剣術を学んだわけじゃない、スー。」

「ちぇー。まぁ、これ以上はさすがに不味いのかね。では、帰るか。」

  三つの存在が、エリハイア城を一目見て、突然に消えた。まるで、「最初からそこに居なかった」ように。

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