第9話 逃避
感情と言うのは何だろうか。
正直言って、俺も分からない。
羽島には悪いけど、俺も.....感情を失った事が有るから。
何で失ったのかって?
それは.....親父を亡くしてから。
親父は自殺したから。
だからだろうな。
それ以来.....傷が重くて。
でも、高木、高島やみんなに支えられて今が有る。
「.....」
夜道。
俺は自宅を見ながら、懐かしい思い出を思い出す。
親父と.....水遊びをした事を。
何でだよ。
「お兄ちゃん?」
目の前を見ると、玄関を開けて。
花梨が立っていた。
さくらんぼの髪留めを揺らしながら。
「.....大丈夫?」
「.....ああ。大丈夫さ」
「.....お父さんの事.....?」
言われ、ギクッと少しだけ背筋が凍りそうになった。
俺は首を振って、花梨の手を握る。
そして笑みを浮かべた。
「.....違うからな。大丈夫」
そう?と不安そうな顔を見せる、花梨。
そうだ、俺は兄貴だ。
だからコイツらを.....支えないといけない。
そう、何が有っても、だ。
☆
翌日になって。
俺は学校に自転車を押しながら向かう。
そして恥じらっていた。
昨日の.....アレは無いだろ俺。
何だよ一生守りますって。
巫山戯んなよ小っ恥ずかしいわマジで.....。
「.....!」
歩いていると、目の前に羽島が見えた。
俺は手を上げて挨拶をする。
すると羽島は俺を見て。
「.....!!!!!」
ビックリ仰天しながら、猛スピードで走って行った。
え.....
.....え?あ、あれ?
俺は少しだけ凍り付きながら、唖然とした。
「おーい?飯島.....うわ!?何じゃこりゃ!?」
「おお!?どうした?飯島が凍ってんぞ」
正直言って、高木と高島の声が入って来なかった。
それぐらい、ショックで。
俺は打ち拉がれていた。
「.....おーい。飯島。起きろー?」
「飯島?」
頭を叩かれた。
ってか何すんだ!
俺は怒りながら、高島を見る。
高島は視線を前にして、羽島を見つめていた。
「.....何か有ったのか?」
「.....いや、思い当たる節が無い.....」
「喧嘩したのか?イェイ」
「殺すぞ高木」
高木め。
おちょくりやがって。
俺はその様に思いながらもマジなショックで足が鈍っていた。
☆
声を掛ける→逃げる。
羽島とはこの繰り返しだった。
まるで俺を避けている様な.....。
何だ.....俺は何をした!?
「.....嫌われたんだろうな。お前♪」
「嬉しそうに言うな」
「そうだぜ。高木。何だろうな。マジに」
♪マークを付ける馬鹿と違って真面目に考える、高島。
俺は顎に手を添える。
何だろう、本当に。
廊下で俺は考えるが.....何も思い出さない。
「.....真面目にお前は何もして無いんだろ?」
「.....そうだ。俺が羽島に嫌われる理由が無い」
「.....うーん」
高島は考える。
ってか、羽島が逃げる、そのせいで今日の昼飯も手作り弁当を逃した。
俺はクゥと少し切ない声を上げる。
本当に悲しい。
「.....正直言って、アイツ、逃げる度に何だか赤面してんぞ」
高木がその様に言う。
マジでか?
そして高木は俺にジト目で見てくる。
「.....お前、エッチな事を.....」
「するかボケ!」
「じゃあ一体何だってんだ」
「.....」
正直、コイツらに話して良いだろうか。
俺が羽島に告白されたって事を。
でもな.....。
(普通が良いです)
「.....」
普通か。
俺は考えて高木と高島に向いた。
そして言葉を発する。
「.....ごめんな。嫌いな事をしたかも」
「.....そうか?」
「ああ。迷惑掛けてんな。お前ら」
その時だ。
キーンコーンカーンコーンとチャイムが鳴った。
俺と高木と高島はオッと言って。
直ぐに教室に戻る。
「次、何だっけ?」
「.....あれ?数学じゃ無かったか?」
「ああ、そうだわ」
俺は振り返って廊下を見る。
羽島は俺達の元に戻っては来なかった。
俺は溜息を吐く。
☆
俺達は部活をしてから帰宅の途についた。
残念ながら、羽島は居ない。
俺はますます不安になってきた。
こんなに羽島に避けられる理由が.....。
「.....ん?」
玄関を開けると、靴が.....有った。
俺の学校の靴、ローファーだ。
誰か来てんのか?
「あ、兄貴」
「よお花凛。誰か来てるのか?」
「え?兄貴の恋人じゃ無いの?あの人」
「.....は?」
まさかの衝撃的な言葉だった。
俺は直ぐに廊下を走って行き、そしてリビングを見た。
そこに、羽島が居た。
更にちやほやしている、母さん、飯島千穂(イイジマチホ)も居る。
「.....おま.....何やってんだ!?!??」
「.....話に来た」
「.....そうだけど!学校で.....会ってたよな!?」
「お帰り!さーくん。.....えっと、この子、さーくんの彼女さんだよね?とっても可愛い!」
ニコニコしながら話す、金髪ヘアーの母親。
さーくんってのは母さんが俺を呼ぶ際の呼び名。
実の所、母さんは35歳。
まだピッチピチの母親なのだ。
「えと.....お母さん.....愉快だね」
「.....いや、まぁ.....」
「ねぇねぇ!お兄ちゃんの何処が気に入ったの!?顔?気持ち!?」
か、花梨!
直球か!!!!?
俺は赤面しながら、羽島を見る。
羽島は.....俯いて小さくぽしょぽしょと答えた。
「.....全部、格好良い」
「「え!?きゃー!!!」」
「.....!!!」
羽島の言葉に耳まで真っ赤になる俺。
悲鳴を上げる、花梨と母さん。
まさかの言葉だった。
「.....えと.....三朗くんは格好良いから」
「.....おま.....」
俺はマジで居心地の悪い様にしていると。
母さんが更にとんでも無い事を言った。
羽島の手を握って、だ。
ニコニコしている。
「今日は泊まって行ってね!さーくんの彼女さん♪」
「母さん!!!!?」
「え.....え?」
羽島は赤面でおどおどした。
それを更に妹達が囲む。
まるで逃がさないという感じで。
「うん!泊まっていって!もっとお姉ちゃんの事知りたい!」
「兄貴が気に入られたんだから.....ね」
「お前ら!」
えと.....じゃ、じゃあ泊まって.....行こうかな。
と、羽島は俺を俯き加減で見てくる。
か、可愛いんだけど、ま、ま、マジで?
羽島が.....俺の家に?
「あ、じゃあ、羽島ちゃんはさーくんと一緒に風呂には.....」
「母さん!!!!!」
流石にそれは思いっきり止めた。
なんて事を言うんだ!
割とガチな目を羽島はしているし!
俺は汗をかきながら大暴れした。
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